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一話「最弱の魔装使い」

戦いの描写が一切なく、説明が多いので面白さに欠けると思われます。

魔装五英戦まそうごえいせん! 頂点に君臨したのは、時津学園序列一位、蒼霧あおきり将大しょうだい選手です! 皆さま、高らかな拍手を!」

 

広い会場に響き渡る無数の拍手音と歓声。正方形のリング中央に立っている蒼霧は何も言うことなく、自らの右手に握られていた剣を天に向けた。

その姿を見た観客がさらに盛り上がり、歓声は会場を揺らした。

そんな盛り上がる観客の中、瞬きすることなく、ただただリングの中央に立つ蒼霧へ羨望の眼差しを向ける少年がいたなど、誰が気付くだろう。

その少年は輝く蒼霧を見て、強く決心し、心に誓う。

―――――自分も必ず、そこに立ってみせると。

 学校へ行く二時間前に起床。

 着慣れたしわくちゃのジャージに着替え、窓からこぼれている朝の光を浴びながら背伸びをする。

 ポキポキと骨が音を鳴らしたところで背伸びを終え、台所に向かい、冷蔵庫の中を確認する。

 ペットボトルに半分ほど残っていた水で乾いた喉を潤し、玄関の方へ向かう。

 黒い薄汚れたシューズを履いて、外に出る。

 

 今日もいい天気だ。

 俺は走り出した。

 

 ここは時津学園の敷地の中だ。

 塗装されたコンクリートの道はどこも整備されており、走っていても足に違和感を覚える事はない。

 時津学園は創立数十年とまだ新しい学園だが、日本中から注目されている学園である。

 その理由は明確で数少ない、魔装まそうと言われる特殊な武装を教える学園だからである。

 魔装と言うのは人の中に眠る魂を刃にしたものだ。その形はそれぞれで、剣や銃、生き物などのケースもある。

 

 時津学園はそんな魔装について教える学園にして、随一の敷地を誇っている。その大きさは東京の十分の一ほどという莫大な面積。ちなみに、未使用の部分が三割あるらしい。

 そんな莫大な土地を誇るこの学園は小中高一貫の学園である。幼いころから魔装の基礎について教えられる。

 学園に通う生徒、その数二五四〇人。魔装学園でこの数は恐ろしい数値である。

 そして、舞風まいかぜはやとこと、この俺も、そんな学園の一人だ。

 朝の日課のランニングを終えて、汗をかいたジャージを洗濯機に投げ込み、シャワーを浴び、タオルを首にかけてパンツ一丁でリビングに戻ると、座布団の上で正座している人影を見つける。


「なずな……、入るならインターホンかノックくらいしてくれよ」


「したよ? でも、隼お風呂入ってたでしょ?」


「いや、それでも人事というものがだな……」


「それにしても、隼もいい身体になったね」


「いい歳した女性が異性の体を見ていい身体とか言うんじゃありません!」

 

 俺は腕を交差させ、上半身を隠すように立つ。

 なんというか、照れくさい。

 この不法侵入してきた少女、あずまなずな、は俺の幼馴染であり、時津学園に通う生徒の一人でもある。

 

 茶色っぽい黒髪ロングと隠し切れない清楚なオーラ。大きな瞳に整った顔立ち。子供の頃は感じなかったが、かなりの美人である。俺にはとても勿体ないくらいの。

 何より、一般クラスの胸がいい。大きくもなく、小さくもない。素晴らしいと賞賛の言葉を与えたいが、それをすると流石に怒るので、俺はしない。

 

