12.炎の真贋
「出てこいネロ。あの日の決着を、つけてやろう」
ノワの背後で膨張を続ける火球たち。すると、その声に答えるかのように――
「『炎の吐息』」
突如城から複数の火球が現れ、背後の火球たちを撃ち抜いた。
方向を変え自身に向けて迫る炎を、ノワは軽く躱す。
(……炎魔法の使い手がネロの配下に?そんな話、聞いたことがないが)
眉をひそめるノワに、上空から聞こえる笑い声。
「あははっ、怒りも制御できずに炎撒き散らすとか……相変わらず君はほんっとうに野蛮だね、ノワ」
「……ネロ」
その人物――ネロは、笑いながら静かに城の前へと着地する。
「やぁ、久しぶり。僕のことを覚えていてくれていたとは……嬉しいな、それにノーヒントでここにたどり着けるとは思ってなかったよ」
「ノーヒント?あれだけの証拠を残しておいて何を言うか。まさか『うっかり残っちゃった』とは言うまい」
「あはは、さては君……罠と分かっててここに来たの?」
口に手を当て嘲笑うネロ。しかしノワは、全く意に介さないという風に返す。
「罠だろうがなんだろうが関係あるまい、事実リーナはここにいるのだろう?」
「……それだけで、君が来る理由は十分と」
ネロの顔から、笑みが消える。
「やはり君は、魔王に相応しくない」
ノワに向けた指先から、赤い火が生成されて行く。
対するノワは防御の構えすら取る気配もなく、心底失望したように呟く。
「なるほど、そういうことか。
……愚かな」
その炎は徐々に圧縮され、そして。
「なんとでも言うが良い。裏切り者のお前は、この僕がここで殺す。
……『炎光芒』!!」
高濃度に圧縮された炎の光が、ノワに向けて放たれた。
(炎の上位魔法、か)
「……はぁ」
空間すら両断する熱で、光は進む。
やがてその光線は、ノワの眼前まで迫り。
ジュッ
触れた、と思った次の瞬間には消えていた。
「なっ……!!」
その様子に一瞬動揺したように一歩引いたネロは、しかしすぐに炎を生成し直す。
「まだだ、ノワ!!これで――」
「ネロ」
ため息をつき、ノワは彼に向けて一歩を踏み出す。
心無しかその表情には、哀愁が漂っていた。
「戦えノワ!!僕ともう一度、この場所で!!!」
ノワに向けて放たれる多くの炎。
「……己の魔法までも虚像とし」
しかし、それらはノワの前であっけなく霧散する。
「ネロ。お前はどこまで――自らに嘘を付く気だ?」
目の前で弾ける攻撃など眼中にないように、ノワは歩みを止めない。
「僕を殺せよ!!出来ないなら、お前はやっぱり――」
「教えてやろう」
突然ノワが立ち止まった。その場で静かに彼は呟く。
「真の炎とは」
ボウッ
ノワの周囲に突如、炎が燃え上がった。
沈みかけた空が、再び真っ赤に染まる。
「……それが一体――
なんたるものかを」
◇◇
「ねぇあなた、なんだか外が騒がしいわよ?」
ここはフォルテの王宮。そう言って豪華な寝台から下りて窓へと近寄っていくのは、かの側妃シルビアである。
「今日はお祭りでも合ったかしら……って、きゃぁぁぁぁ!!」
「……今度はどうしたシルビア。お前に言われて城内の白髪は全員解雇し――」
「申し上げます!!」
窓を開けて急に叫びだしたシルビアに、うんざりしたように問いかける国王。しかし突如部屋の重厚な扉が開き、焦った顔で入ってくるものが。
「あ、あなた、あれは一体……!」
何かに怯えたように、窓から離れる側妃。その様子に異変を感じ取った国王は、入ってきた臣を促す。
「……報告を、聞こう」
「陛下、並びに王妃様、今すぐ我々についてこの城からの脱出を。ここは危険です!」
その言葉を聞いて、側妃はわめき出す。
「な、なぜですの!?ここは私達の王宮ですわ、脱出など断じて!
陛下、この者は不敬罪ですぐにでも処刑すべきですのよ!!」
「……何が起こった」
静かに問いかける国王。平伏した臣は、緊迫した声で告げる。
「申し訳ございません!!現在、王都を中心に――」
ガラガラガラッ
ドスン、ドタドタドタ
側妃の開け放った窓から聞こえるのは、何かが壊れるような音と大勢の足音。
その音に交じる怒声は徐々に近づいて行き、もはや耳を澄まさずとも聞こえてくる。
『出てこい国王ー!!!』
『側妃もろとも引きずり出せーー!!!』
『裏切りの王家に死の制裁を!!!』
それを聞いた側妃は、真っ青な顔で言い募る。
「こ、これはどういうことなのですか!?」
「……っ」
一瞬、ためらうように詰まる言葉。そして。
「……反乱です」
「な……」
その言葉を聞き、驚愕したように目を見開く国王。配下の男はなおも続ける。
「先程、王都が……人型の魔物に襲撃されました」
「なんと、すぐに兵を派遣し討伐を」
「いえ。
……既に、魔物は倒されています」
喜ばしいはずのそれについて、彼は暗い顔で報告する。
「なら、なぜなのですか!?あの者たちは一体何を」
「討伐を行ったのは、我々ではありません」
「……え?」
意味がわからない、という顔の側妃。
「……白髪の魔族が、たった一人ですべての魔物を殲滅した、と」
「白髪の、魔族……ぁ」
その言葉を聞いた途端、何かを思い出したのか彼女の顔が恐怖に歪む。
「そしてその魔族が言うには」
ごくり、と男の喉が動く。
「『女神様のお怒りにより、壁は崩壊した。その証拠がこの魔物騒動だ。
魔王ノワを筆頭とする魔国は、フォルテの民のため力を貸そう』」
「なんですって!?壁の崩壊って……それになぜ、魔国が力を!」
「そして」
絞り出すような声で紡がれる言葉。
「『女神様の怒りの原因は、フォルテ王家である。女神の寵愛を受けたある存在を隠し虐げ、ついには処刑までしようとしたからだ』」
「まさか……!」
国王の声に、静かに頷く男。
「……はい。そして彼はこう言ったそうです。
『女神様のお怒りを沈めるには、彼女へフォルテ王家が行った罪を償わせるしか無い』」
外の声は、今や王城を取り囲み勢いを増している。
「『彼女。そう――
……黒髪の、王女へ』」




