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閑話 気化したお酒(アリシアside)

アリシアsideで何か書きたかったので……。

 

 私はアリシア。伯爵令嬢なんだけど、らしくないってよく言われる。

 ……馬術も剣術も槍術も弓術も免許皆伝だから?

 それとも、薬学とか黒魔術を極めたから?

 それとも、料理洗濯とか侍女のやる仕事が好きだから?

 私のやりたいことをやって、なにが悪い。そう思って、色々極めていた。

 そのせいか、ちゃんとマナーは身に付けたのに貴族らしくないと言われ、友達がいなかった。

 寂しかった。


 “学園”に入る前、お父様から忠告を受けた。

「未婚の男とは仲良くするな。生徒でも、教師でも」

 お父様曰く、私の見た目は良いほうらしい。婚約をしていない私は、他の男にとって魅力的だそうだ。

 しかし、私は伯爵令嬢。お父様や伯爵家の望んだ相手と結婚することになる。それなら、恋愛しない方が私にとって楽だろうとのこと。

 納得した私は、未婚の男に近づかないときめた。


 “学園”の入学式でも友達は出来なかった。他の子はすぐにお友達をつくってるのに。少し期待してた分、寂しさも増した。

 頻繁に声をかけてくれるのは、この国の第二王子、アーサー様等の数人の男子だけ。女の子は声をかけてくれなかった。

 ……未婚ではあるけれど、婚約してる方ならいいわよね?

 そう思ってしまった。

 私は、アーサー様や、他の婚約者をもつ方達と、仲良くしはじめた。


 入学してから1週間経った頃だろうか。私はアーサー様の婚約者、ベアトリス様に呼び出された。

 呼び出されたときは、何の用か分からなかったけど構ってもらえたことが嬉しかった。

 話を聞いて、私がアーサー様をたぶらかしてるって誤解されてることが分かった。その時、私は自分の失敗を知った。未婚の男性は、たとえ婚約してても仲良くしちゃだめだったんだ。


 貴族でもっとも影響力のある金獅子公の令嬢に嫌われたらお友達なんて出来ない。私は弱い自分に後悔した。


 けれど、ベアトリス様は毎日私と仲良くしてくれたのだ。試しに、ベアトリス様へお弁当をつくったら大変喜んでくれた。美味しそうにサンドイッチを頬張るベアトリス様は、年のわりに幼く見えたけどとっても可愛かった。

 嫌いなはずの私と仲良くするのは変だなって思ったけど、構ってもらえることが嬉しくて、毎日お弁当を作っていくことにした。



 ベアトリス様に可愛い悪戯をされた。定規を隠されたり、足を引っかけられたり。

 無視をされたときはかなり(こた)えた。辛いわ、それは。

 どの嫌がらせも、ベアトリス様の方がつらそうだったけど。



 そして、今日。

 私達はワイン工房で見学をしていた。“学園”のカリキュラムらしい。自由行動だった。私は一緒に行く人がいなくて、アーサー様達と行動しようかな、と考えた。

 アーサー様を見つけた。歩き出そうとしたそのとき、

「アリシア様。ご一緒しません?」

 ベアトリス様が声をかけてくださった。

「ベアトリス様、有難うございます!」

 きっと、アーサー様に近づこうとしたのに気づいて邪魔したつもりだろう。でも、良かった!ベアトリス様に構ってもらえる!

 やや困惑気味のベアトリス様も可愛かった。


 ワイン樽がたくさん置いてあるところに来た。

 そこにいた係の者が説明を始める。

「ここは、昨年のワイン樽です。昨年は例年よりもたくさんの果実がなったため、例年よりも多くのワインが作られました。ただ、質は例年に比べるとやや悪いですね。あ、そういえば皆さん、天使の取り分って知ってますか……(以下略)」

 とにかく長かった。話好きな上、口下手みたい。む~~。暇なので、ふと隣を見るとやや赤くなってるベアトリス様がいた。心なしかふらふらしている。だ、大丈夫?!

