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二話「あの場所へ」

まだ戦いません

なんかすいません

 魔装にはそれぞれ個性がある。

 それを魔装能力と俺たちは言っている。

 一つの魔装に必ず備わっている、それを使いこなすことが戦いでの勝利の鍵となる。


「来てくれ、王の聖剣エクスカリバー!」


 夜、寮の裏庭は上下ジャージの俺には少し堪える寒さだった。

 そんな裏庭で俺は自らの魔装の名を呼ぶ。

 すると、光を放ちながら鋭い剣が地面に突き刺さる。

 俺は地面に刺さったそれを抜き、月夜に照らす。白き刀身が月の光に反射し、思わずその目を奪われるほどの美しい剣だった。

 俺は覚悟を決め、その力を発揮する。



「起きなさいってば!」


「んあ……?」


「もう! なんでベッドじゃなくて床で寝てるの? ダメでしょ、風邪ひくよ。ここ最近寒いんだから」


「お前はおかんか、というかいつも思ってるけど俺、扉閉めてるよな?」


「……」


「なんか言えよ!」


 これからは二重ロックにしようかと思った瞬間だった。


「珍しいね、いつも枕は柔軟性じゃないと眠れないからお前の部屋には泊まらん、って言ってる隼が床で寝てるなんて」


「布団に入ろうと思ったところで意識が飛んじまってな」


「また、何か危ないことしてたの?」


「してねぇーよ。大丈夫だ」


「それならいいんだけど。隼はすぐに無茶するから」


「そういや、今日の模擬戦の相手ってわかったか?」


 模擬戦の授業をする際、生徒たちには学園へ入る際に渡されたスマートフォンに事前でメールが届き、対戦相手が分かる仕組みとなっている。


「えっと、二組の江藤さんって人だね。序列は三百八位って書いてある」


 かなりの高序列だが、ここにいるなずなが相手では流石に勝ち目がないだろう。


「じゃあ、俺も届いてるかな」


 俺は机の上に置いてある携帯のメールを確認する。あんな大見えを切ってしまったのだ。相手はかなり手強いことだろう。

 序列二〇〇クラスと戦う覚悟はしとかないとな……。


 俺はそう思い、メールを開くとそこに書かれてあった対戦相手は予想を遥かに凌駕していた。


「嘘……だろ……」


 思わず、苦笑いが飛び出てしまう相手だ。


 時津学園でその名前を知らぬ者は存在しない。成神なるかみはるか

 学園序列は一桁ファーストナンバーの九位。

 代表戦で四回も選ばれている比類なき猛者。

 全ての相手を一閃の雷で終わらせることから付いた二つ名が雷光。


 刀を模した魔装だが、去年の代表戦、彼女は一度も刃を抜くことはなかった。何故なら全ての敵を一閃の雷で倒してしまったからだ。

 代表戦、一度や二度の敗北は当然だが、彼女は去年、無敗という記録を貫いたことから序列を一桁まで上げたのだ。


 俺でも知っている彼女の数々の武勇伝。冷や汗が止まらない。

 敗北すれば怪我だけでは済まないだろう。


「隼……相手が悪すぎる! 棄権するべきだわ!」


 思わず言葉を失い、生唾を飲んでしまう。

 その日の朝食は豪勢だったが、俺は満足に食べることすら叶わなかった。

 いつもより重い足取りで教室に着くと、既に教室は黒板に貼られた対戦表の話題で持ち切りだった。

 そして、当然。


「おい、あの舞風と雷光がやり合うらしいぜ」


「マジかよ。何秒でやられると思う?」


「二秒も持たないんじゃね?」


「いや、俺は一秒と見た」


「あの高校最弱の舞風と雷光が……」


「タンカの用意しとかないとな」


「先生たちも悪意あるよな。この対戦はあまりにも圧倒的だぜ」


 井口のやつ、本当にやってくれる。

 俺の予想を遥かに凌駕する相手だ。

 怖い、最悪死ぬかもしれない。なのに、どうして俺の心はこんなにも……。


 こんなにも、心揺れているのだろう。楽しみで仕方がない。


 朝、満足に喉へ通らなかったのは緊張半分の嬉しさが半分だった。

 俺の目標はただ一つ、この学園の序列一位になることだ。

 だから、遅かれ早かれ全ての一桁ファーストナンバーの相手とは戦うことになる。

 だが、その目的を果たすためには何百という魔装使いを倒さなければならない。


 苦難の道だ。何より、時間が足りるかわからない。


 しかし、俺はその挑戦チャンスを手に入れることができた。飛び級でいきなり戦うことのできる権利を手に入れた。

 そのことが嬉しくて仕方がなかった。


 模擬戦は午前から午後にかけて長時間をかけて行われる。

 どうやら今回は高校一年の生徒全体で行う模擬戦のようだ。

 俺と雷光の試合は恐らく、井口が仕組んだのだろう最後の試合に組み込まれていた。


 試合まで時間が有り余っているので、俺はなずなが試合をするスタジアムへ向かう。

 確か、なずなはかなり前の方に試合があったはずだ。


 スタジアムは東西南北に各一つずつ、南東と北西に一つずつ、そして学園の中央に一つだ。

 俺と雷光の戦いは中央で行われる。ちなみに、中央はスタジアムが広いので、模擬戦の場合、四試合同時に行われる。


 但し、高序列の人間が戦う場合は一試合のみだ。そのため、基本的に高序列の人間は方角のスタジアムに基本組み込まれるのだが……。


 俺と雷光の戦いはどうやら特別視されているようだ。

 井口のやつ、地味に俺のハードルを上げてないか?


