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2.イケメン執事とボロ塔生活

 もともと私は、この世界に生まれる前は「日本」とかいう非常に平和な世界で暮らしていた。


 一つ平和でなかったのは、生まれてすぐに捨てられたことか。


 私を育ててくれた施設の女性によると、激しい雨の日に雷の光が見えたかと思ったら、大きな音ともに施設全体が揺らいだらしい。


 近くに雷が落ちたか…!?と思い、慌てて表の様子を見に行ったところ。


 「おぎゃーー、おぎゃあああ!!」


 ゆりかごの中で泣き声をあげる私が玄関に置かれていた。


 周囲を確認しても、私を置いていった親らしき人の姿は見えず。結局引き取って育てることにしたそうな。


 我ながら、魔王にでもなれそうなご登場の仕方である。


 (もういっそ目指しちゃおうかな、魔王!どうせこのままだと狭い塔で老衰死か、最悪の場合誰かに殺されてお陀仏だし!)


……ハハッ(涙)


 ま、まあとにかく、その後はそれなりに順調な人生を送っていたと思う。成人式で人生初のお酒を飲み、そのままの勢いで呑まれ、赤信号無視して突っ込んでくるトラックに気づかず撥ねられるまでは。


 で、気づいたらこのファンタジックな世界に転生していたと。……うん、今世は「酒は飲んでも呑まれない」を目標にしていこう。


 さて、こんな感じで転生したら即刻黒い塔に閉じ込められ、一応はすくすく育っていった私だったが。


「……人肌がッ!恋しいッ!!」


 もう一人で色々出来るだろうということなのだろう。成長するにつれ世話役の人の数も、頻度も減っていった。


 散々なことを聞かされていたとは言っても、彼女たちの声や温もりを感じられる僅かな時間は少なからず私の心の支えになっていたらしい。訪ねてくる物好きも当然おらず、がらんとした塔の中で一人過ごすうち、心が徐々に限界に近づいていくのを感じた。


「うわぁぁぁぁぁ!!誰か返事してよぉぉぉぉ!!」

(ボッチ!!すごく孤独!)


 このまま行けば、私の死因に「孤独死」が加わるであろう。流石に嫌である。


(正直、前世孤児だし家族の温もりとかいらないわーとか思ってたけど……流石に、ここまでボッチなのは聞いてないですわ!)


 なんとか孤独へ対処しようといきなり叫びだしたり、挙句の果てには鏡に向かって話しかけ始めるリーナちゃん。もはや、黒髪という容姿以外にもかなり(心の)問題がありそうなご様子である。


 ちなみに、私の容姿は転生前とほとんど変わりない。ロングの黒髪に、灰色の目。それ以外の容姿はまあ、中の上くらいではないだろうか。


 以前聞いた世話役の話から察するに、このいわゆる「日本人顔」は、代々フォルテ王家にのみ現れる特徴らしい。一般的な顔立ちである西洋風の女性を王妃に迎え入れる関係上、近年は段々と薄れてきているみたいだけどね。


 もし私の転生が誰かの意思で、その誰かが容姿を元のままに転生させたいと考えたのだとしたら、確かにこの王家は顔立ちという点では最適だろう。違和感がそこまでない。


 まあそういうわけで、私としてはこの黒髪は「普通」であり容姿とセットで「しっくり来る」のである。


 ……みたいなことを毎日鏡の前で鏡の中の自分とお話をしておりました、そんな悲しすぎる毎日を過ごしていたのですが。


 あれは確か5年前……私が5歳くらいの時だったと思う。


コンコン。


(ノックの音……!?)


(嘘でしょ、いつ以来!?)

 

 久しぶりの来客だと思い、驚きつつドキドキワクワクで飛んで見に行ったら。


 そこには、真っ黒な塔が光を放っているかと錯覚するほどの凄まじい白髪高身長イケメンが、恭しく頭を下げて立っていた。


『本日より、リーナお嬢様の執事を拝命いたしました者でございます。不束者ではございますが、どうぞよろしくお願いします。』


 (久しぶりの来客、しかも世話してくれるの!?神ですか!?いや天からの使い!?ああなんか翼まで見えてきた……おお神よ……)


 断る理由など全く無い。私はすぐに彼を受け入れ、嬉しさに涙まで出しながらお茶を入れて彼に提供した。


『その幼さで紅茶を淹れられるとは、お嬢様もしや天才!?』


ハクが一口飲む。

『……ん?

