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13.棍棒お嬢様と退学宣言

「……ん」


(もう、朝か)


 窓から差し込む陽光。昨夜、アリスと話してすぐに寝てしまったらしい。


「ふぁぁぁ……アリス?」


 呼んでみるも、返事はない。


(そっか、図書室にいくとか言ってたな)


 流石は筆記満点の天才美少女、勉強熱心なことこの上ない。


(……っそうだ、退学届っ!!)


 思い出して、勢い良く机の上に目線を向ける。


 山積みの本の下にあったはずの一枚の紙は、しかしどこにも見当たらない。


「まさか、もう……!」


(退学届、出しちゃったんじゃ)


 焦っていると、ふと机の横のゴミ箱が目に入る。


「あれって」


 その中には、ビリビリに破られた紙の破片。その中の一枚に印字されていたのは――


「たいがく、ねがい……」


 どうやら彼女は、退学をとりやめたらしい。


 途端に私は、全身の力が抜けた感覚に陥る。


(ほんとに、良かった……)


 なぜ彼女が、この学園に入ってすぐ――入学式の直後にあんなものを書いたのか。


 理由も心境も聞けずじまいではあったが、とりあえず終わったことだし……と私は安心する。


(朝食までは、まだ時間あるな)


「……よっと」


 鏡に歩みより、その前で身支度をする。昨日から支給されている真新しい制服だ。


(制服って高いんだよなー……ってかそもそもこの学校、学費自体がバカ高いらしいけど)


「……ハクとノワには、感謝しないとな」


 長い黒髪を梳かしながら、そう呟く。


(そういえば、自分で髪梳かすのいつぶりだ?)


 ハクが来てからは、全部任せっきりである。


(色々、お世話になりっぱなしだな。

……今度、なにか好きなものでも聞いてプレゼントしようか)


制服に袖を通した、そのとき。


ドンドンドンドン!!


「え、何……!?」


(誰?こんな朝から……?)


「おーっほっほ!!」


 部屋の外から聞こえてくるのは、ごってごてのお嬢様言葉。


 それを聞いて思い出されるのは、昨日の授業。


(……なんか、そんなやつ居たなぁ)


 そう、あの時聞こえてきたお嬢様言葉……その声から察するに、同一人物であろう。


「ほら、早く開けないとあなたの……なんでしたっけ歯磨き粉?みたいな家を潰しますわよ!」


(穏やかじゃないなぁ)


 早朝からこれだけ騒がれては、目立つどころの話ではない。ため息をつきつつ、私は扉を開ける。


「歯磨き粉じゃなくて……ハミルトン、

です……よ……?」


 目の前にいたのは、白髪の少女。美しい縦ロールとその装飾のきらびやかなことといったら、まさに『お嬢様』……なのだが。


「あのすいません、それ何ですか?」

「あら、田舎者はご存じなかったかしら?

これは『棍棒』ですわ!人を殴る道具でしてよ」


 得意気に、手に持っている木製のそれを見せる彼女。


(いや、それくらい分かるわ!!!!)


 もちろん、見るからにそれは棍棒である。そして確かに人を殴るものであろう。


(って、聞きたいのはそういうことではなく!!)

「……いや、だからなんでそれをお持ちに?」


 刺激しないよう、私は慎重に丁寧に尋ねる。


「?何をおっしゃってますの、当然あなたを殴るためですわ」


 お上品なお顔をこれまたお上品に傾けて言う彼女。しかし。


(言ってることが、全然!!お上品じゃないんですけど!?)


「……あのー」

「あら、私としたことが……。戦士であれば名を名乗るのは当然ですわね。

初めましてリーナ様、わたくしはフェリス=ローレルと申しますわ」


 彼女――フェリスはお辞儀をする。それは、幼い頃からの貴族の令嬢としての教育を受けてきたことを伺わせるもので。


(本当にきれいな所作、なんだけどなぁ……)


唯一棍棒を持っている点を除けば、である。


「あの、すいませんなんで私殴られるんですか?何かしました?」

「あなた、わたくしと勝負なさい!」


(ダメだ、こいつ聞いてない)


 ぴしっ!と私を指差し大声で叫ぶ彼女。床についた巨大な棍棒が「ごとっ」と鈍い音をたてる。


「し、勝負……?」

「わたくしは唯一、白で実技を選択いたしましたのよ!」


(実技……あぁ、入学試験の話か)


 白は知略、黒は力。確かに、そんな白で実技で受験するというのは珍しいのだろう。


「な、なるほどそれで……?」

「本来ならば!わたくしは実技で一位を取るはずだったのです!」


 大声で続ける彼女、かなりの騒音である。


(ご近所トラブルになったらどうしよう。私のせいじゃないのに)


 しかしそんな私の内心などお構い無く、フェリスは棍棒を引きずりながら近づいてくる。


「それが!リーナ様、あなたのせいで実技二位だったのですわ!」

「あ、あーそっか私首席か……」


(あ、これ私のせいかもしれない)


 滝汗。とてもいやな予感がする。


「ですからリーナ様、わたくしと勝負なさい!そして、わたくしが勝ったら」


ガコッ!


 棍棒が、勢い良く地面に突き刺さる。


 それを持たないもう片方の手を腰に当て、フェリスは言いはなった。


「リーナ様」


 一歩、踏み込んで。


「あなたに、退学!していただきますわ」

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