再開もしくは初めまして
佐藤さんが寝て約一時間が経過した。僕が必死に考えを巡らせている所に、忘れようの無いの少女の声が聞こえた。
「はい、ブランケット」
そう昨日屋上で会った彼女は言うと、佐藤さんを起こさないようにゆっくりと丁寧に掛けていた。そのおかげか佐藤さんは身じろぎをしたがさっきより幸せそうな顔をして寝ていた。そんな佐藤さんの様子を優しげに見つめていた少女に僕は感謝の言葉を口にした
「持ってきてくれてありがとう、流石にこの体勢だと動けなくて困ってたところなんだ」
彼女は僕にもたれ掛かって寝ている佐藤さんを見ると返答する
「そうでしょうね、役に立ってよかったわ。あと突然だけど昨日、私と話した人を知ってる?」
私と話した人は知ってる?という彼女の唐突な言葉に違和感を感じた。いくら僕の顔が平凡だったとしても昨日話した相手の顔を忘れるということは無いはずだ、、、まるで今日会ったのが初めてみたいな言い方だった。さらに昨日と若干、口調も違っている。
「私、少し事情があってその人を捜してるのよ。病室がここらへんって書いてあったから通りがけに
あんた達を見かけたの。だから盗み聞きも盗み見もしてないわ。」
そう彼女は弁解するかのように言う。弁解の言葉より彼女から感じる違和感が僕にとって気に掛かる。何故、先に話した人を捜していると言ったのだろうか。単純な言い間違えとは違う。余程気が立っていなかったら、こんな恥ずかしい現場を見て先に弁解の言葉を言っていたはずだ。もしくは単なる自己中か。自己中だった場合、ブランケットなど用意しないでこちらに聞いていたはずだ。僕はそこまで考えてとりあえず質問にだけは返答をしといた
「昨日、君と話していたのは僕だよ。そこまで僕の顔って忘れられられやすいかな。」
困ったようにそういって笑う僕に彼女は呆然とし、次の瞬間にはさっきまで自分の感情に蓋をしていたかのように彼女は様変わりをして怒り狂っていた
「あんたが私たちを引き留めたのね!!!」
それはただただ透明で純粋な悪意だった---
「あんたのせいで!」
悪意なはずなのに、彼女のそれは違った---
「私たちは終われなかった!!!」
自分自身の無力に対する怒り、やるせなさ、後悔、大半がそれだった---
「絶対に許さない」
彼女の言っている言葉は、自分自身に言い聞かせているようで、寂しそうで---
「憎んでやる!!!」
彼女の最後の言葉をトリガーに僕の体は思い出したかのように震え始めた。もう僕の口、喉、足、その他部位まで言う事を聞かない。だけど僕は彼女に聞いておきたいことがあった。
「わ、、たし、、、、ぁたち、、、、、、ってどぉ、、、、いぅ、、こと?」
僕の喉、口は言う事を聞かないせいで情けないほど声が震える。だけど辛うじて聞き取ることが出来る程度には言葉を発せた。だけどそれが限界だ、無理したせいで息は切れ、顔は青ざめてる、他人から見たら直ぐに病院を勧めるレベルでいろいろと見た目がまずい。いつの間に起きていた佐藤さんが僕の顔を見て青ざめてる。やっぱり見た目が相当不味いらしい。僕の事よりも彼女だ。
僕が言った事で彼女は心なしか僕よりも青ざめている。
「私、、、こんな事を言うつもりじゃ、、ただ聞きたかっただけなのに、、」
彼女はそう言い残し、駆けて病室を出て行った。彼女が出て行った後、僕は佐藤さんにおずおずと話しかけられた。
「石弥君、体調は大丈夫かな?」
まだ体は震えていて体も思うように動かせないが佐藤さんの様子を見ると僕の顔色もちょっとだけマシになってるみたいだ。とりあえず体の調子を試すために声を出してみようかな。
「だい、、ぶ、、、ましに、、なった、、よ」
さっきよりも大分楽に声を出せた。しばらくしたら落ち着くだろうけどうまく体が動かせないのはどうしてももどかしく感じてしまう。そんな事より言うべき事がある。この場で一番重要な事だ。
「佐藤、、さん、、、の、、寝顔、、、、、可愛かった、、、、、よ」
僕の場違いな言葉に佐藤さんは一気に顔を赤くしてしまった。急須でお茶でも沸かせそうだ。
僕が言ったことで急に思い出して恥ずかしくなったんだろう。どっかの幼馴染も乙女の寝顔は貴重
なのよ!みたいな事言ってたし。感想としてはうむ、可愛い。しかも佐藤さんはなんとかいいわけしようと「ええと」とか「へぅ」とか言って、羞恥で頭が回っていない。その結果言った言葉はさらに場違いな言葉になった。
「お世話になりました!!!」
慌ててそう言って病室を風のように出て行ってしまった。ふむ、あれが戦略的撤退というやつか。自分でも違うと思う。羞恥のあまりの逃走が正しいかな。何とかさっきの事は誤魔化せたし、、、うん、、きっと、、めいびー。誤魔化せたと信じよう、これ以上考えると思考の泥沼にはまりそう。僕は病室の窓から外の景色を見て、昨日、彼女が言っていた言葉とともにあの夕日に染まったさびしげな顔を思い出していた。
‘‘私には全てが灰色そして異物に感じる‘‘
‘‘人も、鳥も、親も、全てが灰色に見える‘‘
‘‘そのたびにこう思うの‘‘
「自分はこの世界で異物だと」
こぼれた言葉と連動し僕の思考はどうしても違和感を拭えなかった。昨日の彼女と今日の彼女とではあまりに差異がありすぎた。昨日の彼女は言動からなにまで不思議な子だった。そして今日の彼女は佐藤さんを見ていた目や、ブランケットを持ってきてくれた気遣いから優しく、他人を思いやれる子だという事がわかる。何から何まで見た目は同じだったのに違う。双子の姉妹?いや、違う、それにしては似すぎだ。昨日の彼女のさびしげな顔と今日の彼女の病室を出て行った時の苦痛な顔が脳裏をよぎった。
「そういえば彼女の悲しそうな表情しか見たこと無いな。」
なぜそう思ったかはわからない。けど一人の「僕」として彼女の笑顔や嬉しそうな表情を見てみたいとそう思った。




