それ、結構死活問題なんだからね!
この、サブタイトルと本編ほとんど関係ないんだからね。
とうとう始まってしまった文化祭の出し物を決める会議。俺にとってこの会議は重要だ。なぜ重要なのか。それは、忘れているかもしれないが『ラブラブ文化祭=恋愛祭作戦』というのがあったはずだ。この作戦名は長いので今後『恋愛祭作戦』と呼ぶことにする。
さて、俺が考えたこの作戦だが内容は簡単なものだ。
この文化祭でカズマサとカヅキの距離を縮めること。これが作戦の内容だ。これが達成されるための第一歩として男女の隔たりが取り除かれやすい文化祭の出し物が必要不可欠なのだ。
「何かいい案はありませんか?」
朝から険悪になって放課後にはお互い名前で呼ぶという異例の仲良くなり方をしたサキが教壇に立ってみんなに向かって話しかけている。一応は学級委員だから司会をしているらしい。
さあ、ここで問題なのが男女の隔たりを取り除きやすい出し物とは何なのかということだ。俺も色々考えた。しかしいい案が浮かばなかった。
中学校の時も文化祭はあったはずなのにどんな出来事があったか覚えていない。俺にとって文化祭というのは印象が薄い。
「あ、あの、何か意見を…」
なかなか意見がでないな。そのことによってサキがオロオロしている。そのサキには悪いが考える時間が多く取れてこの状況は好都合だ。
ふむ、男女が仲良くなりそうな出し物か…。大体ほとんどの出し物が男女の隔たりが取り払われそうなものだが…。恋愛方面を強く前面に押し出したいな。
ベタに喫茶店。定番のお化け屋敷。
うーむ、しっくりこないな。
あまりこういうのは得意じゃないからな。少し時間がかかりそうだ。
………………付き合う疑似体験をするとかか?いや、そんな出し物は認められないだろう。しかしこの意見は何か惜しい気がする。なんだろうか…疑似体験といえば…む、劇…。アイデアというのはフッと頭に浮かんでくるものだな。この付き合う疑似体験を正当化させる手段として劇を使えば二人の距離はぐっと縮まるはずだ。
さあ、これをサキに伝えれば…っとすでに二つ意見が出ている。俺のよりいい意見ならばそちらを使おう。
『お化け喫茶』
『メイド屋敷』
えらく不自然な出し物だ。この二つが協力すればしっくりくるような、そんな案だな。
「誰がこんな案出したんだ?明らかにアンバランスで不恰好だ」
左隣にいるカヅキに同意を求めるようにして言う。
「ウン、ソーダネ」
ああ、お前が出した案なんだな。全く二つも案を出すなんて…
「キニスルコトネーヨ。ミライハアカルイ」
なるほど、カズマサも案を出したのか。
じゃあ、この二つの案はこいつらが出したやつか。正直出来が悪いな。俺の案の方が真っ当で盛り上がりそうだ。
「ど、ど、どうしよう。『メイド屋敷』とかエロ臭半端ないよ」
なんだ、自覚してるじゃないか。
「そんなこと言ったら『お化け喫茶』なんて白けること間違いなしだろ」
なんだ、理解してるじゃないか。
「お前たちはなんでそんな案を出したんだ?」
すると、顔を背け大袈裟に咳払いなどをし始めた。もしかして誤魔化してるつもりなのか?
