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五話「戦いのゴング」

魔装五英戦まそうごえいせん

 日本に五つある魔装学園の頂点を決める魔装使いの祭典。

 各学園は様々な手法でその五英戦の代表を決める。

 単純に序列であれば、成績であり、コネで参加したというような生徒もいる。

 五英戦に出場した魔装使いはあらゆる面で特別視されるようになる。当然、どんな成績であろうともだ。

 しかし、時津学園はそんなコネを一切受け取らない。

 完全な実力制度である、代表戦を採用している。

 一対一のガチンコ勝負。分かりやすいルールだ。

 戦う相手は完全にランダム。そして、リングに立てば例え相手が幼子であろうと、容赦はするな。

 それが学園からの教えだった。


「魔装の消失、及び使用者の意識の消失、降参の宣言。それが、勝利条件であってるわよ。それにしても、一戦目から嫌な相手と当たったわね、隼」


 難しい表情で考える素振りをするなずな。


「普通の金持ちはコネで通る学園に行くものなんだけどね、このアルドナって男は超の付く自意識過剰なのよ。……だけど、当然実力もあるわ」


「双竜のアルドナ」


「アルドナの魔装は剣や銃ではなく、竜よ。しかも、一体ではなく二体」


 生物の魔装は少なからず存在するのは事実だ。しかし、大変稀有な魔装のため、使用者は本当に少ない。

 かと言って、魔装を選ぶことを俺たち使用者は決めることができない。

 魔装とは己の魂を具現としたものだ。だから魔装は、己にもっとも適性となる形になる。


 しかしだからこそ、生物の魔装を扱う人物は少ない。


 生物の魔装だと判明した瞬間、その道を諦めてしまうからだ。

 生物の魔装は己の意志を持っている。そのため非常に扱いが困難なのだ。

 魔装であって、魔装であらず。過去に学園で生物の魔装が暴走したという事例は既に数件ある。かなり数は少ないが魔装に殺されたという例だってある。


 意思を持つ魔装を完全に制御し、扱うことはプロの魔装使いでも至難の業だ。


「だけど、アルドナはそれを平然と成し遂げる。しかも、二頭もね」


 一体だけでも難しい生物魔装の制御。

 しかし、アルドナのセンスはそれを嘲笑う。


 彼はそう簡単に生物魔装を手足のように使うのだ。


「それに竜よ? 竜の生物魔装って現在の魔装使いで扱えてる人間、私は十人も知らない」


「しかもあいつは二頭だ……」


「アルドナが留学してきたのは去年の代表戦が終わった頃なの」


「そうなのか……、ならあいつはどうやって今の序列を?」

 この学園は弱肉強食だ。どれだけ強かろうと、序列は四桁フォーナンバーからのはず。


「ボコボコにしたのよ」


「え?」


二桁ツーナンバーの生徒を複数人相手に圧勝を見せたのよ」


「なっ!」


 思わず言葉を失う。


「だけどアルドナは三桁スリーナンバーの相手とも楽しみたい、そんな理由で今の序列に居座るのよ。隼、アルドナと戦う時は三桁スリーナンバーだと思わないこと、わかった?」


 思わず、右手を握ってしまう。


「とりあえず、アルドナと戦うなら魔装の消失、その線は忘れた方がいいわ。あいつを倒すなら正面から! それと、無茶はしない!」


「わかってるって、なずなは本当に心配性だな……」





 中央のスタジアムはかつてないほどの熱気に満ち溢れていた。


「さぁ! 皆さま、大変長らくおまたせいたしました! 只今から時津学園、魔装五英戦の代表戦を始めたいと思います!」


 そんな聞いたことのある放送の声と同時に会場の生徒たちが巨大な歓声の雄叫びを上げる。


「この日を待っていた! という生徒は私だけじゃないはずですよ! それでは、学園長より、開会式の言葉を貰い次第、本日試合の生徒には控室に向かってもらいます! それでは学園長、お願いします」


 そう、言われ、俺たちの前にその姿を現す。

 この目で見たのは去年のこの日以来か……。


 初老の男だ。しかし、その老いた体とは逆に抑えられていない殺気のような闘志。

 何度見ても生唾を飲まずにいられない。


 それほどまで、学園長、沖田おきた秀重ひでしげのオーラは濃く、先程まで盛り上がった歓声を一瞬で黙らせる。


「そう怖気づくことはない。今年も楽しく見させてもらうよ、君たちの試合、をね。私が望むのは強い戦いのみ、自分に実力がないとわかっているならすぐに学園を辞めてもらって構わない。私はそれを止めることはないだろう。さぁ、戦え! 強者に餓えた狂戦士たちよ! 私はそんな魂が震えるような戦いを期待する!」


