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左利きで悪かったな  作者: @
第一章 理不尽という必然のストーリー
10/20

まだ…

この猫探しの最終話です。

「助けに来たぜ」


そいつはなぜかボロボロで体の所々から血を流していた。でも、お前はそれでも無理して戦うんだろうな


俺の知っているカズマサとはそういう奴だ


明らかに自分と他人の優先度が偏りすぎている。だから、自分の命を捨ててでも助けようとする。

でもな、そんなこと続けていたらいつの日か精神が疲弊して壊れていくだろう。

死なないとは体のことだけの話で精神的にはもう何度も死んでいるのだから。だから俺は先輩思念体として偉そうに上から目線で


「死ぬなよ」


ちょっとしたアドバイスだ。そのアドバイスにカズマサはニヤリと笑って答える


「当然!」


そして、カズマサは敵に向かって一歩踏み出した。かっこつけているわけではないのだろうが、俺にはそんなカズマサがかっこいいと思う


「で、俺は何をすればいいんだ?」


間抜けな顔でこちらを振り返って俺に問うてきた。今までのいい感じに締まった雰囲気を台無しにするアホらしい顔だ。見ただけで蹴り飛ばしたくなるようなほど腹が立つ間抜けな顔。

それに俺はため息をつき、周りを見て、自分しか説明できる思念体がいないことを確認すると仕方なく説明を始めることにした


「いいか敵は四人と四匹だった。だが、お前の攻撃ですでに男は全滅した。次に女の方だが、あれは猫又だ。ん?なに驚いた顔をしている?そもそも思念体のルーツをたどれば陰陽師だぞ。不思議なことは何もない。話を戻そう。猫又の三匹は俺を倒すために炎の大剣を作り出し、妖力枯渇で行動不能。無視していい。だからお前が戦うべき相手は目の前にいる猫又一匹だ」


俺は長々と説明を終えた後またもやため息をついた。


「じゃあ、俺はあの猫耳で巨乳のエロいお姉さんを倒せばいいってことだな」


猫又をの特徴の絞り方がなんとも男子高校生らしい


「まあ、どんな表現であれその通りだ。身体能力も高いが妖術に気をつけろ」


「はいよ。それにしても女の人を殴るのか…」


なぜか、そこで躊躇うカズマサ。


「とりあえず忠告しておくが、いかに巨乳でエロくて綺麗なお姉さんだろうと舐めてかかると痛い目見るぞ」


その俺の真剣な言葉をカズマサは「へいへい」という適当な返事を返してきた


「おい、そんな心の…」


そんなカズマサを叱責しようとしたがその言葉は途中でカズマサが手を挙げたため遮られた


「まあ、なんとかするからシンは寝とけ」


「ね、寝とけって…」


本当に大丈夫なのか?


俺は一欠片の不安を感じていた。しかし、カズマサが腕に足に体全体に電気を流すところを見てその不安は吹き飛んだ。相手が女で、本気で殴るというのは確かにカズマサの中ではいけないことなのかもしれない。でも、仲間を救うためならお前は拳を握れる。


