自分を捨てろ
シンっぽい…か?
普通の生徒として学校に登校して一時間も経っていないのに早速隣の女子…川崎咲と険悪になってしまった。
ん、簡単に前回の話を要約するとこんな感じだ。
まあ、人一人に嫌われたところで痛くも痒くもないので気にしない。そんなことより授業の方が大切だ。
「ねえ、今サキのことを放っておいて授業だ!とか思ってる?」
次に話しかけてきたのはカヅキだ。なんだ?俺がこんなに話しかけられるなんて珍しいぞ。それにカヅキにしては鋭い指摘だ。図星をつかれてしまった。
「まあ、思っているが」
何の悪びれもせずに言う。確かに川崎の件は俺が悪いが、別に特別仲良くしようとも思ってないのでどうでもいいと考えていたところだ
「もー、黙って見ていれば好き放題してさぁ。何?嫌われたいの?」
「いや、積極的に嫌われたいやつなんていないと思うが。そもそも、俺だって好きでやってるわけじゃない」
「んー、じゃあ本当に口下手というか、そういう性格なのかね。後でサキにはフォローしておくから今度からは自分をもっと抑えてね」
「む、すまないな」
するとカヅキは顔をそむけ「いつものことだし…」と小さな声で言った。俺に気を使って聞こえない音量で言おうと思っていたのだろうが、地獄耳で聞こえてしまう。こうなると本気で申し訳ない気持ちになってしまう。
そこで授業開始のチャイムがなった。まさか、こんなに陰鬱な気持ちで授業を受けるとは、いきなりいいことがないな。
〜授業〜
さあ、授業が始まって三十分が経った。正直に言おう。しょぼすぎる。
例えるとするならば小学一年生になるといって予習を頑張って分数の計算までがんばったのに皆足し算すらできないといった感じだ。多少過剰だがな。
最早先生の言葉が無色で意味のないものに変わり果て、俺に圧倒的暇な時間を与えてくる。
「暇だ…」
そんなことをポロリと言ってしまうくらいだ。
「じゃあ、この問題を海道。解いてみてくれ」
そんなことを言ったからだろうか先生に指名された。
俺は静かに起立をして、黒板を見てみる。書いてある問題は場合の数の問題だ。まあ、サイコロを振ったらなん通りの出方がありますか?みたいな問題が書いてある。もちろんこの問題の答えは六通りだ。
話を戻そう。俺は当たられたからには黒板の問題を解かなければならない。簡単な問題だ
「28657通りです」
そう言って俺は席につく。
「お、おお!すごいな正解だ」
これは難しい問題なのか。1+1と13+15の違いのような感じだな。難しいといっても俺にとっては小さな差しかない。
「じゃあ、問題演習のプリント配るから、残りの時間はこれを解いてくれ。宿題だからこの時間に終われば家に帰ってすることないぞ」
宿題と言って配れば真剣に勉強するとでも思っているのか。実際に皆真剣に勉強するからだめなんだ。どんな形であれ配られたプリントは真剣に解くべきはずなのに「これはしなくても提出しないし」とか「他のやつから答えを見て写そう」など、全くやる気のない輩がいる。そういう奴にやる気を出させるような授業をして欲しいものだ。
つまり、何が言いたいのかというと、宿題と言われて配られたプリントをするやる気は全くないということが言いたいのだ。
「どうしたのシン。固まっちゃって。それ宿題だよ。やらなくていいの?」
ペンだけ握って何も動かない俺を心配してかカヅキが話しかけてくる
「やる気がない」
「な…、授業始まる前あんなに興奮してたのに!それ宿題だよ。いいの?」
俺のそっけない一言に倍以上の文字数で答えてくるカヅキ。てか、俺が授業の前に興奮していたこと分かったのか。普段から感情は表に出ないはずなのにな。そして、カヅキはまた宿題という単語を使った。そこが気に入らないと言っているのに乱用するな。
「ただ、プリントを配られただけでは問題を解かない奴が宿題と言われた瞬間に必死になって問題を解き始める。おかしくないか?何もないプリントをしないのなら宿題のプリントもして欲しくない。ということを考えていてな」
「それとシンが、宿題しないことと何の関係があるの?」
その問いに少し顔を上げ考える。
「そうだな。あまり関係ないな」
「でしょ。なら今のシンは勉強をサボってるだけだよ」
さ、サボっている…。少々不愉快な気分にさせてくれる。
「まあ、このまま固まっていても無駄な時間を過ごすだけだしな。暇つぶし程度にはなってくれるだろう」
「あはは、理由はもうひねくれててもいいや。頑張ってねー」
「ついでに、お前の隣の男子。一時限目から寝ているから起こしとけよ」
「え?」
カズマサ爆睡
今日の朝カズマサは居眠りなんてしないって言ってた気がするが、どうやら空耳だったようだ
なにはともあれ、サボってると思われたら何かと面倒だな。さて、プリントの問題を…っと、やはり簡単な問題ばかりだ。やる意味あるのか?
