風邪引いた時みんな優しくなる現象
テストェ。授業聞いてないのでゼロからのスタートの勉強で辛いです。僕のことなんてどうでもいいですよね。
あーどーもーカヅキです。ん?元気がないって?そりゃ、ないに決まってますよ。疲れてるんですよ。自己紹介もこうなりますよ。
『さあ、始まったわよ。ほら、元気だして!』
イヤホン越しに聞こえてくる私とは対照的に元気な声の主はニーナだ。疲れている時にこんなテンションで話しかけられると正直イラっとする。
「あの私疲れてるんですけど…」
もう、今日は十分アピール出来たはずだ。恋愛祭作戦はありがたいけど流石に一つ一つにかかる精神的負担みたいなものが大きすぎる。主にドキドキしすぎて疲れる。
『疲れたのね?なるほどー。ならばあの作戦を使おうかしら』
あの作戦?
『一旦私の教室に来てお話ししましょ。なるべく早く来るのよ』
その言葉を最後にもう無線からは何も聞こえなくなった。
うーん、なぜだろう嫌な予感しかしないなぁ。
〜ニーナの教室〜
いつも通り工場みたいな教室だ。一応学級委員のサキには用事があるからと言って一時作業を休ませてもらった。もちろんメイド服は制服になっているからね。
「あんまり開けたくないなぁ」
はぁ、とため息をついてもドアを開けるという自分の次の行動の指針を変えることはできないので一応ドアのとっかかりに手を掛ける。(この教室のドアはよくあるスライド式のドアだ)
「よし、開けるぞ」
ガラッ!
うん…なんだろこれ…
ニーナとカズマサがどういう経緯でかは知らないがキス寸前の状態になっていた。
……………スッ
私は新たに買ったスマホ(前のガラケーは猫探しで壊れた)をポケットから取り出す。
ピピ!カシャ!
そして、静かに何事もなかったかのようにドアを閉める。
ふふ、ふふふふ、
「こんなところで不純異性交友だー!!」
「誤解だー!!」
〜ニーナの教室〜
「いいかカヅキ。あれは誤解なんだ」
あれから校内を走り回って言いふらそうとしたのをカズマサがまさか能力を使ってまで止めにきて拉致されてしまった。といった過程を踏んだのちに今カズマサの言い訳を聞いているところだ。
「誤解ねぇ〜。故意なんじゃないの?」
「いや、この健全男子を代表したような俺に限ってそんなことはない!だいたいニーナ先輩が俺を躓かせたんだ。ニーナ先輩にこかされなければ俺は健全であれたのに」
「あ、うん。別にからかってるだけだからね。そんな本気にしないでよ」
あまりにも必死の弁解にこちらが引いてしまった。いや、だって若干目に涙が溜まっているからさ。流石にこれ以上はかわいそうかなぁとか思うじゃない?
「それならいいんだ。いやー誤解が解けてよかったー。じゃあ、帰っていいぞ」
「いいわけないでしょ!」
なぜかカズマサはニーナに頭をスパコーンと叩かれる。一体どうしたのだろう。全くカズマサは変なこと言ってないよ。
「ねえ、カズマサ、目的を見間違えてるの?聞き間違えてるの?バカなんじゃないの」
ああ、カズマサが木が枯れていくのを高速再生しているようにどんどんしおれていく。
「ちょ、ニーナ先輩。それ以上言うとカズマサが枯れますよ」
「はぁ?あんたも忘れてるの?」
今度は私を責めてきた。何に怒っているか知らないけど相当重要なことを忘れているらしい。
「恋愛祭作戦よ。忘れたとは言わせないわよ」
しょうもなかった。先程の重要なことからのくだりはなかったことにしてください。
「そういえば次の恋愛祭作戦はなんですか?俺何も聞いてないんですけど」
「えー、カズマサも聞いてないの?ニーナ先輩次の作戦危険なやつとかじゃないですよね」
「うーん、まあ、恋愛に危険はつきものなんていうしある程度のリスクは覚悟しておかないとダメよ」
「何その言い方!まるで次の作戦が危険であるかのような言い方ですよ。私怖いですよ。ですよですよ」
そんな私を見てカズマサが腹を抱えて笑う。まあ、当然次の瞬間にはボロ雑巾のようになってしまったんだけど。いや、素で怖い。どんな作戦なんだろうか。
「別にそんなに身構える必要ないわよ。別に全然怖くないから」
「なんか悪徳商法の香りがしますよ」
「さあ、あのテーブルの上にある水を飲んで落ち着いて」
「めっちゃちょうど良く置かれた水ですね。媚薬でも入ってるんですか?」
「………………何言ってるの?」
「本気で心配してるんですよ!」
「分かった分かった。私も飲むからそれで安心でしょ」
そう言って新たなコップを取り出し、テーブルに置いてある水の半分をそのコップに注いだ。
「はい、カヅキもコップを持って、いくわよ。かんぱ〜い」
「か、かんぱ〜い」
ニーナは目の前にある水を一気に飲み干す。そんな風に飲まれるとつられて私も勝手に飲んでしまう。
「うん、飲んだわね。なら帰っていいわよ」
「ええ!私ここに来てしたことって水飲んだくらいしかしてないんですけど」
「ここに呼んだ理由がその水を飲ませることだったからそれでいいの」
「やっぱりあの水には何か入っていたんですね!」
「ほら帰って、あなたにもう用はないのよ」
「はぁ、ニーナ先輩は自分勝手すぎる。シンどうすればいいの?」
まあ、この場にいない人を頼っても返事なんか返ってこない。返ってきたとして「知らん」とかしか返ってこないだろうしなぁ。
「はい、出て行ってシンのところに行くのよ」
「シンのところですか。そりゃ恋愛祭作戦はシンと私が主軸ですもんね」
なんかニーナ先輩が久しぶりに暴走している気がする。それまではシンの存在によって抑えられていた好奇心が一気に溢れたかのような様子だった。
これは私のためでもあるしニーナのためでもあるのかもしれない。ならば、先輩の遊びに付き合ってあげるのも後輩の役目だ。
「まあ、シンのところに行って私の魅力を伝えてきますか」
この作戦、実は誰もが救われるシステムになっているのではないだろうか。私もシンも付き合えたら嬉しい。ニーナもゲーム感覚で楽しい。今言った理想は私がいかに頑張るかで結果は左右するはずだ。ならば頑張るしかないだろう。
そう思い私は自分の足で踏み出す。もちろんシンの元へ。
「なあ、俺は救われないのか?」
空耳は気にしないタイプだ!
