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異界の英雄記  作者: お蕎麦屋さん
決死の皇国
13/23

その13  決戦2 マリアとグベル伯爵

「ガレアスちゃぁん、聞こぉえるぅ? レイスちゃんもぉ」

 


 手の中で、マリアに埋め込まれていた不死の石の欠片をいじくるアイーダ。魔王様に教えられた通りに、不死だった大賢者マリアベールの胸の中に埋め込まれていた不死の石を砕いたのだ。流石魔王様、博識だ。


 

『お前、生きていたのか』


 

『チッ』

 


 多少息を切らしながら、ガレアスが通信魔法に応じ、レイスがわざわざ聞こえるように舌打ちしてきた。可愛くない奴だ。

 


「大賢者は、死んだわよぉ。もう、あの光が落ちてくることはないわぁ」

 


『本当か!?』

 


「ええ、それとぉ敵の本陣もぉ壊滅したからぁ、戦闘ももう楽勝――」


 

 と、アイーダが言いかけた所で、異変が起きた。何だろ、この魔力の流れは?

 そして、雲を引き裂き、突如として空から落ちてくる極光。それが、戦場に直撃した。

 ガレアスの通信が強制的に途切れ、レイスの絶叫が聞こえる。


 

 なんで? なぜ?

 


 振り返ると、マリアがそこに立っていた。


 

「あり得ない、あり得ない、あり得ない!」

 


 なんで、氷漬けにされて、バラバラに砕かれて、不死の石まで砕いたのにこいつは動いてられるんだ? それは、不死とか、超再生とかそういうレベルじゃなかった。

 


 ニヤァァァ。

 


 未だに、凍り付いているマリアが頬を釣り上げて、笑い始める。

 


「クククク、アハハハハハハハハっ! 伊達に数百年も生きてませんわ。すでに自分の身体も、不死の石も研究し尽くしています。あのくらいでは、即死はしませんよ」


 

「っ!!」


 

「とは、言いましても……不死の石も砕かれたみたいなのでもうすぐ死にますけどね……。でも、貴方がたの軍の壊滅と貴方のその顔が見れたので、少し溜飲は下がりました」

 


 アイーダは、恐怖した。これが、死ぬ間際の人間なのかと思う。ある意味、魔王様以上の畏怖を感じた。これが、数百年生きたという大賢者の最期というものなのか……。


 

「……止めを刺してもらえませんか?」


 

「……」


 

 こいつは得体が知れない。絶対に近づいちゃいけない。アイーダは、本能でそう理解した。


 

「来てくれませんか……。もう、ここから動けないから、そちらから来てもらおうと思ったんですけど」

 


 ほら、何をしようとしているか、わかったもんじゃない。この期に及んで、老獪過ぎる。


 

「仕方がない、死にますか……。貴方も道連れにしたかったのですけどね……。では、【皇国】と私の子供たちに幸あれ」


 

 その言葉を最期に、ガラガラと崩れたマリアが、芥子粒となって大気に散っていく。周囲の状況に合わせて、それはさながらダイヤモンドダストのようであった。

 そこに、極光を見た氷竜が、敗残兵狩りを切り上げてやってきた。

 


「アヤツ、アレで死ナナカッタノカ……。フム、ヤハリ面白イ人間デアッタナ」


 

 そして、私が戦えなかったのが残念だったと、氷竜は思った。

 


「何ヲヘタリ込ンデイル、魔族ヨ? 貴様モ魔王ノ眷属ナラバ、ソノヨウナ醜態ハ見セルベキデハナイ」

 


 氷竜に指摘されてから気づいた。アイーダは、いつの間に地面にへたり込んで、地面を濡らしていた。

 ため息と一緒に、氷の息吹を軽く吐き出す氷竜。


 

「ソレトナ、ヒトツ言ッテオクコトガアル。魔王ニヨリ援軍トシテ送ラレテキタノハ、私ダケデハナイ」

 


「え?」

 

 

 

 グベル伯爵が指揮する最前線。

 敵の左翼が消し飛んだとは言え、戦力差は4倍はあると見える。しかし、最期に受けた通信魔法によると、本陣が襲撃されているようだ。オークの攻撃を避けつつ、チラリとだけ本陣の方を見る。驚いた。あの影はドラゴンか?