自分の行動に疑問を感じつつも一応取り組む
〜数分後〜
解き終わってしまった。
簡単すぎて解き終わってしまった。
クッ、暇だ。今日はやたらと話しかけられるからな。もしかしたら、誰かに話しかけられるかもしれない。
「あの、海道君…」
まさか、本当に話しかけられるとは思ってなかった。この子は確か朝から険悪になってしまった女子だ。それなのに話しかけて来るなんてどんだけ重要な用件なのだろうか。
「どうした?」
カヅキからはクラスの皆と仲良くしなよみたいなことを言われたし、いつもより友好的にいくか。
「あの、ここの問題分からないんだけど…教えて欲しいな…」
そこはかとなく遠慮した感じで尋ねてくる。
「大丈夫だ。ちょうど暇だったしな」
これはかなり友好的だ。好印象なはずだ。このまま、このままだ。
「どの問題だ?」
すると、川崎は机をこちらに寄せてきて「これ」と一つの問題を指差してきた。どうでもいいことなのかもしれないが、なぜかこのクラスの男子の視線が俺に突き刺さっているような気がする。
まあ、そんなものは気にしなければ無いのと同じ。そんなことより、川崎の分からない問題だ。結構最後の方の問題だな。
どれ…
「簡単な問題だな」
いつの間にか俺はこの心の中の言葉を外に出してしまっていた。少し失敗したかな。この発言は聞きようによっては嫌みじゃないか。
「あはは、私勉強あんまり得意じゃないから。………………天才っていいよね」
最後ボソリと付け加えた言葉。聞こえないように気を遣ったのか小さな声だったが地獄耳で聞こえてしまう。
「天才…か…」
よく言われる。勉強も戦闘もかなりできる俺は天才という言葉をよく使われる。でも、俺はこの言葉が嫌いだ。
「俺にとっては天才なんて言葉は悪口でしかない」
「え?」
「天才という言葉は生まれつき持っている極めて優れた才能という意味だ。天才という言葉を聞くと俺には『こいつは生まれつき頭が良かったから成績がいいだけだ』というようにしか聞こえない。天才という言葉を聞くと俺の努力が否定されているような気しかしない」
「あ、ごめん…」
む、……またやってしまったようだ。友好的にしなければいけないのに。
まあ、誰かと仲良くするなんて難しくてとても二週間でできることじゃない。ならば、もうクラスメイトと友好的にする必要なんてないんじゃないか?
半ば理屈っぽく理由をつけて諦めていた時
「なんか、私海道君を傷つけてばかりだね。本当にごめん」
ん?なんなんだこの空気は。俺が悪いみたいな感じになってる気がするぞ。反応に困る行動はやめて欲しい。
トントンと背中が何か細いもので軽く突かれた。言うまでもないカヅキだ。多分…
『クラスメイトととは仲良くしようね』
ということをペンで伝えているのだろう。
クッ、俺らしくないが優しい感じで接するしかないか
「別に、お前は悪くない。むしろ謝りたいのはこちらの方だ。色々すまなかったな。きついことを言って」
「海道君…」
なんか、いい雰囲気じゃないか?もっと距離を詰めることができそうだ。戦局を見て攻めどきを見極めるのは大切な素質だ。
「その、海道ってやめないか?普通に呼び捨てでシンでいい」
すると、川崎は目を見開いて驚いたような顔をする。ん?どういう反応だ?やはり、経験の差というやつだろうか。ほぼ友達作りなどしたことのない俺にはどうすればいいのか全くわからない。
「あ、その、私のこともサキで…いいよ」
おっと、なんだこのラブコメ展開。自分でふっかけておきながらこんな展開になるとは思ってなかった。このままピンク色の空間を保つわけにはいかない。息苦しくて窒息死しそうだ。
「とりあえず、この問題を教える。準備は大丈夫か?」
「うん!」
はぁ、もっとローテンションでやってくれよ。そんなにイキイキとされると吐き気がする。
さらに険悪になるどころかかなり川崎…改めサキと仲良くなった。しかし、仲良くなることが必ずしもプラスの効果があるとは限らない。
〜放課後だ〜
一時限目の授業から大きく飛んで放課後だ。なぜこんなにも飛んだのか。一応昼休みの食堂での事件などもあった。小さな騒動もいくつかあった。しかし、これらを書くと文章量が膨大な量になってしまうので割愛したのだ。
さて、どんな事情であれ今は放課後だ。基本的には部活動に入っている生徒以外は帰るしかすることのない時間帯。
「で、では、今からうちのクラスの出し物について決める話し合いをします」
教壇でサキが慣れていないと言った感じで俺たちに向けて話す。
中学校以来の授業で興奮して忘れていたが、そもそも授業が受けられるのもこれがあるからだった。
「文化祭の出し物は何がいいですか?」
文化祭。さらにその出し物だ。
チラリとカヅキとカズマサを見る。
ふぅ、ここが正念場だ。
感覚的にそう感じた。
うーん、文化祭という感じがしませんね