だから、もう俺がこれ以上介入する必要はないだろう。むしろ邪魔になりかねない。

ならば、カズマサの言った通り寝ておくか。そもそも炎の剣は俺の内臓もろとも全部焼いてしまっているのだ。休憩したっていいだろ。


俺はずっと張り詰めていた緊張の糸を緩めると途端に瞼が重たくなり、カズマサと猫又の激しい戦いが始まろうとしているというのに深い眠りに身を委ねてしまった














〜まだ洞窟の中〜


「おい!起きろ!」


俺は夢すら見せないほどの深い眠りについていたというのに肩を激しく揺らされて起こされる


「あ?殺すぞ?」


寝起きの悪い俺は肩を揺らしてくるクソ野郎に腹が立ちありのままの心を言い放つ


「ヒィ!」


そのクソ野郎はそんな俺にびびって大きく後方に逃げた


「ちょ、俺だって、起きてすぐの言葉バイオレンスすぎるだろ!」


俺は正気に戻って目の焦点を合わせるとそこにはクソ野郎、改めカズマサがいた


「すまない」


まだ頭がぼーっとしているため言葉を出すことも困難だ


「まあ、それはいいけどよ。カヅキからシンの寝起きが悪いことは聞いてたしな。そんなことよりお前は起きたけどカヅキが起きないんだよなぁ。どうすればいいと思う?」


む、カヅキが起きないだと。それは一大事だ


俺には医療の心得などを特に手をつけているわけでもないがカヅキの様子が気になったのでドームの端にいるカヅキの元へ走って行く。

走っている時に気がついたんだが、寝ている間に俺の傷はほとんど治っていた。多分寝たことによって普段使われているエネルギーを回復に回したのだろう。まあ、そのせいで体力は全然回復してなくて疲労感が俺を蝕んでいるという現象が起こっているがな


というか、カヅキの元へ走って行くと描写したが、実際のところ俺とカヅキの距離は数センチしか開いてなかったため俺の行なった動作は立って一歩カヅキに向かって踏み出しただけだ。

そこではドームの壁を背もたれにして眠っている一人の女の子…カヅキがいたことは言うまでもないことだ


一応俺はカズマサが俺にしたようにカヅキの肩をを持って軽く揺らしてみる。


ユサユサ


起きない…


俺はカヅキの肩を持って激しく揺らしてみる


ユサユサ


起きない…


殴る


ゴン!


「てめえ!カヅキに何してんだ!」


俺がカヅキを殴ったせいかカズマサから怒鳴られた


「全くお前はショック療法も知らないのか?テレビだって叩けば治ることだってあるだろ?」


「な、なるほど…」


ここで納得するあたりがカズマサらしい。


「それにしても起きないな。これはちょっと病院に連れて行く必要がありそうだ」


「マジか!」


「ああ、カズマサ動けるか?」


俺はここで初めてカズマサの様子を見てみる。平然としているようで意外と重症だ。生命力のおかげでなんとか生き残っているといった感じだった


「いやぁ、それが少しくらいは動けるけど洞窟を抜けるのは厳しいかな」


「だろうな」


二人なら担いでいける。だが、忘れているかもしれないが猫もこの場にいるのだ。他の念力使いや猫又はこの場からいなくなっていた。詳しい話は後でカズマサに聞くとしよう。


右にカヅキ左にカヅマサで洞窟を出ると猫は?ってなるし、メンバーを変えても同じことだ。そもそも怪我人には俺のスピードは害でしかない。来る時はかなりゴリ押しな走り方をしたしな。ならば、俺が運ぶより…


「ふぅ、警察呼んで運ばせるか…」


俺の決断は俺の動かせる警察をここに呼んで応急処置。そこから洞窟の中から担架を使って出て、救急車で病院へ行くという作戦だ

もちろん警察を呼びに行くのは俺だ。本当は電話をかけて呼びたいところだが生憎ここは圏外らしい。


「じゃ、俺は一旦外に出る。もしも敵が来たりしたらなるべく時間を稼いでくれ。カヅキに指一本触れさせるなよ」


「おう!任せとけ!」


実際カズマサはフラフラで戦えそうにない。なるべく早く戻らないとな


「じゃあ」


俺はその言葉を言い終える前に足に力を入れて出口に向かって全力で走る


行きの時も通った洞窟の道。しかし、その様子は最初の印象とは大きく違っていた

壁は所々ひびがはいっていたり、壊れていたりしており、地面には穴が空いていたりしている。


こ、これは…全部罠か?もしかして…カズマサは罠にひっかかりながら無理矢理あそこまで辿り着いたのか。


この罠にかかったあとの量が尋常じゃない。もしかしたら律儀に全ての罠にかかったんじゃないかと思わせるほどだ


そんな感じで俺が通った時よりも多少洞窟が荒れていた。そのため俺は慎重に洞窟を進む必要があった。


まあ、慎重に行くといってもなるべく速く行ったため実際には出口まで三十秒ほどで着いた。最初は二十八秒くらいで着いていたので、俺がどれだけ慎重に進んで行ったかが分かるだろう