 大賢者様は、あの極光魔法を使うために動けないはず。陣にいるのが精鋭部隊と言っても、流石にドラゴンはきついであろう。って、ことはもう極光魔法による援護は来ないと考えたほうがいい。

 


「また……負け戦なのか」

 


 回りの兵士に聞こえないくらいの声で、グベル伯爵は呟いた。

 グベル伯爵は、歴戦の勇士などと呼ばれたりもするが、実のところ負け星の方が多い。

 


「オーガだぁ!!」


 

 前線の兵士が絶叫する。


 

「身体が大きいからと言って、恐れるな! 小隊単位で相手をするんだ!」

 


「そこの、弓兵隊こっちに拠れ!! 我々を盾としろ!!」


 

「魔術師隊、氷の魔法を相手の足元に放て! これ以上後方に敵を近づけるな!!」


 

「傭兵ども、逃げるつもりか?! くそっ」


 

「工兵隊が、前線で戦っている!?」


 

 ワァァァァァアアアアア!!


 

 敵の数は、こちらよりも多い。しかし、多いだけだ。兵士たちはよく戦えている。というか、冷静に戦場を見れば、敵にはすでに逃げ出している者たちがいる。

 敵の士気は、明らかに低い。よほどあの極光が堪えたと見える。

 しかし、一向に本陣からの指示がこない……。やはり壊滅してしまったのか?

 兵士たちは、まだ気づいていない。気づけば、こちらの士気が落ちる。そしたら、負けてしまう。退却するにしても、こちらの数倍の敵と肉薄しているなかで指示を出したら、味方の大損害を出すだけだ。相手の隙を見つけなくてはいけない……。

 難しいな……。そこへ、一際目立つオーガ種がグベル伯爵の前に現れた。


 

「我が名は、魔将ガレアス! 名のある将とお見受けした、お相手頼む!!」


 

 ガレアスの周囲のオークやゴブリン達が周りを空け、半径10メートルほどの空間ができる。

 その声に対し、こちらの兵たちも数歩ずつ後退。戦場の真ん中に、一時的な不戦地帯が出来上がった。

 


(え、あの筋肉ダルマと一騎打ちやんの?)


 

 動揺しているように悟られないように、周囲を見渡す。うん、ここにいる貴族は私だけだ。あいつ、私に一騎打ち申し込んだのか……。


 

 勝つにしろ、負けるにしろ、受けねば貴族としての名が汚れてしまう。それは、魔族との戦いでも言えることであった。

 


「私の名は、グベル伯爵。グベル・“ラ・トゥール”伯爵だ! この地を取り返しに来た!!」

 


「ラ・トゥール……? そういえば、この地の名前であったな。そうか、ならば全力で我を殺しに来るがいい!! 来い!!」


 

 おおう、凄いやる気だ。

 


「では、よろしく頼む!」

 


 ギィン、ギィン、ギィン!

 


「なぜ、素手で剣を受けられる! なぜ、金属音がするのだ!?」

 


「我が身体は、鉄と同じだけの硬さを持つ。その程度の剣では、我が身体には傷ひとつつけられぬ!」

 


 ガレアスは、見た目以上に強力な魔族だった。

 


「ならば」


 

 ぬぅおおおお、と言う雄叫びを上げてこちらへ突っ込んでくるガレアス。それを、地面に転がり回避する。剣は、ガレアスが踏んづけそうなところに投げておいた。剣が役に立たないんなら、さっさと捨てる。それが私のポリシー。

 そして、魔力を練り上げ、炎を発射! それがガレアスの背中に直撃する。そして、決め言葉はこうだ。


 

「熱膨張って、知っているか? つまり、お前は死ぬ」


 

 いや、死なないけど。


 

「何!? 貴様、何をした!?」


 

 えーと、火の玉ぶつけただけです。しかし、ガレアスを倒す方法がみつからない。このままでは捕まって、アーッ! されるに違いない。ふむ。いや、思いついた。派手に負けるとしよう。士気は下がるだろうが、今私が戦死するよりマシだ……。


 

「今のは、嘘だ。そこの兵士、剣をくれ」

 


「謀りおって……」

 


 兵士から剣を受け取り、再びガレアスと打ち合う。一合、二合・・・。

 ガレアスが距離取り、前かがみの体勢を作った。


 

 ――ここだ。

 


 ガレアスのタックルをわざと食らって、後ろに吹っ飛んでいく。その距離10メートル。そして、うまいことに味方の歩兵師団のなかに落っこちた。

 


「我の勝ちだ!」

 


 さしものガレアスも、こちらの陣地に無理しては突っ込んでこないようで、これで決着とした。

 勝鬨をあげる、オークやゴブリンたち。


 