この紅茶、なんだかとってもしょっぱいですね……?』


 首を傾げる彼には、『塩と砂糖を間違えた』と言っておいた。こんな他愛のない会話であっても、久しぶりすぎて嬉しさのあまりその後号泣したのも、今では良い思い出だ。


 そこからの生活は、彼のおかげで激変した。無論、とても良い方向にである。


『むにゃむにゃ…あと5ふん…5ふんだけ寝かせて………』

『何を仰っているのですか、もうとっくに日は昇っていますよ。ほら早く起きてください、本日はフォルテ王国の歴史と近年の経済状況と外交政策と…』


 前世の記憶を一生懸命に振り絞り、小さな体を酷使してこなしていた掃除洗濯料理もろもろの家事が、朝起きたら(起こされたら)終わっているのである。おまけに、それまで全く知らなかった王宮内部の事情や、世界の様々な情勢などのお勉強まで丁寧に教えてくれる。


 私がこれまで語ってきた、この国の歴史やら精霊やらのことも、大抵は「必要だから」と彼が教えてくれたものだ。


 朝の早い時刻にやってきて、私が寝たらどこかへ帰る。一日の多くの時間を共に過ごすうちに、私は彼を髪色にちなみ「ハク」と呼び始めた。


 間違いなくあの時ハクが来てくれていなかったら、私は結構すぐに発狂し、塔から飛び降りていただろう。それくらい、彼は私の支えになってくれたのだ。


 しかしこんなにも有能な人間を、父を始めとする王宮の人間が私なんかによこすとは思えず、疑問に思って一度それを聞いてみたことがある。


 すると、彼は自分が白髪だからお気に召さなかったのだろう、と言って笑った。それを聞いて少し焦ったような顔をした私に、自分の髪色は結構好きだから、その「ハク」と言う名もいただけて嬉しいのです、と付け加えるのも忘れずに。


 それを聞いて、当時は納得した。この国での髪色差別は想像を絶するほどである、というのも彼の話を聞いていたら理解できたし、そもそも私が一番の被害者だからね。ギリイ…(ハンカチカミカミ)


 しかし、5年も一緒にいたらわかる。あの笑顔は絶対に何かを隠しているときのものだった。なんというか、ホスト的な胡散臭さがあった。


(リーナの妄想ワールド)

私『ねえねえハク、今日アフターどお?』

ハク『んー……まずは、姫の横にふさわしい俺になりたいんだ。No.1として輝けるまで待ってくれっ!(ニコッ)』

私『ハクっ……!(感動)私、ハクのために頑張っちゃうね!』

脇役①『リーナ姫からシャンパン入りました〜!!(こいつ、ちょろ。)』

 

 この「ニコッ」みたいな笑みをハクは良く浮かべる。当然怪しさ満点なのだが、顔の良さとオーラのせいで私は一瞬意識が飛びかけるため、それ以上追求できない。


 前世孤児だった私、お金に困りバイト三昧の学生時代。青春など全くの無縁で、イケメン耐性は全く無い。


 要するに、「イケメンは罪」ということだ。ただし最近は少々耐性がついてきたようで、ハクからの山積みの課題に文句を言う程度のことはできるようになったけどね。(ドヤア……)


 あ、ちなみに小説やら漫画も読む時間なかったので、異世界転生の知識も人並みにしか無い。なのでなぜ自分が転生なんざしているのか、さっぱりわからない。他にもっと適任がいたんじゃなかろうか……。


 と、そんな昔のことを夢見つつ回想していると。


「お嬢様、着きましたよ。」

 

 噂をすればハクの美声。


「ふぁ〜……結構早かったね。もう目開けていい?」

「まだです、少々お待ち下さい。」


 その言葉と共に、ふわふわと宙に浮かんでいたような、それまでの浮遊感が消えた。


「これでよし、っと。

開けて良いですよ、ただし!興奮して私の腕から落ちないでくださいね」

「はいはーい、大丈夫だって。ハクは心配性だなぁ」

「10歳の人間の子供を心配しないわけないでしょう!全くあなたは無茶し過ぎなんです、この前だっていきなり王宮の城壁を登りだして……」

「わかりましたって!もうしませんからそんな強く握らないでくださいハクさん!!」


 イテテテテ……これじゃまるで執事じゃなくてお母さんですよ。


 とはいえ、精神的には前世含めていわゆる「アラサー」ではあるが、肉体的にはピチピチ10ちゃいなのは事実。


(すぅー……はぁー……)


 深呼吸深呼吸。気持ちを落ち着かせまして。


「えいっ!」


 掛け声とともに目を開けると、そこには。


「………っわぁー………!!!」


 人生初の、王宮の外。


 言葉を失うほど美しい、フォルテ王国随一の都が広がっていた。



今どきの10歳の子って、もしかして結構大人びていたりするのかしら…?

塩梅が分からず、少々困っております(笑)


3/9 23:32 修正しました。読みづらかったので少々表現を変えた感じなので大筋は変わってませんが、既に読んでくださった方、混乱させて申し訳ありません…m(_ _)m

3/12 タイトルのみ変更いたしました

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