殺戮者と誤解
な、長い…
〜文化祭当日〜
今私たちのいる場所はニーナの専用教室。そこで私たちはとある作戦を考えていた。作戦名は『恋愛祭作戦』
具体的にはどんな作戦であるかは前の話を読んでいけばわかるとして、その作戦もとうとう最後になってしまっていた。
「さあ、最後の作戦の内容を説明するわよ」
最後と聞くと少し寂しくなるのは私だけだろうか。辛かったけどなかなか楽しかった作戦だった。でも、最後の作戦だけはまともにして欲しかったな。もう、どんな感じの作戦かはおおよその予想はついているからさ。
「まあ、最後の作戦にいるものといえば、まずは殺戮者カズマサがいるわよね。で、そのカズマサが刀を携えてあなたを抱えれば、あらま不思議誘拐犯の完成よ」
そこまでは横の催眠術にかけられているカズマサを見れば分かる。問題はそれをどうやってシンに結びつけるかだと思う。
「うん、そしてこれをどうやってシンと繋げるかだけど、まずこの状態のカズマサを野に放つ。次にシンにカズマサを倒してもらう。そこからカヅキが『シンありがとう!チュッチュッ』でシンは『あふん…あふん…』ってなるはずよ」
なるわけねえだろ!まずシンのことだから助けに駆けつけに来てくれるかも怪しいわ!きっと「俺へのメリットが存在しない。故に助ける理由がない」なんて言いそうだよ。
「カズマサもやる気満々だし。ね、カズマサ」
「え、あ、はい」
めっちゃ気のない返事ですけど大丈夫なんですか!
「うーん、なんかカヅキが人質っぽくないわね。ちょっと気絶させてみようか」
え?ちょ、ちょっとそこまでしちゃうの?まあ、落ち着いて、ニーナさんその手に持っているのはスタンガンというものですよ。
「じゃ、起きた時ちゃんとシンにベタベタするのよ」
「ちょっと、待って理解が追いつかなぁぁぁぁぁ!」
私の視界ブラックアウト。もう、運に任せるしかないね。
〜一年一組教室前〜
む、今カヅキの叫び声が頭の中で響いたような…。いや、きっと気のせいだろう。いちいちそんなものに惑わされていては気がもたない。
はぁ、とついため息をついてしまう。
「ん?どうしたの?ため息なんてついて。シンはよくため息をつくけど癖なの?」
横から女の子の声が聞こえる。彼女の名前は川崎咲。クラスに来た瞬間に険悪になって放課後には仲良くなった女子といえば思い出してくれるだろうか。
「ため息というのは案外自然と出る。ストレスが溜まった時に出るのがため息だ。まあ、そこが深呼吸とは違うところだな」
「え?つまり今ストレス感じてるの?」
ふぅ、少し面倒な考察だ。そして、この状況が憂鬱なので嘘もつきづらい。ついでに言うとサキと一緒にいることも俺を憂鬱にさせる一要素だ。
「まあ、強いていうとすればこの状況の全てが俺へストレスを与えてくる」
「それって私と一緒にいることもストレスになっているってこと?」
す、鋭い。カズマサやカヅキとは違って扱いづらい。
「はぁ、こんな状況でも楽しめるように努力する」
「なんか答えになってないし、またため息ついたね」
これだから勘のいい女は苦手だ。俺の一つ一つの動作に含まれた嫌味を的確にいちゃもんをつけてくる。全く、ただでさえこの状況で押しつぶされそうだというのに、その上に仲間であるサキからのプレッシャーで俺のライフはガリガリと削られて行く。
