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怒ってなどいない

 この物語は拙作「兄妹戦争」の更新の時間稼ぎになればいいなー、と邪な気持ちで作者が書いたラブコメディである。

 晴天。

 雲一つない戦日和のその日、オルネス皇国騎士団長であるリグリット=セントブルグは、黒曜馬に跨り、戦場のなかにいた。

 ひと際目立つ――白銀の鎧で身を包み、黒曜馬に乗る。彼を固めるそれらはオルネス皇国騎士団長であることの証であり、なによりも『戦鬼』と称されるリグリット自身を示す目印だった。

 それは、味方にとっても。敵にとっても。


 ―― 戦鬼出でれば、戦終わる ――


 その字名と言葉の通り、リグリットはいくさで負けたことがない。一度たりとも。

 だからこそ、『戦鬼』は恐れられる。

 今もまさにそうだ。敵であるマチルダ帝国軍は延々と防戦一方で、敵大将率いるはずの後陣はすでに逃げの一手をとっていた。こうなれば勝敗は決まったも同然である。また一つ、リグリットの戦歴に白星がつく。

 英雄だ。

 オルネス皇国兵たちの顔に歓喜の笑みが浮かぶ。

 見事に卓越した指揮術と、奇抜な計略の数々。常識を並々外れたそれらすべてがすべて、面白いほどはまりにはまった。

 だが、彼は。勝利の立役者としてはこの上なく喜ばしい……はずなのだが。

 一方。

 対して、大将である彼――リグリットの機嫌は、かなり悪かった。

 ガガッ、ギギギイィィン!!

「……うるさい」

 音、音、音……

 激接する剣と剣、槍と槍。あるいは両方。耳がもげそうになるほど、幾度も幾度も、鉄のこすれる金属音が戦場中に響いていた。しかし、いつまでたっても鳴り止むようすはなく、それどころか敵大将らの撤退により、指揮系統の麻痺した前線は余計に酷くなるばかりだ。リグリットは嫌悪感に顔をしかめる。

 ガギッ、ガガガッ、ギイイイィィィン!!

 ――腹いせにその辺の敵兵を八つ裂きにしようかな……?

 などとイライラしすぎて物騒なことを考えていると、副団長のセスタ=ジェシールが隣に来て、馬を並べた。

「団長、最初の作戦通りキオラを後陣に下げま……なんで、キレてんすか……?」

「怒ってなどいない」

 リグリットは憮然と言う。

「いやいや。そんな顔で言われてもぜんぜん説得力ないっすよ。ただでさえ顔が怖いのに、それじゃあ……」

「怒ってなどいない」

「…………」

 ものすごい頑固だっ!! と大将であるリグリットを囲む新参者の兵たちは内心驚愕したが、古残の兵たちはいつものことなのでそれほど気にとめなかった。気にしているのは、リグリットのせいで何時も気苦労の絶えない坊主頭のセスタだけである。本人いわく、ハゲではないらしい。

 はああぁぁ、とセスタは深々とため息をつく。

「まあ、それはいいです……とにかく。先行部隊のキオラの隊は下げさせました。本人はまだまだ暴れたりないと、少し文句を垂れていましたが」

「訓練を五時間追加」

 きっっつっ!! とリグリットを囲む新参兵たちは内心驚愕したが、古残兵たちはいつものことなので気にとめなかった。キオラはいつもこうなる。

「悪い、キオラ。往生してくれ……」

 やはり気にした、というか間違いなく原因であるセスタは申し訳なさそうに胸の前で十字を切った。


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