非情コール
いやー、無事学校も始まりましたからね。よーし、小説を書けるぞー
今日は暑いな
俺はアイス棒を片手にそう思った。季節はまだ春だ。その春にしては暑い半袖でもいいくらいの気温。だからこそこういう時に食べるアイスは格別に美味しいというわけだ。
もしかして、この小説を読んでくださっているありがたい読者の皆様は俺がアイスなんて食べるなんて意外とか思うかもしれない。だが、それは先入観による決めつけだ。読者様には本当に申し訳ないがクールキャラでもアイスは好物だ。無駄なことはしない主義の俺でもこの暑い日にアイスを食べるというのは俺に十分な満足感を与えてくれる。それはどういうことかというと…
「隣失礼するぞ」
「ん、どうぞ」
少し邪魔が入ったが話を続けよう。それはどういうことかというと…
…おい、どういうことだ?
「なんで俺はお前と一緒にいるんだ?」
言い忘れていたが俺がいるのはコンビニの前にある赤いベンチだ。その左端に腰掛けていたら隣にカズマサが座ってきたのだ。いつ座ってきたのかはわからない。忍者の末裔のような動きで座ってきたのだろうか
「しょうがないだろ。俺だってアイスくらい食べたいわ!」
そう言ってアイスをビニールから取り出し、いきなり大きく頬張る。
おい、そんなに頬張ったら…ほら、頭キーンってなってる
「そういえばカズマサはカヅキに会ったか?」
「おお、会った会った。丁寧に情報を教えてくれたぜ」
もうすでにカヅキがカズマサと会って必要な情報を伝えてくれたらしい。これで俺のカズマサへの用事は特にない。さっさと離れるのが吉だ。
「そりゃよかった。じゃあ、俺は猫探しを再開するからな」
俺はアイスのゴミをゴミ箱に投げ入れると席を立つ…が
「おい、ちょっとまてよ」
歩き出そうとしたところで服を引っ張られガクンとバランスを崩した。
「何をする。俺は忙しいんだ」
「ちょっと待ってくれ。今食べ終わるから」
宣言通りかなり余っているアイスを一気に食べ終わり頭をキーンっとさせてうずくまる
俺はこの頃こいつはバカなんじゃないかと思い始めた。
「あのさ、この商店街って結構狭い場所多いし協力して探さないか」
む、協力だと。個人的にはこいつとは気が合わないと思っているが、効率を優先すると協力というのもありか
「仕方が無いな。じゃあ、俺が左半分を探すからお前は右半分を探してくれ。何かあったらすぐに携帯で伝えることだ」
「了解!」
商店街は意外と注意してみると狭い路地というか店と店の間で人が通れそうな場所が多くある。これは手分けして探すのは正解だったかもしれない。これを一人で探すとなれば相当な手間がかかっただろう。
俺は一つ一つ丁寧に路地に入って行きさらに丁寧に細かい隙間やゴミ袋の中まで真剣に探した。
たかが猫探しでこんなにも真剣になるとは機嫌のいい日というものはあるものだ。
しばらく俺が陽気に(周りには無表情に見える)猫を捜索していると急に俺のポケットに入れてあるスマホが震えた。カズマサからの電話だ。
もう見つけたのか。と少し驚いて電話を取る。
「どうした?もう見つけたのか?」
俺は『おう!ばっちり見つけたぜ!』という返事を期待していたというより確信していたのだが違った
「おい…おい!シンこっちに来てくれ!」
聞こえてきたのは予想以上のボリュームで放たれる焦りに焦りまくった声だった。その予想外の出来事に俺は少し戸惑うがすぐに持ち直す
「どうしたカズマサ。何があったんだ?」
「と、とにかく来てくれ!やばいんだ!」
俺が落ち着いて声を掛けるも全く意味がない
「カズマサ一旦落ち着こうか。1+35は?」
「え?えーと、36だろ」
「よし、少しは落ち着いたか?」
「え?ああ、なんか少しは焦りが消えた気がする」
俺がしたのはカズマサに少し頭を働かせただけだ。相手を無理矢理落ち着かせるには簡単な計算問題さえ出せばいい。それだけで頭は冷やされる…はずだ。今考えて初めて使ったからな。効力はまあまああるようだ。先ほどよりも幾分かカズマサの声も落ち着きを取り戻している
「さ、カズマサ。お前は今どこにいる?」
「唐揚げの店とお好み焼きの店との間の路地だ」
「ん、一応そちらに向かうからその場で待機しておいてくれ」
「わ、分かった」
その返事を聞いた瞬間に俺は電話を切る。
そして、ため息をついて仕方なくカズマサのいる場所へ歩き出すのだった
〜路地〜
狭いな。俺は細身な方だと思うのだがそれでも肩がガリガリ壁に当たっている
そんな路地のちょうど真ん中あたりにカズマサが立っていた
「おい、カズマサ一体なんのようだ?」
すると、カズマサはこっちを向き自分の足元に落ちてあるぐしゃぐしゃにひしゃげてしまっている黄色のガラケーの携帯電話を持ち上げた
「これカヅキの携帯に似てないか?」
「ん?」
その言葉に俺は少し焦る。なぜならこの路地に入って来る前に気が付いたのだ。
ここはカヅキの声が聞こえた場所じゃないか。その声はこう言っていたはずだ
シン…助けて…
と。もし、それが幻聴などではなく、その携帯がカヅキの物だとすれば、ここでカヅキに何かあったのかもしれない。そして、たまたま通った俺にカヅキは最後の力を振り絞って俺に助けを求めたのかもしれない。
もし、この予想が正しければ。俺は…俺はカヅキを見捨てたことになるのか?
