6.絶体絶命のピンチ
「生きて」
かすかに聞こえた、リスタさんの最後の言葉。
「リスタさん!!リスタさん!!!」
崩れ落ちた彼女に、必死に叫ぶが返事はない。
(あぁ、もう……!!)
目の前で人に死なれるというのは、気分が悪い。特にリスタさん及びその夫は、この国の髪色差別の被害者であり、この事態の原因も、それによるところが大きいだろう。
(一歩間違えたら、あそこにいるのは私だった。)
たまたま王宮に産まれて、たまたま生かされて、たまたまハクが来てくれて。
彼女たちよりも更に立場の危うい黒髪で生きてこられたのは、この沢山の「偶然」の積み重ねのおかげに過ぎない。
その「偶然」がもし一個でも欠けていたら、私はきっと今、ここに存在すら出来ていないだろう。産まれてすぐに殺されるか、そうでなくても弟たちが産まれた時点で殺される可能性は十分にあった。
(なんか、死ぬのもったいないな。)
「生きて」なんて言われたから、色々と考えてしまったじゃないか。走馬灯鑑賞のため、気合を入れて妄想ポップコーンまで用意していたというのに。
「……頑張ってみるかあ。」
せっかく生まれ変わった命、不遇だなんだと嘆きつつも、いろいろな人のお陰で紡がれてきたのだ。
感謝の気持ちも込めて、最後まで足掻いてみよう。
(リスタさんにお礼も言いたいからね。)
この髪を綺麗だと言ってくれた人に、初めて出会った。
(……ん?)
唐突に違和感を覚えた。本当に、彼女が初めてだったのだろうか。
何かを、忘れている気がする。
(いや、今はそんなことどうでもいい!!)
頭を振り、違和感を外に追いやってから、現実に向き合う。
(容姿を褒められて嬉しくない女の子なんて、いませんからね)
感謝の気持ちも込めて、まずは彼女の最後の言葉。
『生きて』を、精一杯実行するとしよう。
召喚に応じてくれた妄想ポップコーン達に、「ごめんね!帰ってね!」と別れを告げ、立ち上がって魔物の方を見る。
「とは言ってみたものの、どうしたもんかな。10歳児の弱々しいパンチやらキックやらが通用するようには……」
(うーん、全ッ然見えないな。ってか近づいただけで死にそうですね。)
かなり距離が縮まってきたお陰で見えてきた、魔物の詳細な見た目。瘴気に「覆われている」だけでなく、瘴気で「出来ている」と表現したほうが良いくらいには、禍々しい。
あれに近づき、なんなら躊躇なく触れたリスタさん。控えめに言っても豪胆すぎる。
(よし!)
近づいたら地獄行き、何もしなくても確実に地獄行き。そんな絶望的な状況下の私は、とあることを決意した。
それは。
「スゥーーー(深呼吸)
おいこら精霊、お前らどうせ黒髪の私にお願いされたって力貸さねえだろ!
でもなぁ、死後化けて出た黒髪に呪われたくねえなら、今から私が言うこと良く聞いとけ!」
力の限り叫んで、私は両手でお椀を作り、その中に力を込めるイメージを作る。
「命令だ!愛する女を泣かせるクソメンヘラ男ぶっ倒すくらいの力を、寄越しやがれ!」
名付けて、「お願いしてダメなら脅してみろ」作戦である。
すると、なんということだろうか。
息を切らしながら叫んだ次の瞬間、私の手の中にバレーボール大の光の球が生成されたではないか。
(おおっ…!?これ何!?精霊術!?今まで一回も成功したことなかったのに!?)
そうなのである。これだけ大胆なことを叫んでおいてアレだが、私は一度も精霊術に成功したことがない。
ハクの前に来ていた世話役の人たちの真似をして、『我らが精霊よ、どうか力をお貸し給え、ウォーターボール!』とか何回か叫んでみたこともあるのだが、何も起こらずとても恥ずかしい思いをした。
そりゃ精霊に毛嫌いされている黒髪だし無理かあと思い、夢破れて完全に諦めていたのだが。一か八かの賭けに出たところ、どうやら私は勝ったらしい。
「死に際になるとすごい力が出せるっていうアレかな!?なんでもいいからとりあえず!!」
こちとら命がかかっているのだ、細かいことなど気にしてはいられない。
手に持ったその光る珠体を、ボール投げの要領で全力で飛ばした。
「うおりゃああああ!!!」
もちろん、女子力なんてものも気にしてはいられない。
先程からすごく汚い言葉遣いで叫んだり、全力疾走したり、全身でボール投げをする10歳女児が観測されているのだろうが、命あっての物種である。ご近所さんの苦情は「生きていたら」聞くことにしよう。
ズドドドーーン
「ぜ、ぜぇぜぇ…どうだ!!」
全力投球の甲斐あってか、光る球は命中したらしい。振動を伴う大きな音とともに、魔物の姿は土煙に覆われた。
(やったか……!?)
先程の精霊術(?)の反動もあってか、尋常でないほど疲れてその場にへたり込んでいた、その時。
「お前、なかなかやるな。」
凛とした、だがその場の空気を一気に重苦しく変えるほどの覇気を纏った「声」が、辺り一面に響いた。
3/12 タイトルのみ変更いたしました




