《番外》Robo戦争 Ø《完結》
「総帥、ロボットが人を襲ったようです」
時代は遡る。飢饉大戦――大地震により破壊された国の物資と人力を奪い合う戦争――で、日本はその軸になっているもの全てを失い、まさに国として閉鎖され、生きる為に残された道は他国との合併となった。
しかし、戦争の犠牲となったその頃の日本の上に立つ者が、病で死に、テドウが新たな総帥となった。
一転し新たな国の方針、そして年齢制限のない労働環境を与え、数億万をかけ帝国のシンボルとなる司令塔を建設し、更に外交と改革の一手としてジャポニと名を改めた。そして名だたる腕の立つ科学者達によって、数年ばかりでめまぐるしい進歩を遂げたのである。その進歩の結果、他国から注目を集め、強国と同盟を結ぶ事に成功したのだ。
まさにネットワークと機械の世代。この世代を築き上げたのは、若者であった。ゼロから、プラスへ働きかける為に、どんな人間であれ才能とやる気があるのなら教育は惜しまなかった。人から人へ伝わり、やがて、その知識を人智を越えるもの=ロボットへ組み込み、また効率よくロボットから人へ伝え、膨大な力となる。
生活にもまた、ロボットの導入は施され、福祉介護、子守、工場やペットに至るまで、用途は様々であり、人間の暮らしにロボットは必要不可欠な存在となった。
だが、テドウは知らせを聞いて、俯いた。
「とうとうロボットが人類を脅かす時代になったか」
「いかがなさいましょう。すぐに対策の指示を」
「奴らを呼べ」
「しかし、まだ彼らは訓練中の学生でして、実戦地に出すのには危険すぎます」
「実戦も時には大切だろう。それに、私はあいつらを特別視しているんだよ。分かったら、さっさと呼んでこい」
「はっ!御意!」
「ついに、この時が来たか――」
軍事特訓施設内の廊下。人の通らないその廊下の壁に背をもたれる黒髪の少年は小さく独り言をつぶやいた。
「こんなの無意味だ……」
全く外の景色の見えぬ、檻のような場所。日々の訓練にも息苦しさを覚えていた。少年は、首筋のRの文字に×が書かれたタトゥーを指でなぞる。そして、母の姿を思い出した。
「母さんを殺したアイツは、許さない」
歯ぎしりをしながら、爪で首筋の皮膚を引っ掻いた。そんなことをしていた時だ。
「おい、お前……、またサボりか?」
いきなり話しかけられ、頭を上げた。見覚えのある顔の男がいた。背格好からして自分と同じくらいの年齢だろうと思ったが、名前が出てこない。考える仕草をしている間に、また相手が質問をしてきた。
「お前、いつもサボってるだろ」
「‘’お前‘’じゃない。ネオだ」
つい反発した。相手は特に驚いた顔もずに、続けた。
「知ってる。ここでは有名だしな。よく、訓練士に逆らってるのを見る」
「アンタは?」
「ロッド」
‘’ロッド‘’、その名前は聞いたことがある。目の前の男が、自分と同い年らしいのにそう思えない理由が分かった。
「こんなところで、何やってるんだ。総帥の息子さんよ。叱られるぜ」
「訓練はやらなくとも、全て完璧な為、自由にしていい許可が降りたんだ」
ふと、右胸に輝いているバッヂが目に入った。それは優秀な成績の者に与えられる金の勲章である。少なくとも、自分の周りで同じ年の者でそれを掲げている人間は見たことがなかった。
「優等生ってやつか。オレとは違うな」
「確かにな。お前とは違う」
その物言いに、苛ついたネオは、勢いよく立ち上がり、胸ぐらを掴んだ。だが、目の前の銀髪の男は無表情に、冷静に眺めたまま動かない。
「劣等生になりたくてなってるんだろ」
「オレは……、言いなりになりたくねェだけだ。父親の世話になって才能にも恵まれてる奴とは違う」
そう言った時、今まで微塵も動かなかった表情が微かに歪んだ。
「俺は、父を越え、自分自身を確立したいだけだ。それが、死んだ母への弔いだと思っている」
「……お前、母さんいないのか」
自身と同じ境遇だと知った途端、掴んでいた服から、掌が力なく抜ける。
「オレも、いない。殺されたんだ、アイツらに」
言葉にするだけで感情が痛い。ネオは下を向いたまま、また壁に背を預けた。
「アイツらって、ロボットか」
「ああ、だから、憎い。ロボットを造り上げたこの国の連中も」
ネオは歯を食いしばる。ロッドは、廊下を二歩靴で鳴らし、背中を向けた。
「お前が出来る事は、そこの壁とじゃれながら死を待つだけか?もっと出来ることがあるだろ……」
そう放ち、廊下の向こうへ去っていった。残されたネオは、頭に残ったその言葉だけを抱え、考える。
「出来ること。オレに出来ること、あんのか」
母が死んだ時、何も出来なかった。守れなかったそんな自分に、今更出来る事は何だろう。ぐるぐると一人問答を繰り返していると、廊下に訓練終了のベルが響いた。ぞろぞろと帰ってくる人の波に、ネオは自室へ戻ろうと足を進めた。
「ネオ」
自分を呼んだ声に、振り向いた。しかし、目線の先には相変わらず廊下を歩く人々の群れだった。
「こっちこっち、いい加減慣れてよ」
服の袖を引っ張る手に、視線を下にやると、ヘルメットを被った小さな男がいた。よく訓練で共にしていたリックって奴だった。
「悪ィ……、気づかなかった。で、なんだよ」
「総帥が呼んでいるようだ」
「あ?仕置ならまた今度ペナルティが溜まった分いっぺんにに受けるから――」
「うーん、仕置とは違うと思うけど。僕も呼ばれているから、おそらく」
リックは、口を濁した。知っていても言わないのは、この先の事を発言した後のネオの行動を読んでいる為だろう。リックには訓練時にも、こうした兆候があった。武器や戦闘こそ苦手だが、常に対人の行動を読み、己の中で策戦を練ろうと試みるその思考能力は上部の人間にも買われていた。
「分かった。行く」
ネオは、何となく重要な事態だという事は悟った。それに、断っても断れない理由を、自分より頭の良いリックによって作られそうだと思った。ネオは周りの人間を、まだ信用していなかった。
無機質な司令室に、入ると既に二人の男が立っていた。一人は無愛想な顔をした高身長の男。もう一人は、先程出会ったばかりの銀髪の彼奴だった。
「ネオ、リック、ルウ、ロッド。揃ったな。四人にロボットの破壊任務を言い渡す。尚、異論を唱えた場合、相応の処置を施す」
これより反ロボット連盟の結成と、未来を賭ける戦いが始まった。それが、後のRobo戦争である。