〜とある廊下〜
あー、やっぱりニーナはあの水に何かを入れていた。頭がボーっとするし体が熱い。もしかして本当にびや…いや、それだけはないと願おう。
ところでシンはどこにいるんだろう?確かここを通るはずなんだけど…
「全然来ないな〜。帰っちゃダメかな」
『帰っていいわけないだろ』
そんな呟きが小型マイクが拾っていたらしく返事が返ってくる。
「いや、だって熱っぽいし」
『でも、ニーナ先輩だって熱で倒れているからな。同じ水を飲んだんだ。当たり前といえば当たり前か』
「なんか、体はってるねぇ〜」
「誰が体をはっているんだ?」
「びゃう!」
アホらしい驚き方だと自分でも思う。でも、急にきたらそりゃびっくりするよね。
「なんだその驚き方は。あまり面白くないな」
「別に面白さなんか求めてねえから!」
「ん、そうか。あと、こんなところで独り言はやめた方がいい。気味が悪いぞ」
ん?独り言?ああ、シンからみたらカズマサとの会話は独り言のように聞こえるのだろう。でも、ここは独り言で通さなくては。
「うん、この頃独り言が趣味で特技なんだ」
「独り言が趣味で特技とは新しいな。一応俺は他の趣味を楽しんだ方がいいとアドバイスする」
うん、心配してくれてるんだね。なんか、ごめん。
「ところでカヅキ。お前顔が赤いが一体どうしたんだ?」
「え?顔が赤い?」
そ、そんな、これじゃあ恋する乙女が好きな人と話しているみたいじゃないか。実際そうなんだけどね。ど、どうしよう。言い訳した方がいいのかな。でも、なんかこれチャンスなんじゃね?私の気持ちを言うチャンスなんじゃね?
「あの…」
「どうした?」
やべー、勢いで乙女っぽく『あの…』とか言っちゃったよ。こ、ここからどうしよう。
「あのさ、ってあれ〜」
バタリ
その場に私は倒れてしまった。
「どうした?自分の足の筋肉が重力に耐えられなくなったか?」
私は負けてたまるものかと力を入れるが全く立てない。
「あはは、そうみたい」
はにかんでそう言うと急にシンの左手が私の額に当てられた。
「ふむ、高熱だ。一応保健室に行った方がいいな。なんというか、お前はこれほどの高熱を出しておきながらそんな風に話せるとは意外と忍耐力があるんだな」
なんか、嫌味なのか褒めているのかわからないセリフを言っているようだけど私の耳には届かない。
だってシンの左手が私の額に…あうっ!最高のシチュエーションだぜ。
「とりあえずこの廊下には俺しかいないようだからおぶってやる」
ん?おぶる?この状況よりもさらに上の段階があるというの?
