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「――というわけで、俺の代わりに地球を征服してもらう」
「そ、そんなことできないです」
両手を前に出してぶんぶんと振った。
「お前一人でやってくれとは言わない。俺と一緒に地球征服を手伝ってもらう」
「私に宇宙一強い力がリンクしてしまったからですか?」
「そうだ」
「でも、宇宙を平和にするのに、どうして地球やその他の星を征服してるんですか?」
「正確に言えば、征服するのは星じゃなくて、地球のエターナルコアだ」
「エターナルコア?」
「宇宙にある全ての星はエターナルコアというもので形成されている。それを征服してピース星とネットワークを繋げる。そうすれば、争いが起きた星にピース星から俺や他の誰かがすぐ駆けつけて解決できるようになる。しかも、三百六十五日、二十四時間、年中無休体制で」
「すごいですね。でも、エターナルコアって大事なものですよね?」
「ああ、その星の命だからな」
「信用できるんですか?」
疑うような目で俺を見た。
「してもらうしかない。宇宙平和のために」
「あと、すごくボロボロになってますけど……宇宙人? ということでいいんですか?」
ボロボロになったのは俺のせいでもあるが、お前のせいでもあるんだぞ?
「見た目は人間と変わらないが、まあ、小依が地球人だとすると、俺は宇宙人ということになるか」
「やっぱり、本当は私の体が目的で、いろいろ調べて」
小依は両手で身を守る仕草をする。やっぱりって何だよ?
「だから、違う」
「すみません」
「とにかく、お前が俺を吹き飛ばした。お前は俺の力を使える。それはまぎれも無い事実だ。だから早く征服をすれば、ブレスレットも外れて元通りになる」
「早くって言われても、エターナルコアってどこにあるんですか?」
「地球で一番強い奴を倒す。そういう奴がエターナルコアを持っているからな」
「いないですよ?」
は? いない?
「どういうことだ?」
「地球は平和です。何かあれば警察もいますし、各国も平和で仲良しなんです」
それは知っている。ブレスレットにルルが入れた地球の情報は、すでに俺の頭の中に入っているからな。
――俺が今まで征服した星は、必ずボスのような奴がいた。そいつが大体悪者でエターナルコアを盾にして悪いことをするから、どこにあるのかすぐにわかった。
じゃあ、どうやってボスのいない地球のエターナルコアを見つけて征服するのか?
ちょうどこの前、征服した星は、表向きは平和だと言っていたが、実は裏があってやっぱり悪いボスがいた。そこと同じだ。
「教えろ! 地球の深く、どす黒い闇を!」
俺は小依の肩を掴んだ。
「わ、私は知りません」
「どうして?」
「私は普通の高校生です。だからそんなの知りません」
――そうだ。こいつは普通のどこにでもいるような女子高生だ。たまたま俺のブレスレットとリンクしてしまったわけで。
いきなり征服しろというのも無理な話だ。
「や、やめて、そんなに強引に、痛いです。もう離して下さい!」
「ぐはっ」
また俺の腹部に激痛が走り、吹き飛ばされて地面に倒れた。
リンク解除しろって言ってなかった。マジで死ぬぞ俺。さっきは取り乱して油断したからもろにダメージを受けたが、今回はなんとか意識を保ったぞ。
「す、すみません」
「いや、いい。俺が悪かった」
エターナルコアの場所がわからない今、できることからやっていくしかないか。
まずは、小依が宇宙一強い力をうまく使えるようにして――
と、その前に、
「で? さっきからお前ら、何か用か?」
俺は振り返って言った。
派手な柄シャツを着た長身の男と黒いコートを着た金髪の男がこっちを見ている。
長身の男は頭をスキンヘッドにして、耳にピアスを付けている。まあ、見た目からして柄の悪そうな奴だ。
そのせいで、逆に金髪の男は髪の色以外、おとなしそうに見えてしまう。
だが、この二人から感じる異様な雰囲気――これは……。
「小依、俺の後ろに下がってろ」
「は、はい」
俺は拳を握った。少しだけ力を感じる。まだリンクしている。二人ならいけるか?