ちなみに今の俺の状況を説明すると、今日は文化祭の当日だ。場所は一年一組の教室の前。すなわち我がクラスの出し物である『メイド屋敷』の受付だ。ここで俺たちは受付係をやっている。ここにサキと俺が選ばれた理由は単純でただ単にルックスがいいから、だ。客寄せパンダなんて気持ち悪くて吐きそうになるが、世話になっているクラスに恩返しをするつもりでこうしてその役目をまっとうしている。
みんな気になっている『メイド屋敷』の内容もついでに話しておこう。一時はどうなるかと思ったこの出し物。数回Rー18の内容に走ったこともあった。それでもこうして教室の中で女子がメイド服をきてダンスなどのパフォーマンスをする程度に抑えられたのは横にいるサキの功績が大きい。ただ涙目になって男子を説得するだけで簡単に情勢はひっくり返って行った。
そんな、クラス全員でそこそこ努力して作り上げた出し物だ。
なのに…
「なぜうちの出し物には客が来ないんだ?」
「うーん、なんでだろうね」
昔俺は文化祭に対するモチベーションは全くないと言った。しかし、少なからず関わってきたこのクラスの出し物くらい目立って欲しいと思うのは自然だ。タイムスケジュール的にはあともう少しで一回目のダンスがあるのだが全く人が集まっていない。俺の予想ではすでに行列ができているはずなんだが。
「あ、でも、走ってこっちくる人がいるよ。コアなファンかな」
「そのコアなファンとやらもこの閑古鳥がないている状態を見たら逃げるだろうな」
俺はその走っている人の方に目も預けず暇なので本でも読もうと思い小さな文庫本を手に取った。
はぁ…はぁ…はぁ…
ふむ、走ってこちらに来てくれた人はどうやら俺の目の前で止まったらしい。荒い息遣いが俺の耳まで届いて本の世界になかなか入り込むことができない。
「ねえ、シン」
とうとう名前まで呼ばれてしまった。これでは俺に用があることは明らかだ。仕方なく本を置き上を向く。
「どうしたんですか?ニーナ先輩」
名前を呼ばれる前から、いや、こちらに走ってきている時から気づいていた。どうせ、ニーナなんだろうなと思っていた。
「どうしたって、そんなに落ち着いている場合でもないのよ」
ニーナはどうしたのだろうか。いつも冷静なはずの彼女がここまで取り乱すなんて異常だ。
「カズマサが数人の人を殺して、人質を取って学校から逃げようとしているのよ」
た、確かに、それは異常だ。ニーナが取り乱すのにも納得がいく。
だが…
「俺には全く関係ないですよね」
この状況に俺に危害が加わる可能性は低い。わざわざ自分から危険な場所に行く愚か者ではない。例え知り合いが関わっていても関係ない。なぜなら、他人よりも自分が大切だからだ。しかし、次のニーナの言葉で状況は一変する。
「その人質がカヅキだと言ったらどうする?」
稲妻が走る。俺の全身に鞭を打つような衝撃が駆け巡る。今、ニーナの言ったことが本当のことだとしよう。もし、そうだとしたら相当まずい状態だ。何がそんなにまずいのか。それはこの文化祭で俺が密かに計画していた『恋愛祭作戦』が関係する。
『恋愛祭作戦』
その名の通り文化祭を恋愛祭に変える作戦。この場合文化祭でカズマサとカヅキをくっつけることが主な内容だ。この二人はなかなか準備に顔を出さないし、作戦は案外難航していた。なので、この当日に巻き返そうと思っていたのだが、ここでカズマサがカヅキを人質なんかにしてしまうと今までの交友関係ごとボロボロと崩れ去りせっかくの作戦が全て無になってしまう。それどころか一生口を聞かなくなるかもしれない。それだけは避けたい。
「それは本当なんですか?」
確認を求める俺の問いにニーナは静かに肯定する。
