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6.裏切りの記憶

「見ていてくださいフォンセ様、今こそ証明してみせます。ノワなんかより僕のほうが、ずっとあなたの後継者に相応しいと!!」


 私の目の前で二人の魔族を惨殺したことなど眼中にないかのように、狂気すら感じるほど恍惚とした表情で叫ぶネロ。


 その場の異常な空気も、不気味なネロの雰囲気への恐怖はもちろん感じる。


 しかし、今の私の感情をもっぱら支配しているのは。


(こいつ、なんなの?いきなり人のこと誘拐して、自分の部下らしき人を理不尽に殺して)


 そう、猛烈な怒り。


(許せない。こんなやつが、魔王なわけない)


「ノワよりも後継者に相応しい、ってどういうこと?」


 あなたみたいな人が魔王になれるだなんて思えないんだけど、という言葉を飲み込み問いかける。


「あれ、君あいつの後継者になったくせに知らないの?

あーでも、あのバカの後継者だもんね。バカに違いはないか。」


 あははっ、と笑うネロ。完全に煽ってきてるこいつ。


「……フーー………」

(落ち着けー、私落ち着けー……)


 深呼吸。


 怒りに身を任せ、今すぐにでも殴りかかりたい気持ちをぐっと堪える。


「もったいぶらないで教えなさい!私を誘拐した目的は何なの!?」

「わ、怖いなぁ。んー……目的か」


 そう言うと、ネロは宙に向かって人差し指で円を描き始めた。


 何度も何度も、ぐるぐると。


「さっきも言った通り、先代魔王であり黒の当主だったフォンセ様……その後継者に相応しいのは、この僕だ」


(……何言ってるんだコイツ)


「いや、後継者はノワでしょ。現に今、黒の当主だし魔王だし……」

「だから」


 ボッ


「それがおかしい、と言ってるんだよ。……話聞かないなら焼くよ?」

 

 ネロが空中に描いていた円。突然その中心に、真っ赤な炎が灯った。


 その顔は、彼が初めて見せる完全な無表情で……そして、恐ろしいほど虚ろな目をしていた。


「……っ!」


 ゾッとするようなその表情に唖然としていると。


「あははっ、冗談冗談。そんなに怖がらないでよ、殺すわけ無いじゃん。

君には、まだ生きててもらわなきゃ」

「……そういうのはいいから、さっさと続けなさいよ」


(表情が戻った。……笑顔も相変わらず不気味だけど、さっきの表情の数倍マシだな)


 悔しいことに、私はこの少年に反応を弄ばれているらしい。


(……いや、少年って年齢でもないのか。先代魔王の時から生きてるんでしょ?)


 さすがは魔族、とか思っていると。


「ねえねえ、君はさ。自分を育ててくれた人に恩を仇で返すようなやつって、どう思う?」

「え?……そりゃ、最低だなと思うけど」


 いきなり何聞いてくるんだコイツ。そりゃあそうだろう。


 すると、心底嬉しそうな顔でネロは頷く。


「だよね!

……それが、ノワという男がしたことさ」

「……え?」


(ノワが、恩を仇で……?)


「それってどういう」

「ノワはね、いきなり現れたんだ。本当にいきなり」


 懐かしむような顔で、ネロが語る。


「あいつが現れるまで、黒の系統の継承者は僕だって言われてた。

一番強くて、魔力量も多くて……だから僕もね、尊敬するフォンセ様のために頑張ってたんだ」


 その顔は、まるで単なる年頃の少年のようで。


(……何百年も生きてるはずなのに)


 彼自身も過去に囚われ、時が止まっているかのよう。


「でもね、ある日フォンセ様が僕達黒の魔族に言ったんだ。

『黒の系統の継承者に、ノワを指名する』って」


 そういった時に一瞬だけネロの顔に現れた、苦悶の表情。


 やるせなさ、悔しさ、悲しさ、理不尽への怒り……そういった感情が、すべて込められている気がした。


「ノワなんてやつ、名前すら聞いたこと無かった。だからフォンセ様のところ……魔王城に行って、その真意を問いただして」


 彼は、一拍置いて続ける。


「僕のほうが継承者に。……あなたに相応しい、って説得しようとしたんだ」


 そこで彼は、目にしてしまった。


 赤い目に、黒い髪をした少年の姿。そしてその少年……「ノワ」と楽しそうに遊ぶ、敬愛する魔王・フォンセの姿を。


「……本物の、親子みたいだった。おかしいよね。

フォンセ様にお相手がいるなんてお話、聞いたこと無いのに」


――だからそんなこと……ノワがフォンセ様の息子だなんてことは、絶対にありえないのに。


 それでも、彼はその温かい光景に割って入ることが出来なかった。入っては、壊してはいけない気がした。


 そして後日。


「僕は正式に、ノワに決闘を申し込んだ。黒の系統の後継者の座をかけて」

「……それで、どうなったの?」


 拒絶されて、否定されて、傷ついた一人の少年。まるで親に見捨てられた小さな子犬のように迷子になってしまった、その思い。


「……惨敗だったよ。手も足も出なかった。


それに、僕を倒したノワが使う得意魔法は」


 彼の憧れてやまない、目標で。


 親のように慕っていた。


「フォンセ様と同じ、炎だったんだ」


 真っ赤な炎に焼かれてなお、立ち上がろうとするネロを。


「……ノワは、殺さなかった。命をかけた勝負だったのに」


 ――僕は殺す気で、本気で挑んだのに。


「その一件で、誰もがノワをフォンセ様の後継者として……次期魔王候補として、認めたんだ」


 今の話を聞いている限り、それまで無名だったノワを最初から後継者として支持していたのはその先代魔王……フォンセくらいだったのだろう。


 それが、ネロを倒したことで。たったそれだけで、一気に支持を集めた。


(それくらい、ネロも強かったってこと……だよね)


 どれだけ努力したのだろう。それでもノワには……突然現れたその少年には、勝てなかった。


「負けたからにはね、僕は従うつもりだった。実際それからはノワと一緒になって、フォンセ様のために全力で働いてたんだよ。


……あの時までは」


(……過去形)


 今は、そうではないということか。


「ある日、フォルテ王国の英雄が魔国に攻めてきた。あいつらの使う『光の精霊術』によって、瞬く間に魔王軍は壊滅した」


 窮地に立たされた魔王軍。打開の一手として英雄を迎え撃つよう、フォンセから指名されたのは……


 ノワだった。


「悔しかったよ、僕じゃ力不足って言われてるようなものだったから」


 それでも、ネロは笑顔でノワを送り出した。敬愛する主……フォンセの期待するような、まるで愛しい息子を送り出すかのようなそんな目線の前で、自分の思いなど打ち明けられようはずもない。


「実際ノワは強かったよ。最初から、あの大英雄すら圧倒していた。



……でもね」


ジュッ


 急に彼は、手の中の炎を握りつぶした。


(ああ、まただ。またあの目)


 黒く焦げた自らの手など気にも止めず、感情のない声でネロは告げる。


「裏切ったんだ、ノワは」


 顔を上げ、彼は虚ろな瞳で私を見る。


「勝利を目前にして、英雄との戦いから逃亡した」


 異様な空気感のなかで、その声は冷たく響く。


「あいつは、フォンセ様を……



僕達の魔王様を、殺したんだ」


説明感強めになってしまった……読みづらかったらすみませんm(_ _)m

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