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7.魔王の弱み

「……ノワが、先代魔王を


殺し、た……?」

(そんなこと、聞いてない……)


 呆然として呟く私。


「勝利は、すぐ目前にまで迫ってたんだ」


 ノワが、そのまま英雄を倒してさえいれば。


「それなのにノワは、あいつは……!!!」


 逃げた。突然、その戦場から姿を消したのだ。


「結果的に英雄は、魔王城にまでたどり着いた。そして――」

「英雄に、魔王フォンセは」


 フォルテ王国では、誇らしげに語られるその真実。


「殺された、のね」


 けれどこの国では。少なくとも、この少年にとっては。


 それは今も消えずに、彼を縛り続けるほどに。


(ああ。


……痛ましい)


 本当に辛い、過去なのだろう。


「……間に合わなかった。その時僕は、フォンセ様の指示でお側を離れていたんだ」


 任務を終え、魔王城に戻ってきて目にしたのは、血まみれで倒れる主の姿。


「ノワが裏切らなければ、逃げなければフォンセ様は今も生きていた!!」


 これが、フォルテの伝説の裏側。英雄の刃に倒れた魔王の側にいた、若き魔族の物語。


 悲痛な叫びに、思わず胸が締め付けられる。


「あの時一度、魔王に味方していた魔族の大半は滅びた。だからきっと、この真実を知るものは少ないだろう」


 フォンセの死後、慣習に従い白と黒の継承者……ノワとブランは争った。そして当然のようにノワの勝利に終わり、荒廃した魔国に新たな魔王が即位した。


「……けれど、僕は認めない。決して認めるわけには、いかない。」


 ネロは静かに呟く。その声に籠もった怒りのみが、今の彼の唯一の「未来」への道であるかのように見えた。


「その話、本当なの?」


 嘘をついているようには見えない。それでも。


(……私は、ノワを信じたい)


 もし逃げたのが本当だったとしたなら、その真意を問いただしたい。


 すると突然、ネロが笑顔に戻ってこちらを見る。


「だからね、僕は君に来てもらったんだ」

「んおっ!?」


 先ほどまでとの急な温度差に戸惑っていると。


「フォルテ王国を滅ぼそうと思って、最近信頼できる魔族を1人派遣しているんだけど」

「……ん?」


(……今、とんでもないことを聞いた気が)


 え、こいつ私の祖国滅ぼそうとしてるんですが。


 恐怖通り越してドン引きの域に入っている私を気にも止めず、ネロは続ける。


「その魔族から、『黒髪の半魔の少女を、魔王ノワが後継者に誘った』――

そう、報告が来たんだ」


(それって)


 100%。疑いようもなく。


「私……」

「正解!良く出来ました〜!」


 パチパチパチ


 ネロの拍手を受けながら、私は考える。


 まさかあの「妹になれ」シーンを他に見ている人、いや魔族がいただなんて。


(なんかっ……!!恥ずかしい!)


 キャァ、みたいに顔を赤くするリーナちゃん。


 しかし、すぐに我に返ってネロにつめよった。


「……まさか、私を誘拐したのって」

「そうそう。なんで魔力もない君が後継者に誘われたのか、僕にはさっぱり全くわからないけど……むしろ好都合さ」


 背丈が足りず、椅子に座った時に浮いている足をブラブラさせるネロ。


 その様子は、まるで幼い子供が父の書斎で「ごっこ遊び」をしているかのよう。


「やっと見つけた、ノワの弱み。ああ、目の前で壊されたらあいつはどんな顔をするんだろう……!」

「っ……!?」


 次の瞬間、私の額にはネロの人差し指。


(見えなかった、椅子から降りる瞬間も何も……!)


「あいつはきっと来るよ。

だからそれまで」


トンッ


 ネロの指が、リーナの額を軽く突いた。


「おやすみなさい、お姫様」

「ぁ……」


 崩れ落ちるリーナ。その小さな体を軽々と持ち上げ、少年は月光の差し込む窓へと歩み寄る。


「ああ、ノワ。月をご覧。


お前を城から送り出したあの日を、思い出すよ」


 皆の期待の視線。魔王さえも。


 本当は、彼に……ネロに向けられるはずだったその視線。


 それなのに、ノワは。


「ははっ、あははっ!今度魔王を倒すのは、英雄なんかじゃない!」


バッ


 マントを翻し、少年は窓に背を向ける。


 満月は、近い。


「ノワ、お前を倒すのはこの――



僕さ」




◇◇




「っすごい……」


 目の前の光景に、リスタは圧倒されていた。


「グガァァァァァァァ!」

「よ、っと」


 彼女の恩人であり、今の主……魔王ノワが動くたびに魔物の群れの一部が燃え上がり、消滅する。


「魔物の勢いが止まらないな……くそっ、これではいつまでも魔王城に戻れん!」


 戦いの余裕っぷりと対象的に、何故か魔王の顔には焦りが浮かんでいる。


 その様子を不思議に思ったリスタは、問いかける。


「あの、ノワ様。なぜそんなにお急ぎに?魔王城に何か……」


 というか小規模な魔法で時間をかけて倒す、とか言っていなかっただろうか。


 燃え上がる魔獣とその断末魔を背景に、魔王は早口で答える。


「魔王城の俺の結界に反応があった。おそらくリーナが外に出たのだろう、それに……」


 そこで急に、ノワの声が落ち。


『満月が、近い』


 その口が、小さくそう動いた。


 しかしリスタは、そんなことを聞く余裕もないほどに驚いていた。

 

(リーナちゃんが……!?)


