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4:テイクオフ

「作戦内容は、前に指示した通りだ。エスモの大編隊でグランの前線基地を叩き、壊滅させる。それが目標だ。分かったら、さっさと乗り込め。ぐずぐずするな。」


 敬礼。

僕たち新人兵、延べ四十名はすぐさまフラップに登り、エスモのコクピットについた。計器類のメータをチェック。一機ずつ、ゆったりと滑走路への扉に続く。順番を待つ間、何も考えていなかった。空虚な時間。最後の猶予。もうここには戻ってこれないかもしれない。

 僕の後ろにいるエスモ、乗っているのはカルーだ。カルー。兄貴肌で、いつも冗談を言って皆を笑わせてくれる、そんな奴。5人班陣形の先頭を務めるのは僕、カルーと自慢好きなエリクが後ろに付き、更に後尾にはジーノとランベルトが来るわけである。


 エンジン作動。

動き出す僕のエスモ。開閉扉をくぐり、広い滑走路へと出た。先頭の機は既に離陸している。


 薄い雲のかかった空。僕は今から人を殺しに行く。いや、僕が殺すんじゃない。エスモが殺すんだ。


 テイクオフ、アフターバーナの炎を曳いて機体が軽く浮く。

スロットルを開け、上昇。エスモは水平に態勢を整え、順調に高度を上げつつある。


「Sixteen, wheels up,(16番機、離陸完了)」


 遥か眼下、草原にぽつりと立つ基地が見えた。こう見ると本当にちっぽけなもんだ。

班ごとに作られた陣形が崩れ、巨大な矢印型の隊列が出来た。グランの戦闘機軍と会敵するのは、もうしばらくしてからだろう。

 僕はとりあえずは上手く離陸できたという安堵感から、ふぅっと息をついた。対Gスーツのレンズに白い靄がかかり、消える。


 一面の蒼。眼下には白。ここにあるのは、空と雲。たった、それだけだ。背徳感のようなものを感じる時がある。大いなる自然の領域に、おこがましくも人間が勝手に踏み込んでしまったような、そんな気持ち。

 空を飛んでいるんだ、僕は。今の僕は、地に存在するありとあらゆる柵から抜け出した存在。エンジンの振動が作り出す心地良い振動に体を任せながらも、眼だけはしかと前を向いている。


 









 弁当に詰め込まれた冷凍食品に箸を運んだ。

いつも通りの味。乾いてぱさぱさ。紙を食べてるみたいだった。僕の前の机で、お喋りをしながら昼飯を食べる女子生徒たち。僕の席にかなり近い。話している内容は、最近のアイドルのことやら部活の先輩のことやら多岐に亘ったが、内容は特に頭に入ってこなかった。 

 白身魚のフライを噛み砕く。むしゃむしゃ頬を膨らませながら、これからの事について考えた。僕たち5人班は、現地集合で大学のオープンキャンパスの見学をしに行く。電車を何本か乗り継いで構内を見て回る間、ずっと一緒にいなければならないのだ、冗談じゃない。そんなことをしたら、本当に壊れてしまう。何とかして回避する方法を思案していた所へ、スマホの着信音が鳴った。


 ちらとこちらに視線を向ける女子生徒たち。

僕はそさくさとスマホの電源を入れた。ホーム画面。航空自衛隊のジェット戦闘機、F-2の画像が表示されている。パターン認証、母からのメッセージを確認。返事をして、スマホの電源を切った。

 これから5時限目があって、6時限目があって、7時限目があって、掃除、帰りのHR、それでやっと帰れる。空の向こう、僕は飛ぶ、飛べる筈だ。現に飛んでるんだ。






目を閉じると、蒼色に滲む深い空が浮かぶ。銀色に光る翼、火を吹く戦闘機。真っ暗な中に、きらきらと薄く、ぼやけながらも光るものがあって、それが点滅を繰り返している。どこまでも深い蒼の中を、颯爽と飛び去る戦闘機たち。僕も後に続く。

 空の上は本当に静かで、エンジンが織りなす軽い振動音、時々聞こえてくる無線の音声以外には、何もない。何もない中に、一人放り出された自分、ちっぽけなもんだ。

 

 僕が今本当に飛んでいるかどうか、誰もわからないんだ。

自分だけじゃ頼りない。整合性に欠ける、というものだ。


 覚める時が来た。僕はレルム、一端の戦闘機乗り。そして、どこまでも幼い、ただの子供だ。







 

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