嫌がらせ⑥
夏休みも終わりましたね……。
嫌がらせその12 静かな嫌がらせ
ある日、私は侍女の昔話を聞いていた。
「私がお嬢様くらいの頃は、色々やんちゃでした。例えば、友達の鞄の教科書全部隠して、代わりに石を鞄に詰めたりね。石にそれぞれの教科書の名前を書いときましたから『先生!教科書が石になった?!』って友達を半泣きさせました」
何その地味な嫌がらせ。確かに泣きたくなるけど……。
「他には、仲の悪い友達を放課後呼び出して、弱味で脅して、髪を切ったりね。そのときのあの娘は涙ボロボロこぼしながら『ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。もう許して』って懇願してきたわ。勿論心行くまで髪を切った後に許してあげたわ」
ひ、ひえぇぇ。なんて恐ろしいの?!髪が短いのは女性としてアウトじゃない!
「あ、不幸の手紙って嫌がらせもしました。あれは、お嬢様にも出来るかもしれませんね」
「ふこーのてがみ?」
呪いのアイテムかしら?
「ええ。不幸の手紙というのは、相手を困らせるための手紙です。『この手紙を何人に送らないと不幸になりますよ』みたいなことを添えて送るんです。まぁ、実害はないし悪いことはしてないけど相手を恐怖に陥れられます」
ふえぇぇ。何それ怖い。もろに呪いじゃないですか。私はまだ祟られたくはないです。
「まぁ、魔方陣とか書けばより良いものになりますよ」
「あああ悪魔召喚しちゃったらどうするんですか!」
「そのときはそのときです」
やっぱり私の侍女は怖い。いつか私もこの人に呪われちゃうんじゃないかしら。
結局、何だかんだで書いた。文面は以下の通り。
『これは、不幸の手紙です。これを手に入れた貴女は、3日以内に10人に回さなければなりません。さもなくば、3日3晩高熱を出し、一月以内にこむら返りになるでしょう。きっと痛いです。
アリシアさんは、アーサー様と別れないと大変な目に遭います。突然びしょ濡れになったり、靴に石が入ったり、家の前に何かが置かれていたりすることでしょう』
+αで魔方陣も。悪魔でるといいな。
翌日。
「ご機嫌よう、アリシア」
「ご機嫌よう、ベアトリス様」
「ねぇ、アリシア。実は昨日こんなものが届いてね……」
と、アリシアに手渡す。うん、原因は私じゃない(ことにする)わ。
「まぁ、開けるのはここじゃない方がいいわ。休み時間にでも見てね」
「?わかりました」
ちょっと困惑気味にアリシアは手紙を受け取ってくれた。
よしよし、計画はいい感じね。
お昼休み。
「フンフフーン♪」
鼻歌するほどに私はご機嫌だった。
「あら、ベアトリス様。今日はご機嫌ですわね」
「ええ。久し振りに私の計画が上手くいきそうなの」
「それは良かったですね」
ニコニコしながらお友達とお喋りする。すると、アリシアがやってきた。
「フンフフーン♪」
鼻歌まじりで。
「どういたしました?アリシア様」
「あら、ティナ様。実は、初めてお慕い申し上げている方から手紙をいただいたんですの!」
な、何?!アーサーもアリシアに手紙を?!……許さないわよ。
「ベアトリス様?ベアトリス様?!」
「ん?あぁ、大丈夫よ」
余程怖い顔をしていたらしい。睨んでるのはお友達に対して、ではないんだけどな。アーサー……!
翌日。アリシアは慌てたように手紙を配っていた。
一人、二人、三人……。順調ね。
……九人、十人、十一人……。ん?ちょっとオーバーね。慌てすぎなのかしら。よっぽどびっくりしたのね!
十二人、十三人……。ちょ、ちょっと?!
「アリシア?そんなに配る必要はないのではないかしら?」
「いえ、ベアトリス様。昨日は驚いてしまって……。作りすぎたのですが配りきりたいのです」
「あ、あぁそう……。それなら仕方ないわよね……?」
「(ボソッ)折角のベアトリス様からのラブレター、たった10人にしか見せびらかさないなんてあり得ないです」
ん?聞き取れなかったなぁ。
「アリシア、何か仰いました?」
「いえいえ、何も」
天使の微笑みで返された。むむ?天使の微笑み、今日は堕天してない?なんか黒いよ。
この不幸の手紙は、一月と経たないうちに全校生徒が手にすることとなった。みんなが私の呪いを恐れた成果ね!
……そのわりにアリシアの怖がった顔が見られなかったのだけど?
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
全校生徒side
「ねえねえ、アリシア様がお手紙配ってるよー」
「え?!あの校内トップクラスの美少女が?俺も欲しい!」
「もうないんだってー。欲しいなら持ってる人から書き写してもらえば?アリシア様も書き写し推奨してたから」
「あれ?この魔方陣なんだろう」
「あぁ、それは悪魔を送還するための魔方陣らしいよ。魔除けにもなるらしいわ」
「へぇー、覚えとこうかな」
「これ書いたの誰かな?」
「やー、100%ベアトリス様でしょ。アーサー様にもアリシア様にも愛(笑)が見える」
「愛(笑)って……(苦笑)」
そして。 ベアトリスの苦悩
分からない。本当に分からない。どうやったら出し抜けるのかしら。
あの娘は全然アーサー様から離れないし。もうっどうしたらいいの?!
もうかれこれ12種類も嫌がらせしたのに!本当、どうしたら……。
……。
明日、またじっくり腰を据えてお話しましょう。
ベアトリスはとりあえず考えることを放棄した。
不幸の手紙はみんなのお守りになりました。(魔除けの魔方陣で)
そろそろ嫌がらせを終えます。
お読みくださり有難うございます。感想、評価頂けると喜びます。
誤字脱字、不満がありましたらお知らせください。