困ったことになった。予想外の出来事だ。一体どうすれば巻き返せるのだろう。
「一応確認ですけどカヅキは気絶してますか?」
ここが重要だ。意識が無かったら嘘の情報を与え気絶している間の事件を誤魔化すことができる。
「たしか、眠っているっぽかったけど」
よし、とりあえずこれでなんとかなる可能性は見えてきた。
「こんなのは気が進みませんけどカズマサを探します。『黒刀』を出してください」
すると、なぜかニーナは急に冷や汗をかき始める。なぜかここで怯む。
「何してるんですか。ことは一刻を争います。ぼやっとしている暇なんてないんですよ」
「いや、でもその刀を出すほどのことじゃないと思うのよ。ただカズマサさえ見つけて捕まえればいいだけだし。例え戦闘になったとしてカヅキを救って逃げるくらいは素手でもできるでしょ?」
「そんなのはただの驕りです。油断はしない。全力で探して全力で叩きます」
「あ、うん。そだよね〜」
自分から頼むような素振りだったのに急に躊躇った。やはり、知り合いが傷つくところを見たくないのだろう。だが、刀は万が一のことを想定して携帯するだけで本当は使うつもりはない。
「じゃあ黒刀を渡すからついてきて」
「はい」
ただ、使うべき時が来たら躊躇なく容赦無く遠慮せず刀を振るう。それが俺という人間だ。
さて、俺は数日ぶりに触る自分の愛刀を数回鋭く振った後に鞘に納め右腰にぶら下げる。
愛刀と言ったとおりこの刀は俺の所有物だ。いつも持ち歩いているわけにもいかないので普段はニーナに預けている。
補足説明として思念体のスポーツとしての戦闘では普通に自分専用の武器を使用している。サッカー選手が自分専用のスパイクを持っているように、プロゴルファーが自分専用のゴルフクラブを持っているように、俺たちも自分専用の武器を持っているだけのことだ。
話を戻そう。俺は愛刀を右腰にぶら下げニーナの教室を出る。
「じゃあ、私は西から探すからシンは東を探して」
「了解」
文化祭は全体的にフワフワしている。俺みたいに刀を持っているなんて物騒だ。
つまり、この皆が高揚した雰囲気の中刀を持って鋭い視線で辺りを見回したりしている俺は当然浮いてしまった。幸い誰も先生などには相談せず何かの出し物と思っているのか無視してくれるのでありがたい。
でも、意外とこの立場は好都合かもしれない。多分俺は今カズマサと同じ扱いを受けているはずだ。普通なら明らかに異常な存在であるはずなのにこの場では許容されている立場である。そして、同じ立場に立ったのならば話は早い。俺ならばどこに隠れるかを考えればカズマサに勝手に辿り着くはずだ。まさかあいつとてこの廊下を人目を気にせずにぶらぶら歩くなんて馬鹿な真似はしないだろう。
その時、俺は見た。
俺の目の前を返り血だらけで抜き身の刀を持って少女を抱えた殺戮者を
というか、普通に俺の目の前を通って行った。
ふぅ、忘れていた。あいつは馬鹿だった。
(予想外でもひとまずカズマサ発見だ)
足に力を込める。一応カズマサを捕らえなければいけない。秒速100メートルの速さを使う。
まず最初は観る。ひしめく人間の間を見つけてルートを決める。
(あいつは…右に移動。あいつは…パンフレットを見るため一旦止まる。あいつは…そのままのペースで前進)
俺の趣味で特技の人間観察。これを極めた末に手に入れた目線、表面上に出ている感情、筋肉の動きなどを見ての簡単な未来予知。これで開くべきルートを予測する。
(よし行ける。3…2…1)
ドン!