「あー? 今の見てたぜ。地球ではおとなしくしとけ。いいな?」
長身の男は低い声で俺たちを睨んだ。やはり、別の星……宇宙人か。
「どうして地球にいる?」
「あー? 関係ねえだろ?」
眉間にしわを寄せて俺の顔を覗き込む。近寄るな気持ち悪い。
「やめたほうがいい」
金髪の男は長身の男に言った。
「あー? 何言ってんだ? こんな野郎に」
「ここはお前らの星じゃないよな? もう一度聞く。地球で何をしている?」
「あー? うるせえ!」
長身の男は腕をハンマーに変えて殴りかかってきた。俺はよけずに片手で止めて掴んだ。
「お前がうるさいんだよ。消去」
掴んだ部分が青白く光り出すと、長身の男の腕から体にかけて青白い光のグリッド線が現れた。
「あー? なんだ? これは?」
長身の男の体がグリッド線に沿ってバラバラになり消えた。俺の宇宙一強い力の一つだ。
いろいろな星で戦ってきた俺にはわかる。こういう奴はほとんど話にならない。さらに悪い奴だ。
で、もう一人の金髪の男は?
「俺の質問に答えろ」
「さすが、宇宙一強いと言うだけはあるね」
不敵な笑みを浮かべた。俺のことを知ってるのか。だが、俺の質問には関係ない。
「そんなこと聞いてねえよ」
俺は金髪の男との間合いを詰めて、右ストレートを打ち込む。
だが、金髪の男は避けようとしない。
「どうして止めたのかな?」
俺は金髪の男の顔前で拳を寸止めした。くそっ、力を感じない。リンクが解除されたようだ。
「俺の強さはわかってるはずだ。地球はもうすぐ俺が征服する。この意味がわかるな? 今すぐここから出て行け」
「そうだね。じゃあ、失礼するよ。消去されたくないしね」
金髪の男は踵を返してそのまま消えた。
まさかあいつ、俺の力がなくなったことに気づいたのか?
「こ、怖かったです」
「うおっ」
俺の背中にいきなり小依が抱きついてきた。
この感触はなんだ? 太もものときとまた違う、俺の理性を吹き飛ばすようなやわらかな……そうか、胸か……しばらくこのままでいるか。
「今の何ですか?」
「宇宙人だ」
「ええ?」
驚きの声を上げた。いや、見てたろ? 手がハンマーになったんだぞ?
ぎゅうううとさらに俺の背中に胸を押しつけてくる。じゃなくて、腕にまわす力が強くなって胸が俺の背中に――
「と、とりあえず、離れろ」
これ以上はいろいろとまずい。俺が。
「え? す、すみません」
小依は顔を真っ赤にしている。胸が当たっていたことに気づいたのか?
だが、俺は別に何もしてないぞ。
「あのー、体引き締まってますね。嫌いじゃないですよ?」
は? 俺の体のことを言っているのか? なんなんだこいつ。
「ああ、そうなんだ。ちょっといいか?」
「またですか?」
俺は小依の左腕を掴んでブレスレットのプレートに手をかざす。青白く光らない。もう、宇宙一強い力とリンクはできないか。俺はもう一度ブレスレットのプレートに手をかざした。黄色く光る。どうやら情報などリンクしなくても出来ることは大丈夫そうだ。
「これからどこに行く?」
「学校です」
「俺も行こう」
「高校ですよ?」
「俺は十七歳だ」
「私と同じですね。それなのにこんなことしてるなんてすごいですね」
「年は関係ない。やるかやらないかだ」
「でも、学校ってわかります?」
「今までの会話で俺が知ったかぶりでもしてたというのか? そしてお前も俺をバカにするのか?」
「お前も?」
「あ、いや、こっちの話だ」
なぜだ? ルルのときもそうだが、俺ってバカに思われるのか? まあ、俺の頭の中にある知識は、ほとんどルルの知識だから仕方がないが……。
「俺ってどう見える?」
「どうって、んー。かっこいいと思います」
「ありがたいけど、そうじゃなくて」
いや、やめておこう。真実を知らないほうが良い場合もある。
「いくぞ」
「は、はい」