9.私、ハーフ魔族でした
「お前、魔族だぞ」
ノワから告げられた衝撃の事実。どうやら私は魔族らしい。
「あ、そうなんだ!私、半分魔族なんだ!」
「ああ、あまり見られないが『半魔』というやつだな』
そっかー!そうだったんだー!
「……って、なるわけないでしょうが!!」
いきなり現れた魔王に、5年一緒にいた執事が魔族で。
今度は、私まで半分魔族だと!?
「いやいやいや、それは流石にないでしょう。私、両親とも人間だよ?何なら魔族とは正反対の金髪王家生まれですって」
「ああ、その体は確かに人のものだ。問題はお前のここ……」
そう言ってノワは私の胸元あたりをトントン、と突く。
「魂とでも表現すべき部分が、半分俺たちと同じなのだ。魔族は特殊な種族でな、同族の魂であればすぐに気づく。」
「いや、それちょっと主観的過ぎない?」
(要するに、根拠は「魔族に見える」とかいうそれだけってことだよね)
それも、ちょっとおバカそうな魔王様の言うことだ。信用ならないことこの上ない。
(あ、魔族が同族を見分けられるなら、ハクにも出来るのか?)
そう思い、助けを求めるようにハクを見る。
「ハク!私、魔族なんかじゃ……」
「ご安心ください、ちゃんと魔族ですよ」
(……安心できるかぁ!!なんだ「ちゃんと」って!)
がっくりと膝から崩れ落ちる私。この世で一番信頼している人間(実は魔族でしたが!)にこう言われては、逃げ場がない。
「たまにあるのですよ。魂の情報を消し忘れたまま別の肉体に入ってしまうことが」
「輪廻転生、ってやつですか……」
それも「消し忘れ」とは。
(私、失敗例……エラーみたいな存在なのか?でも私、そもそもこの世界の魂じゃないよな……??)
もしも輪廻転生が世界をまたいで行われているのなら、私は前世でも実は半分魔族だったということにはならないか。
色々と疑問は湧いてくるが、しかし。
(んあー、情報量が多い……もう何も考えたくない……)
頭から湯気でも出そうである。
「そう落ち込むな、魔族でないもう半分は人間なのかもしれん。だが近づかないとこの俺ですら魔族とは分からなかった辺り、何やら尋常ではない気配を感じるが……」
「もういいです……これ以上情報を詰め込まないでください……」
とりあえずは今目の前の状況を整理し、片付けることから始めよう。
「それで、私が半魔……ってやつだとして、その黒の系統の後継者にしたいと?」
「そういうことだ。厳密に言うなら『黒の当主の後継者にしたい』だな。」
ほう、当主とな?
「2つの系統は、それぞれに代表者……当主を持つのです。基本的には当主の言うことは絶対であり、それに仕える形で規律を保っているのですよ」
「そして当主は自身の治める系統の魔族から、後継者を指名できる。自分の身に万が一のことがあったとき、その跡を継がせるためだ」
「は、はあ……」
疲れた頭で必死に考える。
(要するに、魔族は黒と白の2つの系統に分かれてて、それぞれが王様による専制君主制……みたいなことか?)
「あれ、それじゃ魔王って一体何なの?」
「俺は魔族全体の長……魔王であり、黒の当主でもある。代々魔王というのは、当主二人が決闘を行って勝ったほうが就くことになっているのだ」
「前任の魔王が倒れた時に決闘が行われます。と言っても、高位の魔族であればその寿命は永遠に等しいですから、『魔王を凌ぐほどの実力者に倒された時』と言ったほうが正しいかもしれませんね」
ほほう。では、ノワは前任の魔王が倒れた際、その時の白の当主と戦ったということか。
「ん?もしかして、白の当主って」
「はい、私ですね」
ハクさんでした!!うちの執事、魔族どころかそのNo.2でした!!
「というかフォルテ王国の伝説で大英雄に倒されたとされる魔王が、このバカの前任の魔王様なのですよ」
(そっか、そういえばさっき数百年くらいの付き合いだって言ってたな)
改めて聞くと、とんでもない昔で気が遠くなってしまう。
「俺と決闘を行ったのもこいつだ。情けないことに、途中で降伏してな……ははっ、あれは見ものだった」
「良く言いますね、7日7晩戦ってあなたも大分ボロボロのお姿だったと記憶しておりますが」
「おや、俺の臣下になった負け犬が何か言ってるぞ。全く、躾がなってないな……」
「躾が必要なのはあなたの方では?魔王が何たるかを全く理解していない、前魔王様もさぞかしお嘆きに」
「ストーーーップ!!お二人さん落ち着いて!!」
またもや口喧嘩を始めようとする二人。仲が良いのか悪いのか。
(でも、魔王のノワにそれだけの痛手を与えられるほどの力を持つ、白の当主かぁ……)
戦っているところはもちろんのこと、そもそも魔族としての姿を見たことがないから全く想像できないが……多分ハクは、かなり恐れられるべき存在なのではないだろうか。
「っていうか話を聞いてる限り、当主って相当強くないとダメなのでは?私に務まるとは思えないんだけど……」
「ええ、一体どういうおつもりですか?お嬢様は魔法も使えませんし、突然そんな者を後継者に指名しては混乱に繋がるでしょう」
「そ、それはあれだ、あれ……!」
焦りだすノワ。まさか本当に何も考えずに後継者にしようとしていたのだろうか。
「魔法……?」
しかしそんなことより、前世で聞いたあのファンタジックなものがこの世界にも存在するのか。私の認識と同じものなのかはわからないが……
「魔法というのは、魔族の使う精霊術のようなものですよ。もっとも、私達は精霊なんぞの力は借りず純粋に己の魔力を使用しますが」
なんだか少し不機嫌そうなハク。伝説通りなら、前任の魔王は精霊の女王である女神の力で倒されたのだ。
(精霊と魔族、仲悪いんだろうなー……もしかして、精霊が黒とか白とか嫌いなのって魔族の色だから?)