 あの小さな黒髪の少女が、この目の前の魔王の妹……黒の系統の継承者になった、ということは聞いている。


 フォルテ王国内ではろくな扱いを受けないだろう黒髪の彼女が保護されたこと。それに安堵する一方で、魔王の真意がわからず少なからず不安に思っていたのだが。


「……ふふっ」

(心配は、無用だったみたいね)


 急に小さな声で笑い出したリスタに、魔王は不機嫌そうに告げる。


「何がおかしい、リーナの身に何か起こったかもしれないのだぞ!?」

「いえ、なんでもございませんわ。……ふふふっ」


 それでも堪えきれず、微笑んでしまうリスタ。


(こんなに焦ってらっしゃるノワ様、初めて見るわ。

……リーナちゃん、あなた一体どんな魔法を使ったのかしら)


 最強の魔王の心を、これほどまでに奪ってしまう存在。


「……いえ。私も、その奪われた一人なのかしら」


 汚い思惑で近づいて、それでも出会ったばかりなのに優しく接してくれて。


 最後まで助けようと、声を枯らして叫んでくれていたのも聞こえていた。


(この兄妹に、この命ある限り尽くそう)


 そう、改めて誓ったのだが。


「……いえ。どうやら兄の方は、私なんか必要なさそうね……」


 急に、魔獣たちの断末魔が消えた。


 静けさが戻る街。魔王の「狩り」が終わったようだ。


 星の数ほど蠢いていたはずの魔獣の姿は、今や一匹たりとも見えない。


「ようやく、か。

……さてリスタ、俺は魔王城に戻る。この街の人々がどこに行ったのかも気になるが……まずは魔人の行方が分かったらまた、知らせてくれ」

「承知しました、ノワ様」


 なおも焦ったような様子で魔王がその場を立ち去ろうとした、その時。


「ククク……その必要はありませんよ、魔王ノワ!」


 突如響く、甲高い合成のような声。


 その声のする方を向くと、ある民家の屋根の上。


「……ノワ様、魔族の気配です。かなり強い」


 小さな声で、リスタは告げる。


「誰だ?俺は急いでるんだが。なにか用があるのなら後にしてもらえると助かる」


 その言葉通り、魔王はその方向を向くことすらしない。


「いえ、単にご報告を……とね、ククク……」

「報告?俺はお前のような臣は知らないがな。一体何を教えてくれるんだ?」

「ククク……この町の人々と、魔人の行方。

知りたくあり……っ!?」


ボワッ


 ありませんか、と言いかけたのだろう。しかしその言葉が最後まで紡がれることはなかった。


「っあづいあづいあづい、あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!」


 その魔族の体が、突然燃え始めたのだ。


「……ほう、良い明かりくらいにはなるな。それで?」

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙!!あ゙づィ゙!!!!!」

「聞いていたか?俺は急いでいる」


 そこでノワは、一拍置いた。低く、凄むような声が響く。


「……話があるなら、勿体ぶらず早く言え」

「言う!言うから!!!!」


ジュッ


 炎が消えた。暗闇の中聞こえるのは、燃えていた魔族の荒い息遣いだけ。


「ゼエ、ゼエ……ククク、魔王ノワ。余裕でいられるのも今のうちですよ?」

「リスタ、お前は肉の焼き具合はどれくらいが好きだ?」

「は?……ええと。

ミディアム、でしょうか」

「そうか、ちなみに俺はウェルダンだ」


 そう言うと、無表情でまた手のひらに炎を灯すノワ。


 その会話の意味が分かったのか、魔族は慌てたように話し出す。


「待て、だから今言う、ああちょっと待って炎こっちに向けないで?」


 コホン。


 仕切り直すように、魔族が咳払いをした。


「ククッ……この街の人々は皆、今頃は王都に向かっていることでしょう」

「王都に?

一体なぜだ、魔人からの避難か?」

「ククククッ……魔王ノワ、良く聞きなさい!」


 バッ!


 マントが脱ぎ捨てられる。その演出にうんざりしたような表情のノワ。


「だから早く、要件を」

「この街の人々は、今や人ではないのです!」


(人では、ない……?)


 理解できない、といった表情のリスタ。


「夜明けまでに彼らは王都に到着し、そして日の光が昇る頃には……フォルテはきっと、壊滅していることでしょう!


なぜなら!」


 勝ち誇ったように、天に向かって両手を突き出す魔族。


 まるで夜空に輝く月を、己の手にするかのようなその様。


「なぜなら……彼らは。クククッ……!


わたくしが、このわたくしが――



魔人へと、『進化』させたのですから!」


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