 なずなが戦うであろう、南のスタジアムには熱気が溢れていた。

 かなりの大男と小さな少女がスタジアムの中央で向かい合っていた。

 体格差が決める戦いとは言えないが、少女が不利なのは一目瞭然だった。


「うぉおおおお!」


 男が少女に真っ直ぐ飛び掛かる。隙のある攻撃だが、恐怖心を呼び起こすには充分な気迫だろう。

 少女は恐らく、降参する。そう思った瞬間だった。少女は消えていた。そして……。


「がはっ!」


 少女はいつの間にか背後に周っていた。

そして男の背中には剣で斬られたような巨大な切り傷が現れ、血が噴き出す。男はその場に力なく倒れ込む。


「流石はリトルクイーンだ」


「ああ、一瞬だったな」


 見ていた生徒たちが言葉を漏らす。

 あれが噂のリトルクイーンか。

 全く見えない魔装から放たれる不可視の攻撃。形状もわからないことから背後からの攻撃は回避不能と言われている。


 序列は七十三位。二桁ツーナンバーだ。


「おっ、二刀使いだ」


「ああ、美しい!」


 二刀使い、ってことは……。


 リングを見ると、そこにはいつもと表情が違う、凛とした顔つきのなずなが立っていた。

 対する相手の方は自信に満ちた顔だ。なんか見た感じ慢心してそうなやつだな。……なんて名前だったっけ。


「それでは、試合開始!」


「来て、大和やまと武蔵むさし!」


「おいで! 破壊の木槌ブレイカー!」


 なずなの魔装は二本の剣、つまり双剣だ。

 右手の方が大和で左の方が武蔵だと、聞いた気がする。


 試合は一方的、いや一瞬だった。

 慢心してた奴が木槌を振るうことなく、試合は終わった。

 暇つぶしにもならねぇな……。


 とりあえず、俺はスタジアムを出て選手控室へ向かう。



 なずなと合流したので、とりあえず外のベンチに座って喋っていた。


「ここの学園こういうこと適当だよな。試合終わった生徒は超自由だし。勉強くらいさせろっての。戦う前になったら呼べばいいのにな」


「ねぇ、隼。本当に戦うつもり?」


「そのつもりだ」


 俺は間髪入れず答える。


「ここで引けば、俺は下手すりゃあ学校を辞めさせられるかもしれない」


 井口はそういう男だ。

 俺が棄権でもすれば、すぐさま退学に追い込んでくるだろう。あいつはとてもじゃないが、いい教師ではない。


「お願い、絶対に無茶だけはしないでね」


「わかってるっての。というか見とけよ、なずな。俺の戦いを」


 俺がそう言うと、なずなは不安な表情こそあったが、笑って送り出してくれた。


「うん……、いってらっしゃい」



 時間の流れは早いもので、気が付けば模擬戦は最後の試合だった。

 控室で集中していると、井口が俺を呼びに来る。


「出番だ」


 俺は立ち上がり、井口に付いていく。


「どうだ、最高の相手だろう」


「ああ、あんたは本当に性格が悪いってことがわかった」


「ふん、大見え切ったんだ。この試合くらい勝ってもらわないと困る」


「高校序列最弱の俺が一桁ファーストナンバーに? 冗談だろ」


「お前が魔装能力を使っていれば、そんなことはなかったはずだが?」


「あんた、どうしてそれを!」


「さぁ、この扉の向こうはリングだ。模擬戦と言えば試合は死合。生きるか死ぬかの殺し合いだと思え、いいな」


「言われなくてもわかってるさ。というか、なんで先生が俺の魔装能力を」


「この戦いに勝てたら教えてやるさ」


「上等だ。吐かせてやる。情報源の出所をな」


「期待、してるぜ?」


 俺は扉を開き、歓声溢れるスタジアムに出る。

 ああ、この感覚だ。だが、足りない。歓声が足りない。


「さぁ、今日もっとも注目が溢れる模擬戦ということで、放送部のやなぎが実況をしていきたいと思います!」


 模擬戦だぞ? なんで、放送部が実況してんだ……。


「今リングに現れた選手は序列一四五三位、舞風隼選手です! 高校だけでの序列なら類を抜いての最下位! 模擬戦や代表戦での勝率は八割を切っている最弱の魔装使い! しかし、彼は一度として試合を棄権したことはありません! もしかすると、奇跡を見せてくれるのか!」


 酷い言われようである。名誉棄損で訴えても誰も文句は言わないだろう。

 歓声が先程より大きくなる。どうやら、現れたようだ。


「そして、皆様! 盛大な拍手をお願いします! 去年の代表選で圧倒的な力を誇り、無敗を貫き、一桁ファーストナンバーまで上り詰めた、天才! 雷光、成神遥だぁああ!」


 金髪碧眼巨乳。親が外人でハーフらしい。

 美人で最強とか反則だと思うんだが……。


 今はそんな彼女の容姿に気に掛けている余裕はない。


「両者! リングの中央へ!」


 リングの中央で俺は雷光と対峙する。


読了有難うございます

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