それはとある日常で。
とある日の事。
俺は何時ものように自転車を漕いでいた。そう、学校に行くため。
それ以上でもそれ以下でもなく、ただ学校にいくと言う行為のために自転車を漕いでいた。
「それでは、授業を始める」
何時ものように授業が始まる。とっても退屈の極みな日常なのだ。
それは何時ものように自転車を漕いでいた時の事。
最近、自転車の交通ルールが改正されたなー、と思いつつ特にやることもなく自転車を漕いでいた。そんなある日の事である。
「た、助けてください! お願いします!」
突然女の子に声をかけられた。
コミ症な僕は、どうしたら良いのか分からなかった。
ただ、一つ思ったこと。それは、この子に危険が迫っている。そして、今助けられるのは僕だけだと。
すると、女の子の後ろからガタイの良い男が迫ってきている。
「早く自転車の荷台に乗って!!」
「で、でも......そんなことしていいんですか? 警察に見つかったら......」
「そんなこと、どうでもいいよ!! それよりもキミを助けることの方が大切だ!」
女の子はこれ以上言うのはムダと悟ったのか、急いで荷台に乗り込んだ。
男に捕まらないように急いでこぎ出す。
暫く走っていると、男姿は見えなくなった。
「あ、あのー。もう降りた方が......」
「いや、まだだ。 まだ近くに男が居るかもしれない。しかし、キミはなんであの男に終われているんだ?
」
俺は気になったことを、率直に告げた。
女の子にとっては余り思い出したくない事かも知れない。だが、聞かない事には解決すらできない。
「実は、あの男に拉致されてたんです。隙を見て逃げ出しました。助けて頂いてありがとうございます。」
荷台に乗って俺の肩に手をかけながら、感謝の言葉を述べる少女。
どうやら公園で拉致されたらしい。可哀想に。俺が助けられてよかった。
「このまま交番に行くけど、良いよね?」
「......っ! だっ、だめです!!」
何故か頑なに拒否をされてしまった。
「どうしてだ?」
「あなたにこれ以上迷惑はかけたくないんです。ですから、もう降ろしてください」
「......」
俺は止まることをしなかった。もし止まってしまうと、この子の人生の分岐点が今で降ろすことによって悪い方向に転んでしまう、そんな気がしたからだ。
「どうして降ろしてくれないんですか!? もう大丈夫って言ってるじゃないですか!!」
「......助けてって言ったのはキミだろ? だから、最後まで徹底的に助ける。今のままじゃ、助けた内に入らない。少なくとも僕は、そう思うんだ」
少女は何も言わなかった。
警察に行く事は否定されたので、とりあえず自分の家に連れてきた。
アパートの部屋を借りてるので誰も居なかった。
「取り敢えずその辺に座って。これからの話をしよう」
静かに少女は頷き、座った。
「キミの事が知りたい。教えてくれないか?」
「分かりました......私はとある家庭に生まれました。他の家に比べても極々普通の家庭だったと思います。去年、両親が離婚するまでは。
母が出ていってしまい、父と二人だけになりました。でも、すぐに新しい女の人が現れました。とっても嫌な感じの人でした。
私に弟が生まれて、父でさえ私の事をほったらかしにしました。
そして、たまたま義母と二人で公園に行ったときです。私は何者かによって拉致されたんです。
いえ、もう分かってるんです。拉致では無く、私は男に売られたのだと。
だから、警察に行っても私に帰る家なんて何処にも無いんです」
聞き出したのは俺だったが、こんな話をさせた自分に腹が立った。
あまりにも無神経過ぎるではないか。
「だったら、気がすむまでここにいればいい。ここが気に入ったなら家にしてもいい。とにかく、一時的にでも、ここが新しいキミの『家』なんだ」
「......っ!」
突然、彼女の目から水分が吹き出した。無理はない。
暫く一緒にすごすことにになるだろう。彼女が喜ぶなら、それでいい。
「ふわああぁぁーー......おはよう、ってあれ? 居ない......」
彼女の姿が見えない。何処に行ったのだろ。
ふと机を見る。
『やっぱり迷惑はかけられない。自分の道は、自分で切り開いていきます』
まだまだ小さい子どもだ。字は汚いしバランスも悪い。
そして、この紙と鉛筆も何処から持ってきたのだろう。
『ユイハより』
「これが彼女の名前か。ユイハ......いい名前だ。きっと、この名前を付けたときにはまだ愛していたんだろうな......何が気持ちを変えてしまってるんだろう。残酷過ぎるだろ......」
少女が何処に行ったかは分からない。
少なからず嫌な予感はしていた。全くしていなかった訳では無い。
『今日未明、○○地区の○○池に9歳前後とみられる少女の遺体が発見されました。近くの防犯カメラには女の子しか写って居らず、事故の疑いがあります。警察も少女の身元の確認を......』
このニュースが流れたのは、ユイハが家を出ていった次の日の事である。