「胸が痛いな……肋骨が折れたか」

 


 まあ、あの筋肉ダルマとやりあって生きてただけ儲けものと考えた、その時だった、空から“極光”が落ちてきたのは。あまりの眩しさに目が眩む。土煙が巻き起こり、生き物が焼き焦げていく匂いが立ち上った。

 これにより、魔王軍【皇国】方面軍が壊滅した。不幸にも、突出し孤立して巻き込まれた【皇国】の英霊たちには冥福を祈ろう。

 


 だが、これで戦いは終わりではなかった。

 グベル伯爵は、地面に座りながら敗走していく生き残りのオークたちを目で追いかけた。やがて、それが平原の端に行き着く。そこにあったのは、新たな魔王軍の旗印だった。その旗には、なんの装飾も施されてはいない。混じりっけのない魔王軍の旗。それは、魔王直下の精鋭であることを表す。


 

「このタイミングで増援とは……」


 

 フフっ、と、つい笑いが出てしまった。

 平原の端にずらっと並んでるところを見ると、2万ってところだろうか?

 そして、味方はどれくらい残ったのだろうかと周りを見渡す。立っているのはざっと見て、7000か? 魔王軍との戦力差で見ると、意外と多い。だが、1時間あったかどうかの戦闘で失われた人数として考えると、少ないのかも知れない。

 立ち上がり、剣を振って集合の合図をかけ、直ぐに集まってきた部下に命令を下した。


 

「通信魔法兵はいないのか? 仕方がない。お前とお前、伝令を頼む」


 

「はい!」と、答える若い二人組。元気だ。


 

「本陣は、もうない」

 


「え……」


 

 目の前の若い兵が、困惑の表情を浮かべる。そして、回りにいる兵士たちからもざわめきが起こった。

 これは確信だ。空からの“極光”が撃たれ、魔王軍が壊滅しているにも関わらず、通信魔法が届かないのだ。


 

「だから、私の名前で全軍に退却命令を出して欲しい。何、どこかにいるはずの通信魔法兵でも使えば直ぐだ。その命が完了したら、近くの部隊の指揮下に入って退却するように、以上だ」

 


 では、行ってよろしいと、促す。命令を復唱して去っていく若者二人組。

 


「でだ、残った君たちにはお願いがある」


 

 グベル伯爵の視界にいるすべての兵士の顔が引き締まった。


 

「私に、命をくれ」

 


 兵士たちの間に、沈黙が流れた。


 

「あそこに、魔王軍の増援が見える。あれを、味方の退却完了まで抑えなくてはいけない。それには、皆の力が必要だ。だが、伴侶がいるものと幼い子供がいる者は去れ。今直ぐに」

 


 だが、誰も動かない。ふぅと、ため息をつく。


 

「君たちのほとんどは、ラ・トゥール領からついてきてくれた兵たちだ。だから、知っているぞ? カール! ソケット! 貴様らは、結婚したばかりだろ! フロッグ! ケリー! ニック! 貴様らは、子供が生まれたばかりだろう? 私は、君たちの親族に恨まれたくはない。だから、ここは退却してくれ」

 


 名前を呼ばれた兵士たちが、暗い顔をしてグベル伯爵に背をむける。それでいい。


 

「他にはいないか? 居ないなら、街道が細くなっているところまで行こう。あそこが一番守りやすそうだ」

 


 ラ・トゥール領、平原の戦い結果報告。

 “空よりの極光”2発目時点。

 魔王軍【皇国】方面軍約60000壊滅。

【皇国】軍、継戦可能者約6700。

 魔王軍本軍、約20000到着。

 


【皇都】への【皇国】軍、帰還人数97人。

 


 彼らが退却するのには、河を船で渡る必要があった。

 しかし、そこに待ち受けていたのは氷竜。たった一匹のドラゴン。

 彼を無視して、船で河を渡るのは無謀であった。

 河を渡れずに右往左往する【皇国】軍。

 そこに、魔王軍本軍約20000が殺到。

 彼らは、統率された動きも出来ずに殲滅された。

 グベル伯爵が戦死するまでに、手勢267人で約20000の軍勢を防いだ時間。およそ2刻。これは、無駄となった。

 


 そして、魔王軍本軍の後方部隊約5000を除いた約15000が、主力部隊を失った【皇都】に押し寄せる。

【皇都】守備隊、僅かに500人。

【死者たちの庭】

マリアベール「これが、私の全力z(ry」

グベル「その幻想俺がぶちk(ry」

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