「ベアトリス様、もしかして酔ってらっしゃいます?」

「酔ってません!このとーり、私はしっかりしてます!」

 しかし、係の者も酔っていると判断したようだ。

「ベアトリス様、休憩室を用意しますのでゆっくりなさってください」

 慌てて出ていった。

 気化したお酒で酔うくらいに、お酒に弱いのか。貴族のパーティー、大丈夫なのかしら?

「む~~っ!あたくしは酔ってらいのにぃ」

 ベアトリス様、呂律が怪しくなってますよー。ってか、ベアトリス様って酔うと幼児退行するんですね。

「ささ、ベアトリス様、用意が整いましたので休憩室に参りましょう」

「やーらぁ!あたくし、まららんられるもん!」

 やーだぁ!私、まだ頑張れるもん!でしょうか?呂律が怪しいレベルを越えてますよ。

 ベアトリス様って意外と強情?

「ベアトリス様、私少し疲れてしまいました。一人では寂しいので一緒に休憩室に来てくださいませんか?」

「んー。わかったぁー!いくー!」

 さすがはベアトリス様のお友達。しっかりとベアトリス様とのつきあい方を心得てるよ。

 ……それにしてもベアトリス様、酔うと幼くなるけど、それはそれで可愛いな。舌ったらずな感じがまた一段と愛らしさを際立たせてる。

 あーあ、私が男だったらなー。


 休憩室についたので、ベアトリス様にお水を飲ませた。……手遅れ?酔いは冷めてないけど、呂律がましになった。

 随分ベアトリス様はご機嫌だ。

「アリシア!私、貴女のことだいっきらい!」

 うっ……。酔ってて嘘つけない分、かなり刺さった。まぁ、そうよね……。彼女にとって私は恋敵っぽいし。

「えーと、私、嫌われることをしましたか?」

 それでも、私はあえて聞いてみた。ちゃんと、ベアトリス様の口から何が悪かったのか聞きたかった。

「いっぱい!アーサー様を奪っちゃうし、怖い笑顔するし、後ろから急におどかすし。アーサー様を返してよ!」

 ……思いの外、私の業は深かったみたい。ごめんなさいベアトリス様。怖い笑顔で問い詰めるのも急におどかしたのも、ベアトリス様が可愛くてついやってしまっただけなんです。

「あっ……もう!泣かないでよぅ……。ちゃんと、アリシアの好きなところもあるのよ?」

「ほんとですか?!」

 思わず聞いた。私、てっきり嫌われてるだけだと……。嫌われてるだけでもおかしくないような誤解をされてるし……。

「うん!アリシア、可愛いから笑顔、好き!あと、美味しいお弁当も、好き!私も、作れるようになりたい!それに、こないだの馬術の授業、かっこよかった!」

 ベアトリス様のその時の微笑みは、ほんとに天使だった。無邪気で、あどけない笑顔。酔ってなければ、私に見せてくれることはなかったよね。この時、私はこのワイン工房の見学という校外学習に感謝した。


 それから少しして、ベアトリス様は眠ってしまった。幼児退行したベアトリス様も可愛かったけど、寝顔も可愛かった。

「あーあ、私が男だったらなー」

 さっき心に思ったことを今度は呟いてみた。

「貴女が男であれば、私は貴女をベアトリス様に近づけません」

 容赦なく返事が返ってきた。一番のお友達を自称する、黒狼公ミリア様か。

「男だったら、ちゃんと求婚します!あんななよなよした王子なんかにベアトリス様はあげません!」

「えっ……。貴女、アーサー様が好きなんでしょう?たぶらかしたんでしょう?」

 みんなが呆気にとられている。え……?