 そして、俺の裸を見てもあまり恥じらいを見せない。流石は幼馴染と言ったところである。


「で、何しにきたんだ」


「そりゃあ、いつものですよ」


 と、なずなは巾着袋を俺に見せる。


「ああ、さいですか……」


 俺は座布団の上に座り、机の上に差し出された巾着袋の中を開ける。

 すると、中から四角い三段積みの弁当箱が出てくる。


「隼、放っておいたら栄養に悪いものしか食べないからね」


「ランニングの時間を重要視してるんだ。料理は厳かになるさ」


「はい、これ朝ごはんね」


「ありがとよ」


 なずなはいつも俺の部屋まで来て朝ごはんと昼ごはんを用意してくれる。本当に感謝しきれないが、申し訳ないと思う心も当然ある。

 だが、これがないと生きていけない。

 ……知らず知らずのうちに俺は調教されているのかもしれない。


「それ食べて、早く学校いこ」


「だな、いただきます」


「いただかれます」


 少し頬を赤く染めながらなずなは頭を下げた。

 そんなことに気にすることなく、俺は朝ごはんと差し出された茶碗一杯の米と台所からも香る具だくさんの味噌汁、綺麗に盛られたサラダ、焼き立ての肉を平らげる。

 ご馳走様、と腹いっぱいに食ったところで、学校へ向かう時間だ。


「さ、行こうぜなずな」


「うん!」


 部屋から出る。

 時津学園は中学の学習を終えると、高校に上がるか一般の高校に通うか選ぶことができる。

 その理由はこの学園の授業カリキュラムが関係している。

 時津学園は小中が四割魔装授業に対し、高校が八割、魔装に関する授業となる。

 中学で自分が付いていけないと感じた物はここで辞めることが選べるのだ。

 さらに言えば、高校は特殊な理由がない限り、完全な寮制となる。

 まぁ、そんなことは関係ないだろう。何より関係するのは……。


「おやぁ? 高校二年にもなって、未だに序列四桁フォーナンバーの舞風くんじゃないですか」


「まだこの学校にいたのかよ。俺なら恥ずかしくて学園辞めてるね」


「高校に上がったら三桁スリーナンバーは当たり前だよな」


「ちょっと!」


 なずなが怒りを露わにして、俺を煽って来た二人の男性学生に突っかかる。

 そんななずなを俺は止める。


「大丈夫。いつものことだ」


「隼……」


 学園序列。

 それはこの学園で絶対的な力の証。

 小中高一環で計られるその序列は高校まで上がれば基本的に三桁台まで上り詰めるのは当たり前のことなのだが、俺には魔装の才能がなく、未だに四桁台の数字から脱出できずにいた。

 正確な数字は一四五三位。高校のみの序列では、ワーストワンである。


 中学から高校へ上がる時も教師に言われた。

 やめておくなら、今のうちだぞ、と。

 だが、諦めるわけにはいかない。俺は首を横に振り、滞在を覚悟した。


「お前も俺の隣を歩くのが嫌になったら、いつだって言っていいんだぞ」


 なずなの序列は二桁ツーナンバー。優等生である。


「やめるわけないのは、わかってるでしょ?」


「まぁな……」


 なずなも相当な物好きだ。

 学校に着くと俺となずなは別れる。クラスが違うのだ。

 教室に入ると大きく聞こえる声。先程、俺を煽って来た生徒の声だ。

 煽り足りないのか、俺が入って来たタイミングで声を大にして会話を始める。


「舞風なんで辞めないんだろうな」


「さぁ? 才能がないこと自覚してないんじゃね?」


「言えてる! もしかして、自分には秘められた力があるとか思っちゃってる痛い子なのかな?」


 その一言でクラス全体が馬鹿笑いを始める。

 まぁ、気にしてないけど。才能がないことも、秘められた力もないこと。そんなのはわかっていることだからだ。


「こんなに馬鹿にされて、何も言ってこない時点でプライドがねぇよな」


「ああ。男じゃないんじゃね?」


 五分ほど、俺に対する罵倒が浴びせられるが、俺が突っかかてこないことを見て、会話を切り替える。


「そういや、代表選がそろそろ始まるな」


「だな。まぁ半分勝てりゃあ十分でしょ」


「お前じゃ三分の一が限界だっつーの」


 学園代表選抜戦。

 学園にある七つのスタジアムで並行して行われるそれは、魔装五英戦に出場する七人の代表を決める戦いである。本来は序列の高い者が出場するのが普通なのだが、この学園にそんな普通は存在しない。

 体調、精神、実力。全てを兼ね備えた人物が強い人間だ。序列だけで真の力は計れない。

 その学園長の方針により、ランダムに決められた人物が一対一で毎日戦うのだ。長い月日を掛けられて行われるその一日の試合数は計り知れない。

 そんな代表戦だが、俺は同学年の奴には勝てた試しがない。小学生にも時たま負ける事がある始末だ。

 代表戦での試合結果は大きく序列に関与する。


 そのせいで、俺の序列はこの様なのだが。

 真面目に授業を受け、昼休みはなずなと話しながら食べ、気が付いたら放課後になる。

 そんな俺の方へ近づいてくる足音。この足音はなずなではない。


「おい、舞風」


「なんですか、井口先生」


 井口いぐち春斗はると。我がクラスの担任であり、俺のことを気にかけてくれている教師だ。かなりの体育会系な先生なので生徒と戯れることは少ない。当然、生徒に話しかけるなど以ての外だ。


「わかっているとは思うが、卒業時に序列が三桁に満たないものはこの学園を卒業できないんだぞ」


「知ってますよ。というか、先生が嫌と言うほど聞かせてくれたじゃないですか」


「そうだ。だから、今話しかけられた理由もわかっているな」


「代表選で成績を見せろって、そう言いたいんでしょ?」


「わかっているなら話が早い。絶対に今年こそは序列を上げるんだ、いいな? 俺の教え子から留年者が出たなど言われれば、俺の成績が落ちる」


「先生の成績落とすためにワザとダブっちゃおうかな~……冗談ですよ、そんな熊を殺しそうな目で睨まないでくださいよ」


「お前の努力はわかっているし、把握しているつもりだ。だが、お前はそれを発揮しようとしない。いい加減、見せてくれないか? お前の努力を」


「……わかりました。明日の模擬戦でいいなら。俺も丁度使ってみたいと思っていたんです。この、技を」


 先生が目を丸くして俺を見ていた。どうやら、この返しが以外だったようだ。


「面白い。なら、明日最高の相手を用意しておいてやる。見せてもらおうか、お前の技を」


 俺は首を縦に振り、その場を立ち去る。

読了ありがとうございます。

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