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――目を開けると天井の照明がオレンジの光を放っていた。どうやら、小依を待っている間に眠ってしまったようだ。電気をつけて時間を確認する。十二時か。
腹が減った。何か食べ物がないか探そうとすると、食卓のテーブルの上にメモが置いてあった。
『昨日の残りのカレーが冷蔵庫にあります。温めて食べてください』
いる? 昨日の残りの――ってところ。初めてのカレーなのに、そのせいで一気に残念な感じになってしまった。
まあ、いい。とりあえず温めるか。
「いただきます」
水を一口飲み、温めたカレーを一口食べる。
美味い。舌をピリッと刺激するほどよい辛さ。食べやすく切ってある具。あまりのうまさに俺はそのあと、一度も水を飲まず一気に平らげた。
「ごちそうさまでした」
もしかして、小依はわざとああ書いてカレーのハードルを下げ、俺が食べたときカレーが美味いと思わせたのか? と、どうでもいいことを考えながら、腹が満たされた俺は、風呂場を探しにドアを開けていく。もちろん風呂に入ってもう一眠りするためだ。
ここはトイレか。じゃあ、こっちか――
「きゃあああ!」
濡れた髪に火照った肌。大きくもなく、小さくもない形のよい柔らかそうな――そう、胸だ。いや、実際、柔らかい。なぜなら俺の背中がその感触をまだ覚えているからな。
直接触ったら、もっと柔らかい――これ以上はやめておこう。
小依はバスタオルで体を覆い隠した。おしい、じゃなくて。俺も男だ、この状況はまずいだろう。
「ノックして下さい」
「家でノックなんてしないだろ?」
「自分の家みたいに言わないで下さい。いえ、自分の家でもノックして下さい。これは人としてのマナーです。それにいつまで見てるんですか?」
「悪い。ところでどうしてここにいる?」
「私の家だからですよ」
「そうじゃなくて。もう、寝てるのかと」
「ソラさんが起きるまで待っていたんですけど、なかなか起きないから、先に夕食を食べてお風呂に入っていたんです」
「そうだったのか。カレー食べたよ。美味しかった。小依は料理上手だな」
「ありがとうございます。それで、あの、いつまで見てるんですか? 何もしないって言ったのに。やっぱり」
疑うような視線を俺に向ける。
「違う。そんなことしねえよ」
「私、今日、ソラさんと出会ってから、ずっと思っていたことがあるんです」
「なんだよ?」
「すごく言いづらいことなんですけど」
そう言って小依は俺の目を見ようとしない。なんなんだ?
「気になるだろ? 言えよ」
「……わかりました。言います。もしかして……こっちですか?」
小依は、開いた手のひらの甲を頬に当てた。そのポーズは――おいおい、これはすぐに否定しないと俺の今後の人生に関わる。
「違う! 俺は女が好きだ!」
全力で否定した。
「本当ですか?」
「本当だ! 今だって」
見てる。
「じゃあ、どうして? 私って……そんなに魅力ないんですか?」
「可愛いと思う」
「それはこの先があるということですか?」
「お前は俺にどうしろと?」
「すみません。私、男の人と話すといつも変な感じになってしまうんです。だから、あまり話さないんです」
変な妄想してるからだろ。
「でも、ソラさんは、そんな私と一緒にいてくれて……」
俺のブレスレットをつけて、リンクしてしまったからな。
「初めてこんな状況になって……どうしていいのかわからなくて」
俺だって初めてだ。
「私――」
小依のバスタオルがずれて胸の谷間が見えた。俺を見る小依の顔がだんだん赤くなっていく。濡れた髪から水滴が小依の頬を伝い、首筋、胸の谷間へと流れた。
――めちゃくちゃ可愛い。
ちょっとまて、このままだとまずいぞ。俺だって、男だ。エロいことは考える。
だけど、そういう感じになる前に段階があるだろ?
「じゃあ、この先を今すぐやろうか?」
俺はこの場の空気を変えようと、両手を出してバスタオルをとろうとした。もちろん冗談で言ったから、途中でやめるつもりだった。
「いやー!」
本日、三回目の激痛を腹に受けると俺は壁にめり込んだ。
「ぐはっ」
そういや、リンク解除させるの忘れてた。やばいな、ちょっと動けそうもない。まあ、ちょうどいいか。俺はこのまま寝ることにした。
いや、本当は意識を失ったと言ったほうが正しいのかもしれない。