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異界の英雄記  作者: お蕎麦屋さん
決死の皇国
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その1  異界へ

 彼が召喚魔法を編み出して10年。大賢者と呼ばれる者は、3度目の召喚を行おうとしていた。召喚を行うには、様々な条件が必要だ。そのすべての条件を満たせるのが、“ここ”であった。しかし、そこには魔王軍が存在し待ち受けていた。

 魔王軍【皇国】方面軍第三特別潜行中隊。そして、その臨時指揮官魔将レイス。


 

「魔王さまの言う通りだったな」


 漆黒の鎧を着こみ、マントを靡かせレイスが喋る。


 

「ブギィ、フゴッ!」


 

 そして、ゴブリンやオークを中心とした異形達が、雄叫びを上げた。


 

「な、なぜ魔王軍がこんなところに!?」


 

 大賢者が目を見開く。ここは、【皇国】の勢力圏内。しかも、首都である【皇都】との目と鼻の先。


 

「今日、ここにお前が現れることを魔王さまが予言された」


 

 レイスが、マントを靡かせながら話す。


 

「そして、お前が一人で来ることも読んでおったぞ?」


 

「っ!?」


 

 召喚魔法というのには、リスクが伴う。召喚に失敗すれば、召喚を行ったところから範囲数十メートルが次元の間に挟まれて消滅するのだ。無論、これは大賢者は知らない。しかし、そうなるであろうことは彼には想像がついていた。だからこそ、一人でこうしているのだ。

 

(魔王は、召喚魔法のことをわし以上に知っているということなのか!?)


 大賢者は、驚愕して身を震わせた。倒錯して、倒れそうにもなった。しかし、彼の周囲に魔力が集中する。

  

「驚いているところ申し訳ないが、それでは命を頂こう。多勢に無勢で申し訳ないが、こちらは【皇国】の“大賢者様”の御力を甘く見てはいない!」


 

「くっ! “炎獄”魔法を喰らうのじゃぁあああ!!」


 

 大賢者の容赦のない先制攻撃。それは、面で押し進んでくる地獄の業火。何も遮蔽物のない草原では、避け用のない炎。それにより、大賢者はゴブリンとオークの半数以上を焼き殺した。しかし、それまでだ。魔将レイスがしゃべっている間に魔力を練り上げ、全力で放たれた炎系魔法の最上級である炎獄。再び使うには、長いインターバルが必要だった。他の魔法もしかり……。

 


「フフフフフ……」


 

 オークを盾にし、炎を回避した魔将レイスが大賢者の前に大剣を構えて現れる。


 

「凄い火力だな。魔王さまが警戒為さるのも分かる」


 

 ――では、死ね!

 

 魔将レイスの持つ大剣による渾身の一撃。しかし、横薙ぎに払われたその斬撃は、大賢者の幻影を捉えたに過ぎなかった。それは、大賢者の切り札。その場に、己の姿の虚像ホログラムを作り出し、相手にその姿を誤認させる魔道具。大賢者は炎獄を目眩ましに、虚像を投影。その場から、すでに逃走していたのだ。

 


「幻影か! どこへ行った?! 探せ!」


 

「あらん、レイスちゃん、まさか逃げられちゃったのぉ?」


 

 レイスの前に現れたのは、同僚である魔将アイーダ。彼女は、まるで娼婦のような女性の魔族だ。炎獄の炎で焼かれた大地が熱いのか、それ以外の要因か、頬を染めて漆黒のローブを着崩して肌を露出している。


 

「貴様、邪魔でもしに来たのか?」


 

「そんなわけないわよぉ。私は、貴方の予備よぉ。予備」


 

「予備だと?」


 

「そう、予備。魔王さまのォ、可愛い、あの子たちがァ半数以上やられたら私が大賢者をやるように言われて来たのよぉ」


 

 ――だから、針を刺しておいたわん。あつぃ針をねぇ。


 

「まぁ、止めは刺してないから、後は貴方に譲るわよん。じゃあねん」


 

 レイスは、アイーダが去るのを睨むように見送った。


 

「ふん、むかつく女だ。まぁいい。何をしている貴様ら、大賢者を探しだせ!」


 

「ヒャッハー、フゴ!」

 


 異形たちは、レイスの命を受けるといくつかの班を作り、大賢者の捜索を始めた。

 

 

 逃亡に成功した大賢者。その間に、風による通信魔法を使い、【皇都】に助けを求めた。だが、大賢者はすでに魔将アイーダによる攻撃を受けてしまっていた。脇腹に刺さる“針”。それには、相手をゆっくりと砂に変え、死に至らしめる猛毒が塗られていた。


 

「ぐうぅぅ。こんなところで……」


 

