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7.自称魔王からのイカれたお誘い

「お前、なかなかやるな。」


 突然聞こえた声、されども今の私には顔を上げる気力すら残っていない。


 誰だかはわからんがとりあえず褒めてくれたみたいなので、ここは素直に感謝するべきだろう。


「いやーありがとうございます、でしょう?私すごいでしょう?

原理も良くわかってないんですけど、なんか頑張ったら出来ちゃいました!」

「ああ、それはどうでも良いのだが。

俺がすごいと言ったのは、アレほどデカい球すら当てられない、お前の投球能力の方だ」

「ですよね!私すご……。


え?」


 嘘でした。顔を上げる気力、残ってました。


 何を言われたのが理解できず、慌てて目を細めて煙の中を見つめると。


(あ本当だーーっ!まーーーったく効いてないわ!)


 本当でした。少しずつ晴れてきた土埃の中には、先ほどと変わらぬ様子で直立状態の魔物さんのお姿。


 その横には、巨大な穴の空いた(かつては立派な建物だったであろう)何かの残骸。当然ながらその穴は、先程私が全力投球した光の球によるものであろう。


「うわぁぁぁ……狙い外してるぅ……!!」


 思わず呻いてしまう。そういえば私は前世、凄まじいほどの運動音痴であった。当然ボール投げなど出来ようはずもなく、飛ばそうとしても何故か地に叩きつけてしまう始末。


 挙句の果てには、それを見ていた当時の同級生に『重力とお友達なんだね』と慰められてしまった。いや、それ全然慰めになっていないのだが。


(生死かかってんだよ、そこまで前世に似せなくてもええやろ……!!)


 私を転生させたヤツがいるなら言ってやりたい、もっと夢のある転生させろと。


 絶望の表情を浮かべる私に、その声はのんびりと続ける。


「ほら、もう一度打たないのか?早くしないと死んでしまうぞ。

下手な鉄砲も数打ちゃ当たると言うやつだ、何度か放てばお前でも当たるかもしれん。」

(うわー、腹立つぅ!)

 

 どう考えてもバカにされている。しかし着実に近づいてきている魔物を見るに、確かにもう一度あの光る球を出して当てる以外に方法はなさそうである。


(仕方ない、やってやろうじゃないの!)


 両手をお椀型に、力を込めまして。


「うぉぉぉぉぉぉぉ!!」


 シーン。


(……あれ?)


 何も起きない。


「……おりゃぁぁぁぁぁぁ!!」


 もういっちょ!と以前より気合を入れて見たのだが、これまた何も起きない。


(待て待て待て、さっきのはまぐれってことか!?いやまぐれで精霊術って発動するの!?ってかそもそもあれ精霊術だったのか!?光って聞いたこと無いし……)


 焦りまくり、「うーん」と唸ってみたり「てーい」と力を込めてみるのだが、全く何も起こらない。


(え、なぜ?)


 まさか本当に、「死んだら呪ってやる」という脅しが効いたというのだろうか。だとしたら、もう一回脅してやろうかと思い身構えた、その時。


「ごろ゙……す……」

「っ!?」


 いつの間にか、目の前まで魔物が迫ってきていた。


(集中していて気づかなかった……ってか何アレ!?)


 体を完全に使いこなしたのか、先程まで人のそれと大差なかった魔物の腕は、今や刃物のような形をしている。


 その鋭く尖った腕が、ゆっくりと私の頭上に振りかざされ──


(やられるっ……!!)


 私に向かって勢いよく、振り下ろされる。


(ここまで、かな)


 死を覚悟し、目を瞑る私だったが。


パチン。

「……あれ?」


 指を鳴らしたような不思議な音が聞こえた以外、何も起こらない。


 恐る恐る目を開けてみると……


「なんだ、打たないのか。残念だ。

数百年ぶりに光の精霊術が見られたと思ったのだがな。」


 何かに切られたかのように、真っ二つになり徐々に灰となり消えゆく魔物。


 その背後には、つまらなそうに片手を魔物の方へ向け立つ、先程の前の声の主——


 黒髪で赤い目をした、若い男性がいた。


(……!?)