「いや、そんな悪いよ」
いや、ここは謙虚に一回は遠慮しておこう。
「そうか、自力じゃきついだろうが頑張ってくれ」
そう言ってシンは離れていく。
え?ちょっと待ってよ。
「ちょっとシン!」
「どうした?そんなに大声を出すと症状が悪化するぞ」
「いや、確かにそうだけど今はそうじゃなくてさ。ほら、今のやつは強がりみたいなやつだからそこを察して『無茶しやがって、お前がなんと言おうとも俺がお前を助けてやるよ!』とか言うところでしょ」
「いや、言わないが…」
「言えよ!」
なぜか今回シンを言葉で優勢にたっていた。いつもはシンとの口喧嘩には勝ったことがないのに。
「おい、カヅキ一旦落ち着け。とにかくここには俺しかいないようだから俺が保健室に連れて行く。これでいいよな」
「あぁん?」
「もう、何が正しいのかわからなくなってきた」
あ、シンが困り果てた顔をしている。これは珍しいことで表情のないシンがこれをすると本気で困っているということが伝わってくる。
「とにかく保健室まで行きたいな」
「はぁ、おぶって行くが大丈夫か?」
「よろしくお願いします」
そこからは普通にシンの背中に私がくっついている絵面になる。
自分で言っておいてあれだけど…は、恥ずかしいね。熱で顔が赤くなっていなくてもきっと私の顔はもう真っ赤だっただろう。
ところで、私は何度かシンにおぶられたことがある。実際作中でもシンとカズマサの戦いが終わった後の山の頂上から下山する時にもおぶられている。『戦いの後』参照
その前の中学校の時もおぶられた経験がある。
でも、それと今とでは決定的違うことがある。それは速さだ。今まではおぶられていると言っても高速で動くシンにしがみつくといった感じで手が離れたら死ぬといった生と死の境界線を漂う危険なことだったのだ。
しかし、今は違う。普通の歩くペースだ。そのことによりいつものような必死さは失われ落ち着く。ここで一つ気がついたことがある。
「シンってそれなりに暖かいんだね」
「なんだ、お前は俺が機械だとでも思っていたのか?」
うーん、本気で思っていた時期があったなんて言うのは流石に失礼だろう。
〜保健室〜
「ん?、ここは?」
私は白いベッドの上で横たわっていた。
「お、起きたか。体は大丈夫か?」
ベッドの横にある背もたれのない椅子に腰掛けている男の子。その声はもしかしてシン…
「やぁ」
と思わせてシンの声真似をしているカズマサ。
「お前かよぉぉぉぉ!!!」
「俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない俺は悪くない」
流石にこのことには腹が立ち胸ぐらを掴んでカズマサをガックンガックン揺らした。なにが『俺は悪くない』だ。
「全くなんで俺がこんな目に…」
「何その自分は悪くないみたいなの。だいたいこういう時普通シンが横にいるものなんじゃないの?」
「ああ、それか。シンならまだ文化祭の準備があるから暇な俺が看病してやれとか言って、暇だから来たというわけだ」
「あー、オッケー。分かった分かった。シンの仕事優先主義は理解してるしカズマサの気の利かなさも十分知っているつもりだから」
はぁ、ついため息が出てしまう。このままで文化祭が恋愛祭に変わることはあるのだろうか。
「とにかく今日は疲れたし寮に戻ろう」
「ああ、ニーナ先輩も家に帰ってたしな。帰ろーか」
その日は一応カズマサと私の二人で帰った。
「なあ、カヅキ…」
「ん?どうした?」
「この頃…いくら頑張っても報われない気がするんだ」
「き、気のせいだよ。あははー」
おっと今日の帰りの会話が流出してしまった。皆聞いてないよね。
〜文化祭当日〜
随分と話が飛んだ気がするよね。その感覚が省略という感覚だ。なぜ省略したのかというとこれから恋愛祭作戦をずっとするというなんともマンネリしそうな内容ばかりだったからだ。というわけで文化祭当日。
ワーワーキャーキャー
ほら、文化祭っぽい喧騒でしょ。でも、私たちにとっての文化祭は他の人よりも一味も二味も違った。
「こほん。では最後の恋愛祭作戦を開始するわよ」
とうとう作戦も最後になっておりこのニーナの専用教室にもいつもより濃密な緊張の雰囲気が漂う。
「この作戦にはカズマサの協力が必要不可欠だわ」
「あ、はい」
おおっと、ここでまさかのカズマサ。いつもは外野でかわいそうな目にあっているだけのカズマサがここで役に立つのか。
「じゃあちょっと手をあげてみて」
「え、あ、はい」
ニーナの申し出に素直に答え警戒心も何も出さずに手をあげるカズマサ。
「えい!」
うん、そろそろ警戒くらいした方がいいんじゃないかな。カズマサはどうやら少しドロドロした液体をかけられたらしい。
「はい、カズマサついでにこれを持って」
「え、あ、はい」
液体をかけられたにもかかわらず警戒心など何もなくその渡されたものを手に取る。
「ついでにカヅキを小脇に抱えて」
「え、あ、はい」
ひょいっと私は持ち上げられる。ドロドロした液体が少し体について気持ち悪い
「よし、これで一応の作戦の準備は終わったわね」
さあ、とんとん拍子にことが進んで行く。いつものカズマサならこのニーナの行動にツッコミを入れるはずだ。もしかして催眠術でもかけられたのかな。
チラリとカズマサの顔を見てみると虚ろな目をしていた。
うん、なんか催眠術かけられてるっぽい。そうだよね。こんなこと普通の人は快く引き受けないよね。だって今のカズマサは…
ニーナにかけられた液体とは赤いドロドロした液体。
ニーナに渡された物とはいかにも鋭そうな抜き身の刀。
そして小脇には私。
そして、虚ろな表情も悪い方にプラスして、
今のカズマサは殺戮者みたいだ。
さ、文化祭当日が始まりますよー