3.王宮脱出、現在迷子
ガサゴソガサゴソ。
ガサガサ。ゴソゴソ。
ガッサガッサゴッソゴッソ。
何をしているのかって?そんなの決まってるでしょう。
ゴミ箱漁りです。ゴソゴソ。前世孤児だった私にとっては、わりと懐かしい作業である。ゴソ。
さて、どうして映えある王女サマ(死んだことにされてるけど)が、こんな道端のカラスの真似事をしているのか。
話は、数時間前に遡る。
「うおおおお!ハク!あれ何!?めっちゃ美味しそう!!!」
「こら!!勝手にどっか行かないって約束したでしょう、守らないと今晩はデザート抜きですよ」
「いやだああ!!いやだけどアレも食べたいいい!!」
じたばた。暴れる私のローブをハクは片手で掴み、軽々と持ち上げてしまった。
ぐぬぬ……びくともしない。やはりこのお母さん執事には勝てないようだ。
(いやーしかし、本当に王宮の外に出られる日が来るとはね)
ハクのお陰で、念願叶って黒い塔、そして王宮の外への脱出を達成した私。
かなりのビッグニュースだが、実はこれは案外軽いノリで始まったことだった。
『うあー、王宮の城壁すごい高い!もうやめたい!』
以前から私は、この狭苦しい王宮からの脱出を試み、高い城壁をズリズリとヤモリのように登ってみては失敗してハクに連れ戻され、を繰り返していた。
するとある日。
『いや、どう考えても無理でしょう。優に30mくらいはありますよ、あの城壁。』
いつものように失敗し、落ちてきた私を呆れたような顔で受け止めるハク。
『なんでそんなに登りたがるんですか、筋トレ?
お嬢様は同年代の子に比べたら小さすぎるくらいなんですから、そんなことなさらなくても大丈……』
『いやいやいや、この王宮から脱出したいからに決まってるでしょうが!』
なんとびっくり、ハクさんは私の王宮脱出願望をご存知なかったらしい。
『え、脱出?なぜです?』
珍しくそのきれいな顔に困惑の色を浮かべ、腕の中の私をまじまじと見つめる我が有能執事。
『なんでって……そりゃ窮屈じゃん。このままだと良くてもこの黒い塔の中で寿命で天からお迎えか、最悪の場合は暗殺でもされて終わりだよ』
(まあそもそも今生かされてるのだって、父……国王の意向一つだろう。本当は、他の高官達はすぐにでも私を殺したかったはずだ)
王家にとって、存在が露呈すれば邪魔どころか有害ですらある私を生かしておくメリットなどないに等しい。現国王に大事があれば、私はすぐにでも暗殺される可能性が高いだろう。
まあ暗殺の可能性はあるとしても、有能執事さんのお陰で「孤独死」の項目は消えたが。それだけでもかなりハクには感謝している……!
『そんなに目をうるうるなさって、何かのご病気だったり……!』
『いや大丈夫。大丈夫だから変なツボ押すのやめて、うああああちょっとそこ痛い!!』
『なっ……!ここは頭のツボですよ、頭が大丈夫ではないということ……!?』
『言い方が悪いなオイ』
突っ込みつつも、ハクへの感謝で滲む思い出し涙的なものを拭いていると。
『うーん、そんなにおっしゃるなら見せて差し上げましょうか?王宮の外。』
『……ふぁ??』
なぬぬ!?なな、なんと!?
びっくり仰天の急展開、ハクさんがさらっとすごいことを提案してきました。
『え、出来るの?』
『出来ますよ。流石に完全な脱出はバレてしまいますから、数時間とかになりますが。あ、もちろん王宮の皆さんには内緒ですからね』
『そ、そりゃそうだけど……。一体どうやって?
城壁の出入り口なんて4つしかないし、私が出ようとしたらそりゃバレちゃうよ……?』
「黒い塔」から少し離れただけでも、周辺をウロウロしている監視役の人に咎められ、すぐに連れ戻される。
下手したら普段は数日おきに置かれているはずの食料が、その後はしばらくもらえず「野菜生活」ならぬ「雑草生活」を強いられる羽目になり、結構しんどい。
だからこそ、「すぐ側にある王宮の城壁を登る」なんていう力技で押し切ろうとしていたのだが。一体全体ハクはどうするつもりなんだ。
『方法は秘密です。大丈夫ですよ、お嬢様に雑草のフルコースをご提供するつもりはありませんから』
ナデナデ。私の頭をよしよししながら、ハクは笑って言う。
……こいつ、なんで私の雑草生活を知ってやがる。あれは3歳くらいの時だから、まだこの塔にはいなかったはずなのに。
(って、違う違う。今はとにかく、王宮脱出が先!)
『……本当に大丈夫なの?