走っただけではこんな音は出ないのだが、空気の抵抗によってできる風圧が周りを圧倒したため、やはり、こういう表現が一番しっくりくる。
「おい、カズマサ止まれ」
俺は珍しく大きな声を出してカズマサに静止を呼びかける。
しかし、ぼーっと歩いていたカズマサはこちらを見た瞬間、髪が丸ごと逆立つほど又は目が飛び出るほど仰天して俺から逃げるように、いや、逃げた。
「おい、どうして俺から離れようとする」
なぜか能力まで使って全力で逃げている。
「いや、刀を持った奴に追いかけられて平然と待ち構える方がおかしいわ!」
「いや、お前だって刀を持っているだろ。これで俺の刀の不自然さは消えたぞ」
「えぇぇぇぇ!なんでぇ!俺なんで刀なんか持ってんの」
なんだ?自分が刀を持っていることに気がついていなかったのか?ならば…
「ついでに言うとお前は返り血を浴びてカヅキを小脇に抱えているぞ」
「えぇぇぇぇ!だからなんでぇ!」
なるほど…カズマサは洗脳の類の能力により操られていたのではないだろうか。それにより罪をなすりつけられたというわけだ。もしそれが事実でカズマサの数多の誤解を解いてあげればカヅキが人質になったことを知ってもカズマサを責めることはできないはずだ。
「いや、思い出した。そういえば俺はこの刀で人を何人も切り刻んでそこにいたカヅキを人質にとってよからぬことを考えてたんだった」
…一体どんな記憶の戻り方だ。何のきっかけもない不自然な戻り方だったぞ。(補足…正確にはカズマサはこの時無線でニーナから作戦の内容を聞いたためこのような不自然さになっている。さらに補足するとシンに声をかけられるまで催眠状態だった)
今の話が本当だとするとカズマサは本当の殺戮者だ。本来ならばこの恐ろしい殺戮者とカヅキをくっつけることなど凡人の考えではないだろう。でも、やっぱり、俺にとってはあの二人の光景が美しくて、好きだ。ここからは二人の感情がどうとかあまり考えていない。ただ、自分のためにやっていることだ。こっちの方が俺らしいしな。
さらに言うと俺にはどうしてもカズマサがそんな意味のない殺しをするとは思えない。なにか、理由があって殺したはずだ。
こうして考えている間も高速で学校の廊下を駆け、建物から建物へ跳躍し、学校全てを使って俺たちは可愛らしく言うと鬼ごっこをしていた。
それも、もう終わりを告げる。まるで誘導されたかのようにカズマサは学校の端にあるゴミ倉庫に辿り着きこれ以上逃げるのは困難な状況まで追い込んだ。
はぁ…はぁ…という荒い息を吐き全身からは少なからず出血もしている。カズマサは必死で逃げ惑ったにも関わらず追い詰めれてしまった。
「ふぅ、やっと追いこめた。お前の相手をするのは骨が折れるな」
優劣は明らか、どちらが優勢なのかは見れば明らかだ。
「追いこんだ?何言ってんだ。俺には人質がいるんだぜ」
そう、優勢なのはカズマサだ。普段の俺なら人質なんて気にしなかっただろう。でも、今回は状況が複雑すぎる。まずはカズマサの殺戮者となった理由が気になる。
「らしくないな。どうしてお前はそんなにも意味のないことをする。お前が何をしたのかは知らない。だが、今の行動によってお前は何かを得られると思っているのか?」
「うるさい!俺だってこんなことやりたくねえよ。でも、俺とカヅキのためなんだ」
おっと、言ったな。こんなことはやりたくなかったと。そして、少なくともカヅキのためを思って行動したということはわかった。
「いや、間違えた。今のは嘘で全て俺の不満をぶちまくために一時的快感を求めるためだけに人を殺した」
…わけがわからない。なんだ?さっきもあったがまるで後付けで修正されているような。まさか、洗脳の能力によって嘘の記憶を埋め込まれているのをカズマサの凄まじい精神力で俺に何かを伝えようとしているのではないだろうか。あり得ないことだが、カズマサならあり得る…。
だとすると、はじめに言った方がカズマサの本心。つまり、奴は望んで人を殺したのではない。それも、奴の本心から察するにカヅキを守ろうとしたらしい。
ここからは俺の想像だがカズマサはカヅキと一緒にいる時何者かの襲撃があり、カヅキを守った。しかし無傷では済まずにこのような結果になったというわけだ。
「ふっ、正義感の強いヒーロー気取りの奴にはありそうな出来事だな」
「なに言ってんだ?」
この言葉は果たしてカズマサが言ったものかそれともカズマサを操っている奴が言ったものかはこの際どうでもいい。
俺は静かに黒刀を鞘から抜く。
「おい、何してんだ!」
最早誰が話しているか分からないカズマサの言葉はシャットダウンする。
きっとカズマサは殺戮者じゃない。カヅキも殺戮者と付き合うこともなくなった。でも、実際にそうでなくても社会がカズマサを殺戮者という判断を下すと本当にそうなってしまう。事実よりもみんなの嘘の方が優先されてしまうからだ。ならば、社会の目を誤魔化そう。社会の目をこちらに向けよう。
具体的にはカズマサとカヅキを人間の仕業と思わないほど素晴らしくグロテスクな方法で殺す。
社会はより刺激的な方に目が向かう。その隙をついてカズマサの誤解を解く。
だから今刀を抜いた。
その刀を持ち上げしばらく溜めを作った後、カヅキに向かって振り下ろす。
ガギイィィ!!
