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8.執事、魔族でした

「こんのッ、バカ魔王がぁぁぁぁぁ!!」


 突然現れたハクに殴り飛ばされる、(自称)魔王のノワ。そのまま向こうの壁までふっとんで行き、先程私が空けた隣に今度は人の形をした穴が誕生した。


「お嬢様、ご無事でしたか……!?お怪我は!?

その目は、一体……」

(ん、目?目に何かあるのか?)


 ぽかーんとする私に、ハクは懐から小さな鏡を取り出して渡してくれる。


(さすが万能執事、女子力も高いとは。私はハンカチすら持ってないのに)


 変に感心しつつ、その鏡を覗き込んでみると。


「んおっ、なんだこれ!?」


 変な声が出てしまった。まあ無理もないだろう、普段は黒いはずの私の目が何故か虹色になっている。


 嘘ではない、本当に虹としか表現しようがないのだ。私だって信じがたいが、何度確認しようと私の現在の瞳はプリズムのように不思議な色合いをしていた。


「痛みはないのですか?ああどうしよう、何かのご病気でしたら……」

「落ち着いてハク、別に痛くもないよ。本当に単に色が変わってるだけだと思う」


 いや、単に色が変わってるってなんだ?と思いつつ、慌てるハクを見ていると心配してくれていたことが伝わってきて、なんだか少し嬉しくなってしまう。


「で、でも一度お医者様に見ていただいたほうが」

「本当に大丈夫だから。というか私を見てくれる医者なんて、この国には居ないでしょう……」

(あれ?

そういえば私、一度も病気になってないのでは?)


 思い返してみると、熱が出たとか咳が出たとかいう記憶がまったくない。普通、小さい頃というのはもう少し頻繁に病にかかるものではなかろうか。


(おかしいなあ……転生得点的なアレかな?体がちょっと丈夫ですよ〜みたいな。)


 いや、だとしたら地味すぎるだろ!とか脳内で突っ込んでいたのだが、突然私の脳内にこんな仮説が浮かんできた。


「あ、もしかして私の目がこうなってるの、光の精霊術?ってやつ使ったからかも」


 というわけで、ハクにもこれまでの経緯を説明する。途中ちょっと怖い顔されたのは、多分私が言いつけを破りハクのそばを離れたからだろう。


 ハクさんの表情に少しビクビクしながらも、これまでの一部始終を語り終える。


「と、こんな事がございましてね。いや、はぐれてしまったのは本当に申し訳なく思っておりますとも、はい」

「なんと……!黒髪のお嬢様が精霊術を!?

いや、っていうかあの魔王失礼すぎますね。もう三発くらい殴ってやらないと」

「だーれを殴るって?」


 瓦礫の山からゆっくりと起き上がってくるノワ。どう考えても全身を複雑骨折していてもおかしくない勢いで叩きつけられていたのだが、その身に目立った外傷は全く無い。


「全く、久しぶりに一本取られたと思ったら……ブラン、お前だったのか」

「おや、もう少し寝ていてくださってもよろしかったのですよ?我が君」


 交差する視線。バチバチ火花が見える。


 いやいやいや。


「ちょっと待ったーー!!」


 二人の視線がこちらを向く。全くもう、置いていかないでくださいよ。


「あの、ハクとこの人……魔王?ノワさんってどういう関係なの?知り合い……なのは間違いなさそうだけど」

「おい、なんだそのハテナは。俺は間違いなく魔王だが」

「覇気が足りてないんでしょうかねぇー?全くあなたは昔っから力ばかりで、それだけでは魔王なんて務まるはずも」

「こらハク!質問に答えなさい!」


 ノワを一睨みしてから、しぶしぶこちらに向き直るハク。どうやらこの二人は、しっかり見張っていないとすぐに喧嘩を始めるらしい。


「関係、というほどではないのですが。このバカが魔王になってからずっと側近として仕えて参りましたので、大体……


数百年くらいでしょうか」

「すうひゃく!?」


 それは大英雄の伝説くらい前ではなかろうか。そしてハクの口ぶりから察するに、どうもこの黒髪の男……ノワが、魔王なのは間違いないらしい。


 というか、つまり。


「ハク、あなた人間じゃないのね?」

「ええ、魔族ですね」

「俺と同じ、だな」


(魔族だった!五年間一緒にいた私の執事、魔族だった!)

 小説一本書けそうなくらいのビッグニュースである。だがしかし、この前提確認が終わったところで私はどうしてもこの二人……いや二魔族に聞かねばならないことがある。


 驚愕で今にも外れそうな顎を手で支えながら、私は魔王ノワに向き直る。


「魔王ノワさん」

「なんだ?」

「先程あなたが仰っていたことの意味を、説明してください」

「さっき?ああ、だからこいつが俺と同じ魔族……」

「そっちじゃねえわ!!」


(あの「俺の妹になれ!」ってやつに決まってんだろ。なんか恥ずかしいから言えないんだよ!)


 もしかしてハクの言う通り、この魔王はちょっとおバカなのだろうか。


 きょとんとしているノワに、すかさずハクが説明してくれる。


「ほら、後継者の話をお嬢様になさったのでしょう?全く、毎回あなたは説明不足が過ぎます。この前だって……ああ、思い出したら腹たってきました。こいつやっぱり殴」

「ダメ!絶対駄目です落ち着いて!」


 拳を握りしめるハクを宥めていると、ようやく合点がいった様子のノワが話し始めた。


「ああ、だからそのままの意味だ。お前を俺の妹——黒の系統の、後継者にしようと思ってな」

「クロ……コウケイシャ、ケイ、トウ……?」


 今度は私がきょとんとしているのを見て、今度はとっても優しく教えてくれるハク。


「魔族、というのがどういう生き物か覚えてらっしゃいますか?お嬢様」

「あ、うんハクに教えてもらったような。

……ごめん、もっかい説明して」


 お勉強は苦手なのです。特に座学。


「三回くらいはお教えしたのですが。

……魔族というのは魔物が進化し、人の姿をして人の言葉を介するもののことを言うのですよ。要は魔物の進化系です」


 ため息まじりに説明してくれた。流石にもう忘れないように頑張ろう。


「そしてここからは、人の世ではあまり知られていないことなのですが。

実は魔族というのは、2つの系統に分かれるのです」

「ふたつ?」

「黒と、白だな。魔族になったときに自動的にこの2つのどちらかにわかる。見分け方は簡単、髪色だ」


 そう言って「トントン」と自分の頭を軽く突くノワ。


(ほう、魔族にもそんな種族みたいな概念があったのか。ってことはさっき、ノワが言ってたのって)


「あのー……さっき魔王様、私のこと黒の系統って言ってましたよね。ってことは」

「ああ、そうだ。半分だけだがな。


お前、魔族だぞ」


3/10 タイトル変更いたしました。内容はノータッチです

3/12 タイトルのみ変更いたしました

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