「あ、シンさん。遅いので心配しましたよ」


本当に心配そうな様子で俺の出迎えてくれたのはここまで案内してくれた俺が動かした警察のリーダーだ。

俺のプランとしては携帯電話で色々しようと思っていたが、警察が近くにいるのであれば好都合だ。


「すまないが、お前の持っている無線機を貸してくれないか?」


「え?いいですけど…それ今動いている警察全員に繋がりますよ?」


その警察は疑問符を頭に浮かべながらも無線を俺に貸してくれる。全く警察全員に繋がるとはさらに好都合だ

俺は無線機の前で一つ咳払いをして


「シンだ。今すぐ街の北側にある洞窟に来い。以上だ」


そのあまりにも短いそのメッセージには強い強制力があった。自分で言って自慢みたいだが、実際この言葉を言ってから三十秒しか経っていないのにチラホラと警察たちが集まってきている。


「そこのお前。救急車を呼んでくれないか?洞窟の中には意識不明の思念体が一人、全身傷だらけの思念体が一人、猫が一匹いる」


俺はたまたま近くにいた少し小柄な警察に命じる


「お、俺っスか」


「そうだ。早くしてくれ」


「は、はい〜」


そうして、小柄な警察官は洞窟の前の広いスペースの端に行ってどこかに電話をかけ始めた。


「よし、これだけ集まれば大丈夫だろう。担架を二つ持って洞窟の中に入るぞ。メンバーは足の速い奴がいい。スピードに自信のない者はこの場で待機してくれ」


異論反論は認めないというのを付け加えない。そんな異論を言う暇さえ与えなかったからだ。それを言い終えた俺は一足先に洞窟の中に入る。やはり、最初は洞窟らしく暗いのだが、すぐに洞窟の天井から光が注がれて、洞窟を明るく照らす。


どうやら俺の言葉通り後ろからは数人分の足音が聞こえる。さらに俺の軽めの走りについてこれるほど速い奴らばかりだ。


これなら一分前後で目的地まで辿り着くはずだ。


俺は安心しながら荒れた洞窟の中を走って行き、とうとう鋼鉄の扉があった場所。今は扉がないのでただ穴が空いているような印象だが、とにかく半球のドームに辿り着いた。




俺はそのドームに入った瞬間思わず足を止めてしまった。


そこで見たものは泣きながら抱きつくカヅキと、それを受け入れて優しく抱き寄せるカズマサ。


美しい


俺がここに来て最初に思ったことだ。ただ美しいと思った。


二人のその抱き合う光景に微塵の不純さもない。むしろ感動さえ感じてしまう光景だった。


「ど、どうしたんですか?」


俺は警察のその言葉で我に返った。

そして、改めてカヅキ達の方を向く。次に浮かんできた感情は感動などではなかった。いや、感動はしていたのだろうか。感動していたからからこう思ったのかもしれない


その感情は諦め


その二人があまりにも似合いすぎて、俺の入る隙間なんて少しもなくて、でも、なぜかそれでもいいと思った。


よく考えたらあの二人は幼馴染だ。心の距離が圧倒的に違う。だから、もう…いい。


「あの、どうしたんですか?」


またもや警察が俺に話しかけてくる


「俺はもう帰る。後は任せたぞ」


俺はそう言うと洞窟の中を走った。今までよりも不器用な走りで、壁にぶつかりながら、躓きながら、ひたすらに走った。なぜこんなにも必死に走るのかもわからないままとにかく前へ前へ…進んで行った















いつの間に洞窟を抜けていたのだろうか。俺は霧のかかった森の中にいた。


誰もいない。ここには俺一人だ。


大体俺は今回何ができたというのだ。カヅキを傷つけ、カズマサも傷つけ、警察も無駄に動かして、俺はカヅキとカズマサと一緒に猫を見つけたと言えるのか?


幸いここには誰もいない。


クールキャラ?感情を表に出さない?何を言っているんだか、俺はまだ少し強いだけの高校一年生だ


「うあああぁぁぁぁぁ」


俺は泣いた。数年ぶりに大きく声を上げながら泣いた。






今回俺が経験したのは仲間を傷つける経験、仲間の強さを実感する経験


そして…



失恋といういたって高校生らしい経験だけだった


はい、終わりました。モッチーからは「なんかモヤモヤする」と言われたこの猫探しですがいかがだったでしょうか。皆さんも猫探しは気をつけてくださいね。

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