3 第一章 地球を征服する前に
「……っ」
目を開けるとうるうるした瞳で俺を見つめる少女がいた。
「だ、大丈夫ですか?」
まだ頭がぼーっとしてる。俺はどうなったんだ?
後頭部に温かくて柔らかい感触を感じる。俺は頭を左右に振る。何だこれ? ぷにぷにして気持ちいい。
「あ、あのやめてください」
「え?」
少女はモジモジしながら顔を真っ赤にしている。
やめて? 俺が頭を振るのを? なぜ? こんなにぷにぷにしてして気持ちいいのに?
俺はもう一度、頭を左右に振る。やっぱりぷにぷにして気持ちいい。
「いや、だ、だめです」
ちょっと待て。この状態。少女は俺を見下ろしている。俺は寝ながら少女を見上げている。俺の頭には柔らかい感触、これは……膝枕。
そういうことか。きっと少女は恥ずかしいだろう。こんな道の真ん中で。
俺は嬉しいけど。って、おい、俺は何をやっている? 頭で太ももをぷにぷにしてる場合じゃないだろ?
とても大事なことを忘れているような――
「あー!」
少し……いや、かなり名残惜しかったが、太ももから頭を離して俺は飛び起きた。
「やめてください。やっぱり私の体が目的なんですか」
「やっぱりって何だ? 違う! そうじゃない。それだ、それ!」
少女の左腕に身につけてるブレスレットを指さした。
「俺のブレスレット」
「そうでした。勝手につけてしまいすみません。すぐに返そうとしたのですが、あなたが倒れてしまって……私のせいですよね。すみません」
ずっと俺を介抱していたのか。
「結局、外そうとしなかったんだな?」
「はい、でも、今すぐ」
「外すな! 危険だ」
俺が強い口調で言うと、少女はびくっと体を震わせてブレスレットを外すのを止めた。
確認しなければならいことがある。
俺はピース星でリンクしたまま、地球に転送されてリンクを解除した。通常はリンクしないで、転送されてからリンクしなければならない。やってしまったことは仕方がない。問題はここからだ。
俺がリンクをする前に、少女はブレスレットをはめてリンクしてしまった。
俺以外の誰かがリンクしようとすると、セキュリティが作動してブレスレットと一緒に消滅する――はずなのに。そのときは、なぜか作動しなかった。
その原因はたぶん、じゃない。俺が着地に失敗した衝撃でブレスレットが壊れてエラーを起こした――としか考えられない。
しかも、征服する星で一度リンクすると征服を完了しない限り、ブレスレットは外れなくなる。それを無理に外せば消滅してしまう。
そもそもどうしてこんなことをしてあるのか?
それは俺の宇宙一強い力が奪われないように、ルルがそういうシステムにした。宇宙一強い力を持っている俺にはそんなことする必要もないと言ったが、まさかの事態があるかもしれないからと。
その――まさかの事態が起こった。想定した内容とは違うが、地球人の少女がリンクしてしまった。
「ちょっと見せてくれ」
「え? あ、ちょっと、やめてください」
少女は嫌がり後ろを向いてしまった。仕方がない。俺はそのまま少女の左腕だけを自分の体に引き寄せる。
「ちょっと、私の左手で何をするんですか?」
「何をするって、俺はブレスレットを見るだけだ」
この少女は一体何を考えてる? まだ俺を不審者だと思っているのか?
俺がブレスレットのプレートに手をかざすと青白く光る。俺はリンク解除したはずだ。それなのに、まだリンクしている。二人がリンクすることはあり得ない――やはりエラー。
まあ、しばらくすれば俺とのリンクは解除されるだろう。
とりあえず、ルルにこの状況を連絡しないと。俺はもう一度プレートに手をかざす……あれ? おかしいな。もう一度手をかざしてみる。
……嘘だろ? 通信機能が反応しない。そうなると、俺に何かあったと判断されて、地球の征服は延期される。しかもその期間は不明だ。
すぐ俺の代わりが地球に来るなら助かるが、来なかった場合、宇宙一強い力が戻らず、通信することもできず、帰ることもできず、ここで本当に人生を終えることになってしまう。
それも俺の人生か。って、だめだ。まだ、あきらめるな。考えろ。他に何か方法があるはずだ。
「すみません、やっぱり私のせいですか? 本当にすみません」
少女は申し訳なさそうに何度も頭を下げる。
今、俺の宇宙一強い力は、この少女が持っているんだよな――待てよ。
たった一つだけ方法がある。
「やっぱり外します」
「それだけはだめだ。そのままでいい」
「え?」
「名前を聞いてなかったな。俺は陽向ソラ」
「私は胡桃小依です」
「小依。今からお前に重大な任務を与える」
そのたった一つの方法とは――