 電撃に打たれたような衝撃が、私の脳内を駆け巡る。


(く、黒髪だ……!!あとめっちゃイケメンだ……!)


 この世界で初めて出会った、私と同じ髪色。それもイケメンときたら、情報量が多くて先ほどとは別の意味でフリーズしてしまうではないか。


(ハクとはまた違った感じのイケメンなんだよな。あっちは紳士、こっちは例えるならまお……)


「ああ、挨拶が遅れたな。

俺の名はノワ、ちなみに魔王だ」

「あ、やっぱり?」


(本職の方でしたか〜!)


妙に納得しかけて、はっと我に返る。


「ん?え、魔王?」

「だからそう言っただろう、魔王ノワというのが俺の名だ。」


なんということだろう、リーナさん現在完全にフリーズしております。


(情報量がっ、多いっ……!!)


 人生初の自分以外の黒髪、魔王みたいなイケメンだと思ったら本職で。


「あの、ちょっと待っ」

「ん?」


 しかし、やはりそこは魔王というべきか。


 その男……ノワは、混乱する私の様子など全くお構いなしに、いきなり距離を縮め間近で観察を始めた。


 もちろん私の、である。


「この国にしては珍しい黒髪がいると思ったらお前、半魔ではないか。

だが、それならなぜ精霊術……それも女神と英雄のみが使用する『光』を扱える?魔族でも人でもなさそうな、そのもう半分の魂が関係しているのか?」


 何かを考え、そしてブツブツつぶやき始めるノワさん。だがしかし、言っている内容が全くわからない。


(ハンマ……ヒカリ……?ナニソレオイシイノ?)


 もしかしてこの人は、「自称」魔王のちょっとイカれたヤバい人なのだろうか。


(だとしたら、早く逃げた方が良さそうかな。とにかく魔物はこの人のお陰で消滅したし、通報されて憲兵に捕まる前に退散したい)


 うまく行けば、通報された「黒髪」というのを目の前にいるこの自称魔王だと勘違いしてくれるかもしれない。少し良心の痛む策だが、なんか強そうだしこの人ならなんとかするんじゃないだろうか。


 そんなちょっと悪いことを企み、回れ右してさっさと逃げる準備をしていたのだが。


「おい、お前!」

「ハイッ!」


ビクぅぅぅぅ!!


 呼び止められてしまった。恐る恐る振り向くと、何かいたずらを思いついたようなこわーい笑顔の魔王さん。


「色々と良くわからんが……とりあえずお前、半分は黒の系統の魔族なのだろう?」

「は、はあ……そうなんですか?」


色々と良くわからない、はこちらのセリフなのだが。


「娘……はハードル高いか。良し!ならお前!


俺の妹になれ」

「は?」


(え、今この人なんて言った?)


 今なんだかすごくイカれたお誘いを受けた気がするのだが。聞き間違いかな?


「あの、もう一回言っていただけますでしょうか。耳が遠くなってしまったようで」

「その歳で?不憫だな……。

だからお前、俺の妹になれ」


 遠くなっていませんでした。そりゃあ10歳にして遠くなられても困るんですが。


「ん、まさか不満か?

ならば当初の予定通り、俺のむす……」


 め、と言いかけたのだろう。


 だが、その言葉が最後まで紡がれることはなかった。


「こんのッ、バカ魔王がぁぁぁぁぁ!!」


バコーン。


 突如割り込んできた白い光と、良く聞き慣れた声。


「ハク……!



え、ハク……?」


 感動と、遅れて襲い来る戸惑い。


「お嬢様、ご無事でしたか!」


 我が紳士的で完璧な執事、ハク。


 そんな彼が、目の前の自称魔王を光の速さでぶん殴っていた。


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