それなら、ぜひともお願いしたいけど』
『承知しました、では本日はもう遅いので、明日に致しましょう。準備がありますので、私は本日はもう下がらせていただきます。
……ああ、そうだ』
私を腕に抱えながら、寝室まで行き小さなベッドに寝かせてくれるハク。
帰るのかな、と思って見ていると、何かを思い出したようにこちらを振り返って言葉を続けた。
『明日、私がお嬢様を抱えて王宮の外に連れ出している間……
決して、目をお開けになりませんよう。』
『ん?いいけどなんで……
っておい帰るな!気になるよ!?教えてくださいハクさん、ハクさんーーーっ!!』
明らかに思わせぶりな言いつけに暴れる私を残し、ハクはいつものごとく怪しい微笑みを残して去っていく。
寝室の扉が閉まる直前、小さな声でおやすみなさい、と言うのが聞こえた気がした。
(……王宮の外、か。どんな感じなんだろうな。)
教えてくれないならば仕方ない。ハクの言いつけのことは一旦おいておき、急展開によって生まれて初めて見ることが出来るという、王宮の外の世界を想像する。
(この世界には竜……とかいるらしいけど、町中で見るのは無理だよね。
精霊も、私がいたら隠れちゃうだろうし。)
思っていたよりも制約は多そうだが、それでも楽しみは色々とある。
(元の世界で言う、商店街みたいなところもあるんだっけ。
王宮のすぐ外は、フォルテの首都だからさぞかし栄えてるんだろうな〜)
『……楽しみ』
色々と想像しているうちに、眠ってしまったらしい。
翌朝目覚めると、私の髪色を隠すためのローブを持ったハクが待っていてくれた。
ローブを着てみるとかなりダボダボだったが、私の長い黒髪を隠すにはちょうどいいのだろう。
『では、参りますよ。目を瞑っていてくださいね』
『はーい!』
塔から少し出たところで、ハクは目を瞑った私を抱きかかえたらしい。
全身がひょいと持ち上がった感覚がするかと思ったら、なんだかふわふわとした浮遊感に襲われた。
(ふぁー、なんか眠い……。)
どうやら二度寝モードに入ってしまったようだ。体は10歳、きっと思っているよりも睡眠を欲しているのだろう。
『到着までは少々お時間がかかりますので、お眠りになっていただいて構いませんよ』
『んー……じゃ、そうする。おやすみ……。』
こうして前述の通り、うとうと過去の回想を夢見ている間に私は王宮脱出を叶え、念願の街に大はしゃぎしていたのだが。
「……いやー。完全に迷いましたなこりゃ。」
はい、迷いました。はしゃぎすぎました。
あの後、美味しいものに気を取られつつも、ハクに小脇に抱えられていたので近づけず、しぶしぶ鑑賞するのみに留めていたのだが。
(ん?アレは一体……)
ふと店の間の怪しげな路地裏に目を奪われ、よくよく見てみると何やら光っているものが見えた。
前世天涯孤独の孤児の私は、光るものを見たらお金になりそう!と飛びついてしまう悲しい癖がある。お金にはがめつく、これは私の生きるための基本指針なのだ。
そしてそんなお金の匂いを嗅ぎ取った私は、一瞬のスキを見てハクの小脇から逃げ出し、その路地裏に一直線に走っていった。
その結果がこれである。路地裏に勢いで飛び込んだはいいものの、光るものも見つけられず完全に迷ってしまった。
迷子の迷子の王女サマ、それが今の私である。
皆はお祭りとかではしゃぎすぎて、お母さんのそばから離れちゃダメですよ!
「まあ考えても仕方ない。迷ったときはとりあえず食料確保、ってね。
なんか食べられるものないかなー」
ガサゴソ。
さて、孤児の戦略②だ。とりあえず食料確保、これ大事!ということでゴミ箱を漁り始め、現在に至る。
「お、これとかいけそうじゃん。腐って……はいないな、よし!」
もぐもぐ。
漁っていたら出てきた茶色い塊を頬張りながら、雑草よりは美味しいな〜なんて思っていたその時。
「ほ、本当にこれで俺も、精霊と契約できるようになるのか……!?」
「ククククク……ええ、ええもちろんですとも!!富も名誉も思いのまま、貴方様が頂点に立つときが来たのです!」
(二人の男の声……?片方は若いし、もう片方は年齢不詳のなんとも怪しい声してるな。)
どうやら向かいの建物から聞こえてくるらしい。声を潜めてはいるが、若い男と思われる片方が興奮を抑えきれずにいる様子が伝わってくる。
(もぐもぐ………ごっくん。
怪しい薬の勧誘かな、あんまり関わらないようにしよっと。)
食べ終わってお腹も膨れたことなので、早めに退散してハク探しでもしようとフードを目深に被り直し、その場を離れようとしたのだが。
残念なことに、私はどうも厄介事を引き付ける体質らしい。
「ねえねえ、お嬢ちゃんこんなトコでどうしたの〜?もしかして、迷子?」
突然腕を掴まれたかと思うと、呂律の怪しい声に呼び止められてしまったのであった。
3/10 7:09 「聖女」部分の説明削りました。後々登場させるつもりです。
3/12 タイトルのみ変更いたしました