 抵抗呪文にて、毒の侵攻を遅らせようと試みるが、大賢者は自分の死期を悟るだけであった。

 

 そして、大賢者は廃墟を見つける。その廃墟に“認識阻害の魔法”をかけると、彼はそこで最後の召喚を行うことにした。召喚に必要な条件は完全ではなかった。しかし、彼はむざむざここで死ぬ気はなかった。せめて、最後に魔王を倒せるだけの力を持つ“英雄”を召喚できることに賭けて……。

 

 

 

 俺、渡瀬進一わたらせしんいち は平凡な人間だった。小学生の時に、母と父が離婚。母親に引き取られた。その後、普通に中学、高校と進み、たまたま受かった大学をダラダラと卒業。そこそこな会社に入社するも、2年目に会社が潰れた。その後は、バイトで食いつなぎ、特に目標のない生活を続けていた。母親と二人暮らしではあるが、バイト代の一部は生活費としていれているので、定職についていなくても特に文句は言われない。現在は、25歳である。趣味は、専らTVゲームかPCゲーム。身体能力は人並み。眼が悪いので、メガネをかけている。

 それで、今日は友達と遊んで家に帰ってきて、そのままベッドに寝転がって天井を見つめていたはずだ。それなのに、気がつけば綺麗な月を眺めていた。何故だ? 混乱しながら首を動かして、状況を把握しようとしてみた。

 まず、俺は自分のベッドの上にいる。そして、ここは天井が抜けたどこかの廃墟のようだ。あまり、広くはない。家の造りは、日本式の家には見えない。なんというか西洋風なのか? 俺の知識にある家ではないようだ。ポケットから携帯を取り出し、どこかに電話をかけようとしてみた。しかし、“圏外”。それは、少なくとも携帯の電波が届く範囲に中継基地がないことを表している。

 


「訳がわからない……」

 


 俺は、ぽつりとそうつぶやいた。

 自分の意識が途切れたという認識はなかった。それなのに、いつの間にか自分が全然知らない場所にいる。もしかして、夢か? と、思ったが、夢にしてはリアリティがあり過ぎる。

 

 なんとなく、人の息遣いを感じて床を見てみた。

 

 ビクッ!

 

 本気で驚いた。変なゆったりとした服を着た、爺さんが寝転がっている。


「おい、どうした!?」と、声をかけると、理解のできない言葉を喋ったあとに、その爺さんは砂となって消えた。そこには、服と杖。そして、人一人分の砂が残された。

 


「これは、なんなんだ?」


 

 倒れていた謎の爺さんが、得体のしれない砂になってしまった。底知れない恐怖が、俺を襲った。状況に対する理解が追いつかない。

 

 その時だった。不意に回りが騒がしくなる。人の気配と言うよりは、動物の息遣いに近いものが割れかけの窓の向こうから聞こえてくる。こちらの様子を伺っているのか?

 ……ベッドの脇に転がっていた自分の“竹刀”を握り締め、息を殺す。

 


(怖ぇぇ、もう何なんだよ……ネコか? ネコであってくれ!)

 

 

でも、ライオンとかは勘弁な……と、思う。

 自分が何に巻き込まれたかなんて、想像もできない。しかし、今の状況で友好的な存在がこちらの様子を伺うとは思えない。そして、足音が出入り口と思われるドアの方へ移動していく。複数だ。ドアがゆっくりと開かれる。人影が3つ。暗闇でよく見えないが、3人とも150センチほどの身長で、“銀色の細長いナニか”を手にしている。認識した、アレは“刃物”だ。体からでる冷汗が止まらない。


 

(いやいやいや、強盗? 強盗か!?)


 

 逃げたい、が、こちらに退路はない。後ろに窓があるが、そこから逃げようとするものなら、背中を叩き斬られるだろう。相手は、有利を悟ったのかゆっくりと近づいてくる。竹刀を握る手に力が入る。

 そして、奴らとの相対距離は3メートルほどとなった。いつ、斬りかかられてもおかしくはない。そして、3人のうちの一人が月の光の下に入った。そいつは、ヒトではなかった。

 顔の3分の1ほどを占める大きな瞳。緑色の肌。尖った耳。大きな鼻。そして、何が面白いのか三日月型に吊り上がった口をしている。この異形、RPGとかでよく見るゴブリンってやつだった。

 

 ――ファンタジーの世界へいらっしゃい

 

 そう誰かが囁いた気もするが、そんなの気にしている余裕はない。

影の薄いご先祖様の短編でも書こうと思ったらこうなった。というか、長編です。というか、ご先祖様全く出て来ません。構想はできてるので、完結まで頑張ります。

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