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14.満月の乱入者

『もうすぐ、来るから』


 なんだか感慨深そうに、そして嬉しそうに呟く妖精さん。


 しかしそう言われた私の頭は、はてなでいっぱいだった。


(いや、何が来るの? 

……え、まさかお迎え!?)


 明日まで待てないせっかちな死神さんが、私のことを迎えに来たのだろうか。


 ぶるぶると震える私に、妖精さんは笑って言う。


『うふふっ、リーナちゃんったら。違うわよ、落ち着いて』

(よ、よかったぁ……)


 心底ほっとして、その場にへなっとへたり込む私。


(ん?でも)


 別に今すぐお迎えが来なかったとしても、明日には来るのだ。


(……なーんにも、解決してなかったわ……)


 二重ドッキリを仕掛けられた気分である。


 もはや涙目の私に、声は優しく語りかける。


『いい?リーナちゃん、よく聞いてね。

このお城……いえ、厳密には()()()()からの脱出は不可能よ』

(知ってますよ妖精さん、だから明日にでも死ぬんでしょ)


 すっかり拗ねてしまった私。そもそも場所と城なんて何が違うんだ、と思いながら聞いていると。


『いえ、だから()()()()から出ることは可能なのよ』

(なぬ?)


 きょとんとして返す私に、妖精さんは説明してくれる。


『魔法で出来ているのは、厳密にはこの辺り一帯。つまり』

(なるほど……城の外であっても、魔法で出来ているのなら()()()()()。移動が可能ってことね)

『その通りよ!ナデナデしたいけどそう言えば実体無かったわ!』


 なんだかゲームのバグみたいな仕様だな、と思いながら私はさらに尋ねる。


(……でも、建物の外に出たところで何か変わる?依然として時の止まった魔法の中だよね)

『ええ、その認識は正しいわ』


 ならば、明日にでも死に至るという状況に変わりあるまい。


『でもね』


 ふわりと、周りの空気が軽くなる。


(……笑ってる?)


 妖精だというその声は、なんだか微笑んでいる気がした。


『信じて。外に出たら、あなたはきっと助かる。

……いえ、助けられる。


あの子はね、そういう子よ』

(あの子……?)


 その言い方からして、まだ幼く頼りない子供が想像される。


(……正直、助けてくれそうな人には思えないけどな)


 どこか遠くを見つめるような声で、妖精さんは続ける。


『それに。


……あの子にも、あなたが必要だから』


 愛おしげにそう言う彼女。その言葉は、妙に暖かく胸に沈んでいく。


『とにかく!リーナちゃん、まずはこのお城からの脱出よ!』

(えー、説明してくださいよ妖精さん……)

『嫌ですよーだ!』


 舌出して「べー!」とか言ってそうな声。とてつもなく信頼できない様子である。


(……でも、信じてみるかぁ)


 先ほどの様子は、なんだか感じたことのない暖かさをまとっていて。


 それを信じてみるのも、悪くないと思えた。


 気を取り直して、私は再び声に問いかける。


(それで、どうやって扉を開けたら?)

『え、部屋の扉外から閉まってるのよね?』


 心底不思議そうな声が返ってきた。なんだかとても嫌な予感が……。


(あの、それってどういう)

『まさかリーナちゃん、ご丁寧に扉から出ようとしてたの?』


 笑い出す妖精さん。先ほどまでのあの優しい微笑みと同一人物か?と疑いたくなるレベルには大爆笑である。


『うふふっ、リーナちゃんったら本当に面白く育っちゃって……うふ、ふふ』

(……)


 ピキッ。たぶんその時の私の額には、青筋がくっきりと浮かんでいただろう。


 そんな怒りが伝わったのか、妖精さんは焦ったように咳払いをする。


『ご、ごほん。リーナちゃん、よく聞いて』


 真面目な様子の声。思わず静かに耳をそばだてていると……。


『今夜は、満月よ』

(……はい?)


 まさかのお天気予報。


 ピキピキッ、と私の青筋は増えて行く。


(あのー、妖精さんあなたいい加減に)

『月というのはね、精霊の力に大きく作用するの』


 シュン。青筋が消えた。


 何やら重要そうなことを教えてくれそうだ、と思って期待していると。


『リーナちゃん。精霊術を使って――

ここら一帯を、破壊しなさい』

(……ふぁ?)


 突如放たれる物騒な一言。呆気に取られている間にも、声は続ける。


『ここは魔法で作られた空間。強い魔力で満たされ、当然精霊もいない。精霊術も使えないわ』

(じ、じゃあどうやって)

『本来なら、ね』


 いたずらっぽく笑う妖精さん。もちろん姿は見えないから、そう感じたというだけなのだけど。


『今夜は満月、精霊の力が最も強まる日。

……今なら、出来るはずよ』


 その言葉を聞いた途端、身体中に暖かい力が漲る感覚がした。


(な、何が起こって)

『もちろん、私も手助けするわよ!すっごく久しぶりだからミスったらごめんなさいね!!』

(よくわからないけど不安だけは煽られるのを感じるぅぅぅ!!)


 妖精さんの楽しそうな笑い声に、増長していく私の不安。


『そろそろ日が沈むわね。

……リーナちゃん、いちにーさん!で思いっきり力を放出しなさい!』

(なに!?なになにどうやって!?放出!?)


 全然わかりません!!助けてください全くわかりません!!


『そこはなんか……勘よ!!じゃあ行くわね!!』

(待って!?説明し――)

『いち……』


 混乱する私など全く意に介さず、妖精さんのカウントは無慈悲にも始まる。


『にー……』


 あぁもういいや、やってやろうじゃないか!!


 大きく息を吸い込む。


(……あれ)


 周りの音が、遠のいた。


――()()()


『さーん!』


「てーーーーーいっ!!!」


 両手に力を込め、そのまま地面に叩きつける。


(……あ)


 何かが、応えた気がした。


 一瞬の静寂。そして――


ドゴォォォン!!


 爆発音と、溢れ出る強い光。


 衝撃が、全身を突き抜けた。


「んわぁぁぁぁぁ!?!?」

『すごいじゃないリーナちゃん!出来たわよ!』

「出来たっていうか吹っ飛ばされてますよ!?いやだぁぁぁ死にたくないぃぃぃ!!」


 周囲が崩壊していく中、私は爆発……どうやら私の放ったらしい精霊術の反動で、真上に吹っ飛ばされていた。


 ぐんぐん遠ざかる破壊された地面。ぐるぐると忙しなく回る私の目。


『ほら、リーナちゃん外よ!やったわね!!』

「ほんとだ!!でも着地できないかも!!死ぬかも!」


 そう叫びながらすっ飛んでいく私の目に、突然ある光景が飛び込んできた。


(あれは……ネロ?)


 瀕死の少年。その前に立ち、今にも止めを指そうとしている黒髪の男の後ろ姿。


(っまずい!!ネロを殺しちゃうと、この城の魔法をかけた魔族の手がかりが――)


 そう思った私は、空中で必死に体をねじりそちらへと軌道修正する。


「ち、ちょっと待ったぁぁぁ!!」


 叫ぶ私。その声に驚いたように、目を見開いてこちらを振り向く男。


(……ん!?)


 そちらに盛大にダイブしながら、私もまた驚いて声をあげる。


 黒髪に、美しい赤い瞳。つい先日、見送ったはずの。


「って


……ノワ!?」

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