「だから!てめえなにしてんだよ!」
あともう少しといったところでカズマサに止められてしまった。
「ホント何がしてんだよ」
こんなこと言うのは多分カズマサくらいしかいないだろう。ゆえに今話しているのはカズマサだ。俺の言葉もちゃんと届くだろう。
「俺は今カヅキを殺したい」
カズマサの顔は一瞬で青ざめ刀を前にカヅキを後ろにした。
「何があったか知らねえけどカヅキを殺すなんて物騒な真似させてたまるか」
「そうだろうな。でも、お前の意思は俺の行動に影響を与えない。お前が俺を止めようとしたところで止まるわけがないことはわかるだろ」
完璧にカズマサだ。洗脳とはたった一人でできるものではなく、同系統の能力者が犠牲を払いながら力を合わせてする。リスクも大きいし難易度も高い。そして長く続くものではない。だから、もうカズマサは洗脳から解けたらしい。
でも、解けたからって関係ない。
刀に集中する。
ただ目の前の仲間を斬るために精神を研ぎ澄ませる。
そして、
「ストォォォォップ!」
集中力は霧散した。何者かの手によって
「なに喧嘩してるの。こういうのは犯罪とかになるかもしれないわよ」
ニーナ。確か俺とは違う方向を探していたはずだが…もしかして学校全体を駆け巡っているうちにニーナのテリトリーに侵入していたのか。
「全くこれだから男子は。いい、喧嘩なんてするものじゃないわよ。どうしても殴り合いたいっていうなら正式な試合をしなさい」
「はぁ?」
思わず俺のキャラに合わないアホみたいな声を出してしまった。だって、カズマサを探せと頼んできたのはニーナだ。それなのにまるで他人のふりをして急に試合なんて言い出す。おかしいと思わないか?
