14.騒がしい再会と静寂の朝
「あなたに、退学していただきますわ!!」
棍棒片手に、フェリスは言い放つ。その威圧感に押されつつも、私の脳は理解が追い付かない。
「……え、なぜ退学?」
聞くと、彼女は親切にも説明してくれる。ただし、どでかいお嬢様言葉で。
「あなたが退学すれば、わたくしの実技一位は確実ですわ!ほら、早く勝負なさい!」
ドスン。
床に接した棍棒が、鈍い音をたてる。
(……なるほど)
このお嬢様、脳筋らしい。
(いや、目立つし正直一位には興味ないんだけど……どっちにせよ)
「お断りします」
きっぱり。そんな私に、彼女は目を丸くする。
「なぜですの!?戦士たるもの、挑まれた勝負は受けるべきですの!」
「いや、私いつの間に戦士になったの!?
……ってか、勝負ってそもそも何するのさ」
「簡単ですわ!一騎討ちですの!」
「却下!!!完全に却下!!」
(目立つ、あと痛そう)
彼女の腕の長さほどある棍棒を見て、私は冷や汗をかく。
あれで殴られたら骨二、三本折れそうだ。
「嫌ですわ、なんとしてでも退学していただきますわ!」
「それは一番嫌だな!!てかなんでそんなに好戦的――」
「フェリス、何をしているのですか。これは没収です」
私の言葉を遮ったのは、黒髪の上級生。彼女はフェリスから棍棒を取り上げ、ため息をつく。
「申し訳ありません。この者がご迷惑をおかけしました。
……って、あら?」
私の顔を見て、驚いたように目を見開く彼女。
「お久しぶりです、試験以来ですね」
(試験以来……って)
「あの時の!?」
甦る私の記憶。そう、彼女は入学試験の時に私を案内してくれた上級生である。
「無事に合格、おめでとうございます。
それに、入学式の時に挨拶なさっていましたね。首席とはまた、すごいものです」
「ははは……」
「そうだ、自己紹介がまだでしたね」
丁寧に、腰を折って挨拶する彼女。どことなく、厳格な雰囲気をまとっている。
「改めて。私はベルと申します。
この女子寮の責任者を務めており、生徒会高等部の副会長でもあります」
彼女の胸に光る、金のバッジ。そういえば、試験の時もつけていた気がする。
(そっか、バッジに見覚えがあったのはこれか……!)
それに、副会長だったとは。女子寮の責任者でもあるということは、かなり関わりは多そうだ。
「ベル先輩、それを返すのですわ!わたくしは今から、この方に勝負を――」
「フェリス。昨日も斧を持ち歩いて没収されたばかりでしょう。
同じことを繰り返すのは感心しません」
(え、斧?)
棍棒で良かった、とすら思ってしまうくらい物騒なものが出てきた。この子怖い。
「レオ会長より、この者の監督を任されているのですが。
ご覧の通りでして」
ため息を付きながら、棍棒を取ろうとするフェリスをひょいひょいっと避けるベル。
(生徒会って大変だなぁ、こんなことまでしなきゃいけないのか)
なんだか同情していると、ベルは私に笑いかける。
「ここは私が対応しますので、リーナさんは食堂へ向かってください。
このままでは周囲の目を引いてしまいますから」
「じ、じゃあお言葉に甘えて……」
確かに、この子――フェリスと一緒にいるところを誰かに見られるのはまずい。
「お待ちなさい!戦士としてわたくしの勝負をうけるのですわ、リーナ様!」
(だから戦士じゃないってばぁぁぁ!!)
フェリスの言葉を背中にうけながら、私は足早に食堂へと向かう。
「……たしか、ここだよな」
昨日の夕食と同じ場所。全学年が食事を取る広さの会場は、しかし殆ど人がおらずがらんとしている。
(早すぎたかな、まぁいっか)
フェリスの対応でどっと疲れた私は、椅子に座ってだらんとする。
しかし、そのとたんに――
「おい!」
唐突に聞こえる声。
(今度はなんだ……)
げんなりしながら顔を上げると、そこにいたのは。
「あ、カイル」
「様をつけろ、様を!半魔ごときが偉そうな」
両手を組み、私を見下ろす黒髪の少年――カイル。
「偉そうなのはそっちじゃ……」
「なんか言ったか?」
「言ってません。
……あ、そういえば」
ノワのところへ行く直前の出来事を、ふと思い出す。
「昨日、校庭で何してたの?」
「んなっ……!?見ていたのか、お前!」
一瞬だけ、視線が泳ぐ。
なぜか焦り出すカイル。
「見てた、で何してたの?」
「うるさい、お前ごときに教えるものか!」
「あ、ちょっと」
(行っちゃった……)
怒ったように、素早い動きで私から離れるカイル。とても怪しい。
(あいつ、公爵家の後継者なんだよな。
……ただのサボり、って感じじゃなかったし)
ノワの言っていた、私を狙う何者かだったりはしないか。
注意しておこう、とか思っていると。
「リーナ!来ていたのですね、おはようございます!」
「アリス!おはよう、朝からお疲れ様」
笑顔で歩み寄り、私の隣に座るアリス。今日も安定の可愛さである。
周りを見ると、続々と人が入ってくるのが見えた。どうやら時間になったようだ。
「……あれ、ベアトリス校長?」
アリスの不思議そうな声。目線を追うと、前に立つのは紫のローブに身を包んだ校長の姿。
「おかしいですね、先生方は別の場所で食事をお取りになるはずなのに」
「そう……なの?」
(そんなこと、よく知ってるな)
感心していると、続々と席に着く生徒たち。
全員が座ったのを確認すると、校長は静かに口を開く。
「おはようございます、皆さん。
新入生は学園初日、お疲れさまでした」
ざわざわ。
戸惑ったような上級生の様子をみるに、たしかにこれは異例のことらしい。
(一体、何が)
「今日は、残念なお知らせがあります。
我が校の誇る、魔法実技科の統括。
アドルフ先生が」
重い口調。空気がのしかかる感覚がした。
「アドルフ先生が」
一瞬、食堂が静まり返る。
「昨日。
――亡くなりました」




