三話「三十七秒の剣撃」
少し無理やりですが合わせてみました。
ひしひしと伝わってくる威圧感。
これが一桁の気迫!
そんな重苦しい空気を雷光は壊すように俺へ話しかける。
「どうして、逃げなかったの?」
「勝負で逃げるのはちょっとね」
「安い」
「は?」
「安い。あなたのそのプライド」
「えっと……」
なんだ、こいつ!
「あなたはその安いプライドで怪我をするわ。しかも、瀕死の重体」
「そんなのはやってみるまでわからないぜ?」
「わかるわ。だって、私は……」
「試合開始!」
審判の先生がそう言うと、
「強いもの!」
「来い! 王の聖剣!」
「焼き尽くせ、雷!」
魔装を取り出し、向かい合う。
雷と呼ばれたその魔装は鞘に収まった刀だった。見た限りでは刃が長そうだが……。
「それじゃあ、まずは挨拶から……!」
「何を……っ!」
その無感情な言葉に籠った小さな殺意。大きく後ろに跳ぶ。
俺が立っていた場所には一閃の落雷が無慈悲に打ち放たれていた。
コンクリートのリングから硝煙のような匂いがする。今の雷撃で焼き焦げたということだろう。あんなものを受けては、今の俺では、いや、人では只事では済まない。
「あら? よく避けたわね」
あっけらかんと人を殺そうとした少女は回避した俺を見て不敵に笑った。
「やる気満々って感じだな」
「あんたのその安いプライド、打ち滅ぼして後悔させてあげるわ!」
「まぁ、なんつー技だ……!」
ノーモーションから放たれる落雷。しかも、その形状や量に制限はない。つまり、至るところから雷を発生させられるというわけだ。
落雷は雨雲なしに亜空間から現れ、俺に襲い掛かる。
それを見上げながらテンポよく俺は避ける。
しかし、こんな落雷は恐らく、雷光にとっては遊び程度だろう。
その気になれば、複数の落雷は無差別に打ち放つことも可能なはずだ。
あいつは、楽しんでいる。そもそも、上を見上げている俺に攻撃をしてこないのがいい例だ。
「あなたなんて、動かなくても倒せるのよ。実力の違いを痛感したなら降参しなさい。私は弱者を痛ぶり、見せしめにする趣味はないわ」
「あんたこそ俺を舐めすぎだ。俺だって魔装使いだ。自分の信念がある。それを曲げるつもりは毛頭ないし、当然負けるとも思っていない!」
「そう、あなたの意思はわかったわ。だから、残念。絶望を植え付ける結果にだけならないことを祈るわ……!」
落雷のペースが上がった!
一つずつ落ちてくる落雷の早さが尋常でないほど加速する。
それだけじゃない。一本、二本と数が増えて、避ける幅が……!
「サンダーエッジ!」
直径二センチほどの不規則な回転をした雷が雷光の周りを浮遊していた。
「さぁ、刈り取りなさい!」
落雷を避けながらの正面からの攻撃!
全てを捌ききれる気がしない!
雷の刃は無差別に俺へ向かって放たれる。当然、落雷もだ。
無差別な攻撃は返って狙いが読みにくく、回避が難しい。一度、冷静さを欠いてしまえば、避けることが困難になる。
俺は焦らず、正面を見切ってから上空から落ちてくる落雷を避ける。
「私が無差別な攻撃しかしないとでも?」
「なに……?」
肩を何かが掠める。それと同時に全身に激しい痺れが襲い掛かり、体の動きが一気に鈍くなる。その動きが鈍った一瞬にまた横腹あたりを刃が掠める。
「がっ!」
体が麻痺し、立っていられなくなる。
「あなたの心を折るためにわざと掠めたのよ。無差別な攻撃しか私が打ち込めないとでも?」
実力を見誤っていたのは、俺の方だった。こいつは完全に雷の動きを掌握できるのか。
「実力差、わかってくれたかしら。降参してくれる?」
「凄まじい攻撃だ! これには舞風選手完全に打つ手がない! これは勝負あったか!」
「三秒あげるわ。早く降参と言いなさい」
「俺は、弱い」
「三」
「魔装の才能がないのは中学の時にわかった。だけど、諦められなかった」
「二」
「あの場所へ立つことを。それが俺の生きる糧だったから。……だから、努力を重ねた、何年も何年も」
「一」
「そして、辿り着いた。己が努力の境地へ。見せてやる、三十七秒でその境地を!」
「もう、待てない」
凄まじい轟音と共に全方位から俺に襲い掛かる雷。
今の俺では回避不可能。そして、直撃すれば俺は焼け焦げ、瀕死の重体となるだろう。
……ならば、今の自分でなくなればいい話だ。
「王の覚醒……!」
無数の雷の光が会場を照らした。
「一体どうなったのでしょうか! 果たして、舞風選手の安否は!」
「先生すいません。力の加減ができませんでした。下手をすれば彼は……」
「多少の覚悟は彼もあったはずです。あなたがそのことについて、責任問題に問われることはありません」
「そうですか。それならよかったです」
「勝負ありか! 勝者は……おっと、なんだ、あの土煙の中にある人影は!」
「馬鹿な!」
「なんと舞風選手だ! 絶体絶命に見えた舞風選手だ! 一体どうやってあの押し寄せる雷を避けたのか! 舞風選手には傷一つ見えないぞ!」
「あり得ない……! どうやって!」
「簡単だ。抜け道を通って避けた。ただそれだけだ」
「不可能よ!」
「それはお前の見解だ。俺にはできた。それだけの話だ」
「調子に乗るなっ! サンダーエッジ!」
先程よりも早く、数も多い。さらに、全てが俺目がけて放たれている。
さらに上空にも幾つもの落雷の気配。
「偶然避けただけの話だ。ならば、避けられない技にするのみ!」
上空から落雷が降り注ぐ。
俺はそれを避けながら、雷の刃を剣で撃ち落とす。
「二つの行動を同時に!?」
「時間が惜しい悪いが倒させてもらう!」
「調子に……乗るなっ!」
鋭く太い雷が不規則な動きをしながら、襲い掛かる。
「さぁ、行くぞ……!」
その雷は鞭のようにしなりながらリングを叩きつける。叩き付けられたリングのコンクリートが一瞬で焼け焦げ、表面は焼け消えている。
先程とは比べ物にならない威力だ。だが、今の俺に恐れはない。
感情のない攻撃は避けにくい。だが、例外もある。
それは、相手が冷静じゃない状態での場合だ。
「攻撃が単調すぎる……!」
避けながら俺は一気に駆け上がる。それも、常人離れした速さで。
体感的には車から身を乗り出している様だった。
「そんな……!」
剣の間合い! 俺はそれと同時に剣を横に払った。
「眠れ!」
「あっ……うわ……」
雷光はうわごとを呟きながら、リングに突っ伏した。
「これが、最強の王の剣撃だ」
魔装を消し、深呼吸をする。すると、全身に激しい鈍痛と疲労が襲い掛かる。
視界がぼやける……。立っているのか、倒れているのかわからない状態に陥る。
「勝者、……舞風隼!」
「へへっ……」
その審判の勝利のコールと共に会場が一気に沸きあがる。
しかし、俺はそれと同時に静かに眠りに付いた。
「誰が予想したでしょうか! 勝者は舞風選手だぁ! 皆さま盛大な拍手を!」
実は発動から解除までを37行していました。
分かった人は本当に凄いです。