 そんな俺たちを奮い立たせるような学園長の言葉で会場は先程の二倍以上は盛り上がる。


「ありがたきお言葉でした! それでは午前の部を始めたいと思います。選手たちは控え室に……」


 その言葉と一緒に一斉にスタジアムを出る生徒たち。

 俺は真っ直ぐと南スタジアムに歩みを向ける。





 南スタジアムの選手控え室。

 そこには、既に自信に満ちた表情の男がいた。アルドナだ。


「やぁ、野蛮な英雄くん。嬉しいよ、逃げずに来てくれて。僕と戦うとなったらほとんどの人は逃げちゃうんだよね」


「あ?」


「それに嬉しいんだ。君を倒せば……」


 アルドナはゆっくりとこちらに近づき、


「僕が一桁ファーストナンバークラスの実力者ってことが証明されるんだろ?」


 俺の眼前でそう言葉を漏らした。舌のなめずるような音。吐き気する。


「お前のその自信がどっから湧いてくるのかは知らんが。そのクソ生意気な自信、俺が叩き割ってやるよ」


「おーおー、怖いねぇ。威勢だけは立派なものだ。まぁ、一矢報いることくらいはしてくれよ? この学園の一桁ファーストナンバーの価値を下げるような試合だけはしないでくれ。僕の価値が落ちるからね。それじゃあ、リングで会おう。僕らの試合は二試合目だ」


 アルドナはそう余裕綽々と言い、控え室から出る。


一桁ファーストナンバーの価値を下げる、か」


 雷光の姿が思い浮かぶ。


 あいつは決して弱い相手ではなかった。ただ、少し俺相手で油断をしていたことが致命的な弱点となったのだ。


 最初から全力で来られれば、三十七秒で突破口を見つける事はかなり難しかっただろうしな。

 あの戦いの結果は偶然の勝利と言われても、俺は反論できないだろう。


「俺が双竜に何もできなければ、雷光あいつの価値を下げちまう……」


 そのためにも、何としても勝たなければならない。


「よしっ!」


 気合の喝を入れる。


「そろそろ出番です、舞風隼さん」


 学園のOBにそう言われ、俺は控え室を後にする。


「それでは承認をお願いします」


 俺は渡された書類に了承の認を押し、その書類を渡す。

 この書類を書いたが最後、試合で命を落としても学園が責任問題に問われることはなくなる。当然、対戦相手もだ。


「それでは、リングに上がってください」


 俺はリングへの扉を開ける。





「さぁ、第一試合注目の一戦と言っても過言ではないでしょう! 恐らく、観客の皆さんもこの試合が楽しみで仕方がなかったはずです! 解説は毎度ながら放送部のやなぎがお送りさせてもらいます!」

 雷光の時の倍以上の歓声がスタジアムに響き、轟く。


「おっと、選手の入場だ! まずはこの人! 雷光を一閃! 一桁ファーストナンバーをたった一閃でひれ伏した元序列四桁フォーナンバー! もう高校最弱とは言わせない! 序列一〇二位! その実力は本物か! 舞風隼!」


 スポットライトが当てられているような視線の量だ。

 だが、緊張はしていない。雷光の時よりも心は落ちついている。


「そして逆ゲートから! 知っている人は少ないかも知れませんが、彼はイギリスからの留学生です! しかし、その実力は本物! 二桁ツーナンバーの生徒数人を同時に相手をし、圧倒したという噂もあります! 序列一〇〇位! ラーレイ・アルドナ選手!」


 俺の向かいから威風堂々としたアルドナが中央へ歩み寄ってくる。


「この二人の試合をたかが三桁スリーナンバーの試合と甘く見てはいけない! 二人とも遥か上位の序列持ちを倒しているのだ! 観客の皆様は一秒たりとも試合から目が離せない!」


 アルドナと向かい合う。


「ふふ、今すぐ降参したっていいんだよ?」


「誰がするか。俺はお前に勝って上へ行く」


「野蛮な英雄くんには今の序列がお似合いだよ! 来い、双頭の巨竜! グランセルリー、バレンスターナ!」


 白い煙と共に、アルドナの背後でとぐろを巻く、二体の巨竜。


 一体の鱗は白く、スタジアムの光を反射させている。もう一体は黒く、その光を呑み込んでいるかのようにどす黒い。


「来てくれ、王の聖剣エクスカリバー!」


「それじゃあ、始めよう。戦いを!」


 教師が俺たちの魔装を取り出したことを確認する。


 そして……。


「試合開始!」


 そうスタジアムに響くよう、叫ぶ。

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