「私、今まで友達が欲しかったからアーサー様と愉快な仲間達と仲良くしてただけで、別に恋愛対象じゃないですよ?婚約者持ちの方は恋愛対象外ですから」

 みんなが頭を抱えた。こめかみを押さえつつ、ミリア様が代表して口を開く。

「私達はてっきり貴女が殿方をたぶらかしているのだと……」

「私にお友達がいなかったからです!」

 はぁ~という溜め息が室内に満ちた。ややよろめいた後、ミリア様が私を見据えた。

「それならば、アリシア。私達がお友達になって差し上げます。だから、アーサー様達とは仲良くしないように」

 望外の提案をされた。

「お友達が、今日からたくさん……?わかりました!すぐに仰せのままに!」

 まだ、皆さんはショックから立ち直れていないようだったが、とりあえず敵視をやめてくれた。

 誤解が解けて、良かった良かった。

「それにしても、ベアトリス様ってとてもいい人ですよね。嫌ってる私にも好きなところを見出だしてくれて」

 しみじみと呟く。予想外にも、答えが返ってきた。

「当然よ!ベアトリス様はただ育ちのいい令嬢ではありませんもの!アーサー様の為に厳しい王妃教育を耐え、美容に気を使い、社交界の渡り方を学んだのですから。それだけではなく元々我が儘が多かったのに、成長するにしたがってお優しくなり、親の思惑で近づいた私達にもお友達になってくださった。ベアトリス様以上にいい人なんていませんわ!」

 ……なるほど、そこまで頑張ってきてアーサー様を取られたら確かに嫌がらせをしたくなるわよね。それなのに、あんな可愛い悪戯しかできないなんて……。

「……なんであんな男を好きになってしまったんでしょうね?」

「ベアトリス様にしか見えない良いところがあったんでしょうよ。それなのに、アーサー様はアリシアにうつつを抜かして……」

 若干私にも怒りが飛び火してる?!

「私、そんな思わせ振りなことはしてないですよ?!」

「ふん、貴女、見てくれだけならベアトリス様に匹敵するからじゃない?中身は全然淑女じゃないけれど」

「……」

 なんと返せばいいか分からなかった。

「まぁ、いいわ。これからは、ベアトリス様の誤解をゆっくり解いてあげましょう。その代わり、貴女はアーサーをさっさと捨てるのよ」

「……はい!」

 力を込めて頷いた。


 その後、見学が終わってから。

「またお嬢様が酔ってらっしゃる?!ワイン工房だから懸念はしてたけど……。お嬢様、明日は二日酔いですわね」

 と嘆く侍女がいた。

 侍女にお姫様抱っこで運ばれる小柄なベアトリス様を見て思った。

 私、どんなに嫌われててもいいからベアトリスのお側にいよう。最悪、近衛でも侍女でもいいわ。

 アーサー様とはもう離れよう。ベアトリス様を悲しませたくない。



 決めたのはいいのだけれど、邪険にしても、邪険にしても、ますます喜んで絡んでくるアーサー様に辟易することとなった。

「アリシア!約束が違うじゃない!」

「ミリア様!今のくだり見てましたよね?!私、精一杯嫌がりましたよ?!」

「……確かに。私、今初めてベアトリス様やアリシアの暴力的な美貌がなくて良かったと思った」

 ミリア様がぼそっと呟いた。……聞こえない聞こえない。

 遠くで、

「アリシア!待ってくれ!あぁ、君のそんな顔も可愛らしい」

「ひっ!」

 私はミリア様と別れ、女子更衣室へ走った。

 何、あれ。アーサー様、気持ち悪い。


 ……女子更衣室に入る直前でアーサー様に捕まった。あああ……。

「アリシア、さぁ、今日も一緒に帰ろうか」

 私の手首が真っ赤になっている。あ……、このまま拒否したら痣になるわ……。私は観念した。

「……はい」

 あぁ、ベアトリス様ごめんなさい。今日もアーサー様から逃げられませんでした。

 ……きっと、仲良く追いかけっこしていちゃいちゃした後、一緒に帰ったって思われるんだろうな。

 暗澹とした思いで、私はアーサー様と愉快な仲間達に合流した。










アリシアは、ベアトリスと同じくらいの美貌です。

お互い、相手の方が可愛いと思ってます。

彼女らのアーサーと別れる計画も、ベアトリスの誤解を解く計画も、全然進みません。本編への影響を、まだ抑えたいので。


おつきあいくださり、有難うございます。今日は、午後から本編も出したいです。

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