「そうだなこの決着をつけるのは試合しかないな」
なぜかカズマサはノリノリだ。まるで事前に打ち合わせしていたかのようなスピーディーな会話でどんどん話が進んで行く。
「というわけでこの後第一戦闘修練場で試合をするわよ。いい?」
なにが、というわけなんだ?こんなのノーに決まっている。わけのわからない展開でこれ以上俺をかき回されたらたまらないからな。
「第一戦闘修練場ですね。分かりました」
もし、このニーナとカズマサがノリノリのテンションでこちらを見ている中で平気な顔をして正直にノーと言える人がいたら紹介してくれ。本気の笑顔で「めでたいな」と言ってやるから。
〜第一戦闘修練場〜
さて、今日の冒頭にはクラスの出し物の受付係をしていたはずだ。それが目まぐるしく状況が変わり様々な考察や解決策も考えたはずなのにどこかで理不尽な力でも働いているのかどうもうまくいかない。
その末にやってきたのはここ…第一戦闘修練場の選手控え室だ。もう一度言うが冒頭で俺は受付係だった。どこを間違えたらこうなるんだ。
とにかく俺の『恋愛祭作戦』は終わっていない。これから起きるであろう試合形式の戦闘ではどのような立ち回りをすればいいのか。
とりあえず、どうやらカズマサの殺戮者としての話は全然広まってないということが今になって気付いた。もし、広まっていたとしたらこうして試合なんかすることもなく生徒の有志達がカズマサに襲いかかり、大半の生徒はパニック状態だろう。しかし、実際にはこうして普通に文化祭が行われている。もう、カズマサの殺戮者の話は気にしなくてもいいだろう。
でも、俺が今しているのは『恋愛祭作戦』だ。殺戮者のことはこの作戦の邪魔になるから排除しようとしていただけ。たった今やっときちんと作戦を遂行することができる。
少し話がそれていたが、この戦闘での俺の立ち回りだ。女というのはかっこいい男に思いを寄せる。ここでカズマサがかっこいいところを見せればさらに二人の距離は縮まるはずだ。ゆえに、俺が今回することは
わざと負けること、だ。
〜第一戦闘修練場〜
起きたらシンとベタベタする。起きたらシンとベタベタする。起きたらシンとベタベタする。
よし、きっとこの目を開けた先にはシンがいるはずだ。最後の作戦だし気合入れて頑張るぞ。
パチリ
目の前にはカズマサがいた。
「お前かよぉぉぉぉ!!!」
「俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない。俺は悪くない」
私はカズマサの胸ぐら掴んでガクンガクン揺らす。何が「俺は悪くない」だ。確かにそんなに悪くないかもしれないけど、とにかく私の気分を害したから悪い!
「ようやく起きたわね」
「あ、ニーナ先輩まで」
ここで私は周りの様子を見てみる。殺風景な部屋だった。まるで選手の控え室のようなーって第一戦闘修練場の選手控え室じゃん。
私は混乱する。だって今回の作戦でここにお世話になるようなことはなかったはずだ。私が気絶している間に一体何があったのか。それをニーナに聞いてみる。
「いやー、普通なら殺戮者になったカズマサをシンが華麗に助けるだけのことだったのにシンは多分物凄く誤解したんでしょうね。カズマサだけでなくあなたも殺そうとしたの。これじゃ『恋愛祭作戦』は成立しないから必死でそれを止めようとした結果いつの間にかこうなったってわけ」
どういったわけでしょう。その場に居合わせたわけではないから全く分からない。でも、かなりの緊急事態だったんだろうな。言葉からそういうニュアンスを感じるから。
「でも、心配入らないわ。とっさに考えた案としてはこの試合形式の戦闘は割と好都合なのよね。結果的にシンがかっこいいところを見せてそれに魅了されたカヅキが好きアピールをすればいいだけだから」
なるほど、つまりこの戦いが終わった後に私シンの元に行けばいいのか。
「そして、これらを踏まえてカズマサ。これからどうするか分かるわよね」
「全力で臨みます」
「さっきの話聞いてた!?」
「え?」
〜数分後〜
「なるほど、分かりました」
「うんうん、ようやくわかってくれたか」
「で、俺はどうすればいいんですか?」
「私の説明が下手だったのかしら」
「いや、何をすればいいのかは分かったんですけど具体的にどうするのかが分からなくて」
「ああ、なんだそっちね」
ニーナはホッとしたような表情を見せた。カズマサがそこまで馬鹿じゃなくて良かったというような感じだ。
「そうねぇ、具体的にあなたのすることは…」
「わざと負けることかしら、ね」
運命とは恐ろしいものだ。この状況を第三者から見るとひどく滑稽なものに見える。それにしてもこんな会話前にも聞いたような…。(恋愛祭作戦をしようとした時。詳しくは『気がついてないだろうけど今が一番幸せ』参照)
次回はどんな滑稽な姿を見せてくれるか楽しみだ。by作者w
つづく〜
えーと、いつもより少し長い分量となっておりますが切るべきポイントを見出せなかったので許してください