精霊にお会いしたこともない、なんなら逃げられてるらしい黒髪王女には、真相を知るすべなど無いのだが。
と、そんなことを若干悲しく考えていると。
「お!そうだ、なかなか良いではないか……よしよし」
何やらノワが思いついたらしく、くるっとこちらを向いて話し出す。
「ああ、見たところこいつに魔力は全く無い。いや全く無いというのも奇妙な話ではあるのだが……確かに魔法が使えないという点では大いに不合格だな」
「ふっ、ふごうかくっ……!?」
後継者試験、勝手に落とされてしまった。こちらには受験した覚えも希望した覚えもないのだが。
「……だが、こいつにはあるだろう。確実に他の魔族を抑える、圧倒的な切り札が」
(……ふぁ?)
なにそれ、そんなもの何かあったっけ?ときょとんとしていると、ハクが顔を上げてノワに応る。
「……光の精霊術、ですか」
「そうだ、過去多くの魔王を葬り去ってきた、強大な女神の力。魔族が最も弱点とする力でもある。
なぜこいつが持っているのかは知らんが、少なくともそれを扱える者に逆らえる魔族などおるまい」
ほう、光の精霊術とやらはそんなにすごいのか。そんなものを出した私、もしかして天才!?
一人でニヤニヤしていると、ハクが何かをつぶやき始めた。
「なるほど、確かにそれならば……!
幾千年にも及ぶ白と黒の争いにも、和平の道が開けるかもしれない」
「だろう、我ながら妙案よ。今回はさすがのお前と言えど従わざるを得まい」
「悔しいですが……確かに、それは私では思いつけなかったでしょう」
ちょ、ちょっと待ってください。ハクさん何かあなたまで私をその後継者とやらにする雰囲気出してませんか!?
「いや、流石に嫌ですよ!?まだ出会って数分の、それも魔王の……い、妹になるとか!
ってかなんで妹!?単に後継者ってだけで良くない!?」
「魔族は相手を自らの親族とする『契り』によって、自らの力の一部を継承させることができるのだ。当主は代々、これによって他の魔族と一線を画すほどのとある能力を有してきた。」
「もちろん、白の系統にもこの『契り』、そして固有の能力は存在しますよ。私はこのような古臭い慣習、早く廃止してしまいたいのですけれどね……」
苦々しげに呟くハク。「慣習」というだけで従わなくてはならぬ理不尽はどの国、いやどの世界でも同じらしい。
「必要なことだ、仕方がない。
なんなら娘でもいいぞ。俺の見た目から考えると、妹のほうがお前から見て違和感がなさそうで良いかと思ったのだが……」
ノワの見た目は20代前半。確かに私がいくら幼く見えるとは言っても、親子と言うには無理がある。
配慮してくれてたのか、やっさしい〜!
(……って、なるか!そもそも実年齢は少なくとも数百歳だろ、それで言ったらおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんの……)
やめよう。キリがない。
「……私には、父がいます。確かに会ったこともないし、生まれたばかりの私を塔に閉じ込めたりもしたけどそれでも、私の唯一の家族です」
前世の私は、孤児だ。リーナとして生まれたここでも、姿も何も思い出せない母は、私を産んですぐに病死したとハクから聞いた。
だから、たとえこんな扱いを受けていたとしても、家族というものをそう簡単に、私から切り捨てることなど出来ない。
(きっと、父も少しは私のことを愛してくれているはず。だから、王家にとって害にしかならない私を、殺さずに今も生かしておいてくれているのだ)
そう、何度も思った。願いに近いものだけど、それにすがることでしか私は、笑っていられなかった。
「あそこは私にとって唯一の、居場所なんです。捨てることなんて出来ません。
……だから、ごめんなさい」
ノワに向かって頭を下げる。
数秒の沈黙。
「……そうか、そうだな。
すまない、忘れてくれ」
(……なんで)
なんでそんなにも悲しそうな顔をするのか、なんて聞けない。
たった今、私は彼との糸を自分で断ち切ったのだから。
「お気になさることはありませんよ、お嬢様。そもそもあのバカが悪いのですから」
そう言って、ハクが私を抱きかかえる。
「さあ、帰りましょう。私達の家へ」
「……うん」
その腕に顔を埋めてしまったから、遠ざかるノワの表情は見えなかった。
◇◇
「……ふぁあ……」
目覚めると、いつもの寝室のベッドの上にいた。どうやら、ハクに抱えられて帰るうち、眠ってしまったらしい。
窓の外を見れば、とっくに日は昇っていた。
(……起こさないでくれたのかな)
その気遣いが、間違いなく昨日の出来事が夢ではなかったと教えてくれる。
起きる気力が湧かず、布団の中でぼんやりしていると。
バタン!
勢い良く扉が開かれた。
「……ハク?どうしたの、そんなに急いで」
珍しく焦ったような、戸惑っているような表情のハクが、そこには立っていた。
「……お嬢様」
そのままハクはツカツカとベッド脇に歩み寄り、そして一枚の白い便箋を差し出した。
(金のバラ……?)
蝋に押された美しいその印章は、この国で知らぬものなどいない。
「ハク、これって」
「……ええ、王家より伝達です。
至急、参内せよ、と」
3/12 タイトルのみ変更いたしました