どうせつまらないことだろう。だが、謎になったままなんてつまらない。
「なあ、教えてくれよ」
俺がまた聞いてみると二人はどうしようといった感じで顔を見合わせるとため息をついた。
「あのね………っことなの」
あまりのくだらなさに省略してしまった。まあ、簡単にカヅキの言ったことをまとめると『カズマサが自分の出した案を自慢してきたので腹が立ってカヅキも対抗してこういう結果になった』といったところだ。
「一つカズマサに聞きたいことがある」
「な、なんでしょう」
なぜかビクビクしている。ただ名前を呼んだだけなのにその対応は少し傷つくぞ。
「お前が出した案はどっちだ?」
「お化け喫茶でございます」
はぁと一つため息をつく。
「お前の案も自慢できる出来じゃないからな」
ガーンとカズマサの後ろでそんな効果音がしたような気がした。「そんな…自信作だったのに」なんて呟いている。
「ねえ、完璧にノリで考えた案なんだけど、なんか知らないけど人気なんだよね。このままじゃメイド屋敷になるかも」
ふむ、お前はメイド屋敷の方か。実際これを聞いた後だとお化け喫茶がまともに聞こえてくる。不純な香りしかしない。偶然にも俺も案を持っている。これは好都合だ。ここで俺が意見を出してそれが採用されれば恋愛祭作戦も有利に進ませることが可能なはずだ。
「ねえ、あれを巻き返すほどのいい案持ってない?インパクトのあるものがいいと思うけど」
む、インパクト。今出ている出し物の候補はどちらもインパクトがある。オリジナリティとユーモアさがつまっている。
では、俺の劇はどうだろうか。オリジナリティとユーモアさがあるだろうか?答えは否だ。劇なんてどこでもやってそうなものがこの二つの案を退けることができる可能性は低い。
「いや、この二つを巻き返すほどの案を出すことは無理だ」
簡単に今までの葛藤なんてまるでなかったかのように言う。
カヅキは少し残念そうな様子でなんとも近づけない雰囲気を周りに振りまいている。
俺が言うのも不自然な気がするが、たかが文化祭の出し物だ。そんなに落ち込む必要はないと思うのだが。
「えーと、他の案はないですか?本当にないんですか?どんなものでもいいですよ」
シーン
「では、やむなくこの二つで多数決を取ります」
おい、今の聞いたか?サキのやつ『やむなく』と言ったぞ。俺はクールキャラなので勢いよく『なんでやねん!』とかは言わない。だが、これは流石にツッコミたくなるような発言だったな。
そもそも、なぜ俺が心の中とはいえツッコミをしているのか。それは普段ツッコミをしてくれるカヅキが机に突っ伏してブツブツと呪文のように何かを呟いていてツッコミをする暇なんてなさそうだからだ。だから、心の中でツッコミをして自己完結するしかない。ついでに呪文のような言葉からなんとか日本語らしき発音の言葉の中には「死にたい」とか「作戦の第一段階から失敗だ」とかマイナスな発言ばかり呟いていた。
「はい多数決も取ります。必ずどちらかに手を上げてください」
結果報告
一年一組の今年の文化祭の出し物
『メイド屋敷』
〜帰り道〜
空が赤に染まり出す頃。すなわち夕方。何の部活にも入っていない俺…いや、俺たちはあの話し合いが終わった後すぐに帰ることにした。並びは真ん中にカズマサで端に俺とカヅキだ。
あいつら二人は寮での生活。俺は普通に家を持っている。途中まで同じ道といっても大半は二人で帰ることになるだろう。わざわざ別々に帰ろうとしていた二人を誘うなどスリリングな体験をしたが一応作戦は順調だ。
「それにしても珍しいこともあるもんだね〜。まさかシンが話しかけてくるなんて」
すでに話しかけるという動作でさえ珍しくなっている。結構話しかけているはずなのに印象が薄いのだろうか。
「いや〜!まさかお前の方から来るとは思わなかったぜ。この調子でガンガン行けよ」
ガンガン行くのはお前の方だ。俺に話しかける暇があったらカヅキに話しかけたらどうだ?
まあ、心の中ではこんなことを言っているが本当に言ってしまうとどこと無くぎこちない雰囲気になるのは俺にも分かる。
「カズマサ。俺にはお前の言っていることが理解できない。急にガンガン行けと言われてもわけがわからないだろう?」
「あっるぇー?俺たち誘ったのって別の理由ー?」
いや、さっきからカズマサの言っていることが理解できない。同じ日本人か?
でもまあ、楽しいといえば楽しい。この三人でいる時は心が浮かぶような感じがする。
楽しい時間というのは早くすぎるものだな。二人と別れる交差点についてしまった。
「俺はこっちだ。じゃあな」
「あ、ちょっと待って!」
「む、」
二人と別れて家に帰ろうとした時、なぜかカヅキにひきとめられた。
「今から私の部屋で文化祭始まったぜイエー!みたいな感じで騒ごうと思ってるんだけどシンも来ない?ニーナ先輩も来るよ」
初耳だ。俺に秘密で何かが進むというのは虚しい気もするな。それにしてもカヅキの部屋に行く、か。
「ふむ、せっかくの招待は嬉しいが遠慮させてもらう」
「えー!なんでぇ!」
「なんとなくだ」
カズマサとカヅキを二人にしたいなど口外するべきことではないだろう。ニーナに関しては空気を読んで席を外してくれることを望むしかない。
「ほら、来てよー」
なぜか今日は少ししつこいな。
「大体お前の部屋に行くことによってのこちらのメリットが思い浮かばない」
「えー、そんなことないよ」
「ほぉ、例えば?」
「楽しい」
「主観的すぎる」
「お菓子がある」
「あまり好きじゃないな」
「金がある」
「金なら俺にもある」
「あの部屋にはワ・タ・シがいるよ」
「金の方が嬉しかった」
「なにおう!」
「悪い、軽い冗談だ。金額にもよるしな」
「問題そこ!てか、シンにとって私っていくらなの⁉︎」
「そんなことより今のところメリットが全く見当たらないぞ」
「なっ、そんなことって…。私には死活問題なのに!もういいよ。シンなんて家に帰ってバリカン見つけて調子に乗って坊主になっちゃえ」
「じゃあ、俺には用はないな。帰るから。また明日な」
こうして茶番も幕を閉じ無事に停滞していた体を動かすことができるようになった。
数十メートル進んだ後少し後ろを振り向いてあの二人を見てみる。
カヅキは先程の俺の行動に怒っているのか大股で歩いているのをカズマサが必死でなだめている。
ほらな、俺が入る隙間なんてどこにもない。今まで三人でいられたのはカヅキとカズマサが無理矢理隙間を作ってくれていたからだ。二人を無理させないと俺の居場所なんてなかった。
夕方の赤い太陽はまだ明るいがそれでもじわじわと夜のおとずれを感じさせる。
まあ、家は近いため夜になる前に着くだろう。
それから数分後すぐに家に着いた。特にトラブルなんてなく普通に着いた。何かあったといえば暑くて汗をかいたので早くシャワーを浴びたいと思ったという些末なことくらいだ。とりあえず道中には何もなかった。
「はぁ、なんでニーナ先輩がここにいるんですか」
でも、俺の家の前では何かあるようだ。そこにいたのは言わずもがなニーナだ。彼女はまだ制服のままで家の前を陣取っていた。これは警察呼んでもいいのか?