「もしかしたらカヅキの携帯に電話をかけれは分かるかも。おい、カヅキに電話するぞ」
そう言ってカズマサはスマホを取り出し、カヅキに電話をかけようとする
「ちょっと待て!」
いつの間にかカズマサのスマホを俺は掴んでいた。
「なにすんだ!」
カズマサが普通に怒った口調で俺に叫んでくる。当たり前だ。カズマサにとっては一分一秒でさえ惜しいはずなのだから。
いや、知り合いが何かあったかもしれない状況ではカズマサの態度が自然だ。むしろ、俺の方が不自然で浮いている。
「いや…すまない。邪魔をして」
「お、おい…!」
カズマサは俺の不自然さに気がついて少し焦った声を出す
「いや、大丈夫だ。俺も少し気が動転してな」
が、そんなカズマサを鎮める。俺の気持ちを悟られるわけにはいかない。
カズマサも「そうか…」と言って一応は納得はしたようだ。
「じゃあ、かけるぞ」
プルルルルル…プルルルルルルル
電話をスピーカーからコール音が何度かなった後ガチャという音が聞こえる
「もしもしカヅ「おかけになった電話番号は…」……………」
それなりに予想できた出来事だ。
「そういえばカヅキは携帯を変えるとか言っていたな」
だが、否定したい出来事だ
「そのせいで何かあったのかもしれない」
携帯を変えるなんて話は嘘だ。あいつは携帯なんか変えてないのに
「だが、ここで何かあったのかもしれない。一応警察に連絡しておく。あとは任せろ」
「お、おう。頼んだぞ」
本当に何やってんだ…
こんな嘘は言ってはいけないはずなのに…
「おい!大丈夫か?お前なんか汗がすげえけど」
ハッとして左手で首元を触るとヒヤリとした液体が俺の手に纏わり付いた
これが冷や汗とかいうやつか。
「お前が気にすることじゃない。とにかく猫探しを再開する。早くしないと日が暮れる」
「お、おう、そうだな」
俺はあくまで冷静に何事もなかったかのように振る舞う。
「じゃあ、俺は戻るからちゃんと探せよ」
「分かってるって」
そうやって俺は路地から出た。
精神力というか、なんというか。気を張りすぎてそれが一気に緩んだからか自然とフラフラとした足取りになり近くのベンチに倒れこむようにして腰掛ける
だが、そんな風に休まる暇など俺にはなかった。
あの路地に関することだ。猫探しなんて一時中断だ。カヅキに何かあったのかもしれない。カヅキの安全を第一に考える。
俺はポケットからスマートフォンを取り出すととある電話番号に電話をかけた
プルルル…ガチャ
「俺だ。シンだ。今大丈夫か?」
「あ、え?あ、はい大丈夫です」
この返事を返した男は今回の猫探しのために集めた警察の中で指揮権を持っているいわゆるリーダー的なやつだ。
「猫探しは中断だ。それよりも大切な用事ができた」
すると、電話の向こうからはおどおどとした不満そうな声の漏れが聞こえた。
「どうした?何か不満か?」
たまらず俺は問いかける。
「いやぁ、猫に関する重要な情報を入手したんですけど…無駄ですかね?」
「む、情報?一応教えてくれ」
これはカヅキの状態を知るために間接的でも何か知ることはできないだろうかと思って言った言葉だ。
「猫は現在とある組織に取られてしまいました」
そうか、そりゃ猫だからな。そこらへんに札束が落ちているようなものだ
「そして、どうやら人質のような者もおりまして…」
そうか…。少し大変なことになっているようだな。
「その人質が茶髪のロングヘアーの女性であなたと同じように制服をきている…」
俺はガバッと上体を持ち上げる
その女とやらは…カヅキだ。絶対にカヅキだ。茶髪もロングヘアーも制服も…そして、電話に出ない、否電話が路地で破壊されていた理由も全てが一致している
思いのほか直接的な情報が出てきた
警察のリーダーはカヅキなんか知らないため「ど、どうされましたか?」なんて言っているが俺の耳には届かない
胸ぐらを掴んでカヅキの場所を教えろと言ってしまいそうになる衝動を抑えて事務的に機械的に仕方が無いと言った感じで
「予定を変更する」
「人質を救出するぞ」
元々これは一話の話を無理やり二話に分けた最初の方です。