まあ、そんな物騒な話は置いといてわざわざ俺の家まで足を運んだということは何か用事があるのだろう。
「なんでここにいるのかって言われたら、ねえ。少しあなたの様子を見に来ただけよ」
む、大した用事じゃないのか?用がないなら早く帰って欲しいものだ。そもそもニーナはカヅキたちと遊ぶんじゃなかったのか。
「どう学校は?」
少し面倒な質問だな。本当に早く帰って欲しい。だが、一応先輩だ。そんな無礼な真似俺だとしてもできない。俺の取るべき行動はニーナを適度に満足させつつ帰るように誘導する、だ。だからこのニーナの質問にも答えなければいけない。
「久しぶりの学校で緊張しましたけど、クラスメイトはいい人ばかりで仲良くやっていけそうです」
「なんかどっかのサイトからとってきたかのようなテンプレな答えね。まあ、その他大勢なんてどうでもいいわ」
俺の一時的にお世話になるクラスメイトをその他大勢とはトップとは思えないほど雑だ。いや、もしかしたら俺以外のトップなんてこんなものなのかもしれない
「ところでなんで私が一年一組にあなたを入れたかわかる?」
「いえ、カヅキがいるからくらいしか思い浮かびませんが」
「うーん、そうねーそれもあるけど…もう一つ理由があるのよね」
「もう一つ?」
全く思い当たる節のない俺はわずかに頭をかしげる。するとゆっくりとニーナの整った顔が俺に近づいて行き横を通り過ぎて俺の左耳の付近に唇がつきそうな位置まで移動させた。「そんなことしても興奮しませんよ」なんて言おうとしたがニーナがただならぬ真剣な雰囲気を纏っていたので口を閉じることにした。
「なぜあなたがあのクラスなのか…それは…」
どんな一言が飛び出すのだろうか。トップとしてあのクラスのいじめっ子を救って欲しいのか。それとも俺が前に立ってあのクラスを引っ張ればいいのか。果たして一体どんな一言が…
「あのクラスにはあなたのことが死ぬほど好きな女の子がいる」
気がつくと燃えるような赤の世界はすでに身を隠し眼前には闇の世界が広がっていた。まるでタイムスリップをしたような感覚だ。
道路にはポツポツと外灯が灯っているだけでそれ以外の明かりはない。
ゆっくりと後ろを振り向いてみるとニーナはすでにいなくなってしまっていた。いや、ニーナだけではない。ここには誰もいない。いや、正確には俺がいるか。
次に俺は目の焦点を近場ではなくずっと向こうの闇に向けて合わせた。この道をまっすぐ進んで行けば俺の通っている学校の学生寮がある。
ニーナの言ったことは衝撃的といえば衝撃的だった。ただ予想外というだけではない。あの一言によって一つの可能性が出てきてしまった。その可能性を否定したいのに完全には拒めない。
まあ、ただの噂ということもあるので信じないのが一番だ。忘れてしまおう。
俺はやっと家のドアのドアノブに手をかけ開けようとした。
しかし、そのドアは完全に開くことはなく半開きのまま固まってしまう。
どうしても、気になってしまう。
俺はドアを閉めるとまた暗く寂しい道路に出る。そして、またもや闇に焦点を合わせる。しかしその動作もすぐに途切れ、つい鼻で小さく笑った。
…いや、まさかな…
はい、文化祭編も文化祭っぽくなってきましたよ。あとは突っ走るのみです。あと、今ストックあるけどストックない状態になりました。