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11.最後の晩餐

「詰み、かな〜……まさか二度目の人生、前世の半分しか生きられないとは」


 かすかに差し込む月光に照らされながら、王宮の地下牢で私は呟く。


 

 



「リーナ・フォルテ。今日を持ってお前を王室から除名し、国家反逆の罪により極刑とする」


 国王から告げられた、「極刑」宣告。それの意味するところは、当然ながら私の処刑である。


(…なんで、国家反逆って)


呆然としていると、高らかに笑う側妃の声が聞こえてきた。


「うふふ、まさか言い逃れする気じゃないでしょうね。市井ではその話題で持ちきりよ?


『昨日、黒髪の少女が魔物を率いて人々を襲った』ってね。そしてその少女は……


『フォルテ王家に良く似た顔立ちであった』と。」

「っ……!」


(そういうことか……!油断した!)


 私の存在は世間に隠されている。単に「黒髪の少女」というだけでは、私が特定されることはないだろうと思っていた。


 しかし、忘れてはいけない。この国では唯一、フォルテ王家のみが独特の顔立ち……まるで前世の私、すなわち日本人と似た容姿をしているのだ。


「既に王宮に探りをいれる輩も現れておる。お前の存在が世間に知られるのも時間の問題だろう。


……すまない、もう、隠し通せないのだ」


 暗い顔で告げる国王。しかし、それは「私」という長年の重荷を下ろすことができて、どこかホッとしているようにも見えた。


(その「黒髪の少女」が私であることは疑う様子もない、か。……つくづく、私はお荷物以外の何物でもないらしいな)


 心のなかでそんな自虐をしている中でも、国王の話は続く。


「処刑は、明日極秘で執り行う。

……今夜は好きなものを用意させる、存分に楽しめ」

「あなたったら、やっさしい〜!こんな出来損ないにも温情をくれてやるだなんて……そういうところ、嫌いじゃないわ!」

「え〜!お父様、私も好きなもの沢山食べたいですわ!こいつにだけずるい……!」

「フィオナ、これはお父様の格別の温情だ。

しかし喜ばしいことだな。これで僕達王家唯一の『汚れ』も掃除されるわけだ」


(ああ、こいつらは)


 私のことを、人としてすら見ていないのか。


「……ははっ」


 絶望し、笑みすらこぼす私の背後にいつの間にか、青い髪の兵が二人立っていた。


「……連れて行け」


 王の命を受け、二人は私の両腕を掴んで立たせ、そのまま出口へと連れて行こうとする。


「一つだけ、お聞きしてもよろしいですか」


 私はそれに抗い、国王を……少し前まで父だったその人を、まっすぐに見据えた。


「……発言を許そう」

「陛下は、どうして」


(お願い)


「どうして私を、生まれてすぐに殺さず塔に閉じ込めたのですか」


(愛していたからだと、そう言って)


 しかし、国王は私から目を逸らし。


「……それが、お前の母の。


務めを果たせなかったあの女の、最後の願いだったからだ」


 側妃と王子たちの笑い声で満ちるその部屋から、私は無言で背を向け兵に連れられて立ち去った。


 


「……楽しめ、って言われましても」


 そうして私は、この地下牢に投獄された。国王の命だろう、先程看守と思われる人に「なにか食べたいものはあるか」と聞かれたが、食欲など湧かないので丁重にお断りした。


 代わりと言っては何だが気持ちの整理がしたいので一人にしてほしいと言うと、迷った末に承諾してくれた。


 去り際に見せた気の毒そうな顔が、私がこの国で差別する側から受けた、最初で最後のまともな表情だったかもしれない。


(1日後に死ぬ王女、ってね)


 あ、でももう除名されたから王女でもないのか。


「ははっ……笑えてくるね」


 そう言って笑おうとするが、うまく行かない。多分今の私は『へにょ……』みたいな変な顔をしていることだろう。


「なんだ、存外元気そうではないか」

「な、わけないでしょーが」


 ツッコミも、自然と弱々しくなってしまう。


(……ん?ツッコミ?)


 え、今私誰に突っ込んだ?


 慌てて上を見上げると、小さな窓から声の主と思われる黒髪が少し見える。


「……ノ、ノワさん……!?」

「そうだ、昨日ぶりだな。

……っていうか狭いなこの出入り口、人間というのはこんなにも小さいところを通っているのか?」

(いやそれ窓ですよ、出入り口じゃないです魔王様)


 心の中で思わず強めに突っ込んでいると。


「うむ、仕方ない」


 ノワがそう言った直後。


ガラガラガラ……


「……は?」

「よし、これで入りやすくなったな」


 派手な音と共に、天井がすべて崩壊した。そしてその先には満天の星空と、満足げなノワの姿。


「な、何したんですか?」


 空中に浮きながら、私の前にゆっくりと降り立ったノワに私は驚きつつ尋ねる。


「ちょんってやったら崩れた」

「ちょん……」

「ほら」


 そう言って、何の変哲もない人差し指を見せてくれる。


(指先にダイナマイトでも仕込んでるのか)


 そう思ったが、そういえば魔族は魔法を使うんだったなと思い直す。


(いや、それにしても指で少し触れただけで、頑丈そうな石造りの天井を壊せるのってかなり規格外すぎるのでは)


 魔王ってやっぱりすごいんだな、とか今更そんなことを考えていると。


「何だその顔は。

助けに来てやったんだ、もう少し喜んでも良かろう」

「助けに…?な、なんで?」


 妹になるという変態チックなお誘いなら、昨日お断りしたはずなのだが。


「このままだとお前、明日には処刑されるぞ。向こうで棒とロープと何本もの薪が用意されていた、おそらく火あぶりにするつもりだろう」

「いや、それでも何で……昨日『忘れてくれ』って」


 それで私とこの魔王の縁は切れた、そう思っていたのだが。


「ブラン……お前はハクと呼んでいたか、あれが今日、血相を変えて俺のところに来たのだ。『お願いだから力を貸してほしい』とな。アレがあそこまで焦った姿は初めて見た、滑稽だったぞ」

「ハク……!」

「それに……っと、気づかれたな。

話は後だ、まずは逃げるぞ」


(なぬっ!?)


 そう言うとノワは、私を軽々と抱き上げた。ちょうど前世で言う『お姫様抱っこ』の状態になり、身動きが取れない私。


「ちょ、なにして」

「侵入者だ!黒髪の罪人を助け出そうとしているぞ!」


 ジタバタしていると、何人もの足音と緊迫した声が聞こえてきた。


「いたぞ!捕まえろ……って黒髪が二人!?」

「ガキの方だ!決して逃がすなよ!!」


 どうやら先程の天井崩壊の音で、牢を見張る兵たちに見つかってしまったらしい。軽く30はあろうかというその数に、私達はあっという間に囲まれてしまった。


「ど、どうするの!?」

「ふむ。……落ちるなよ」


 そして次の瞬間。


「はひゃ!?」

(飛んでる……!?)


 なんと私達は、空中に浮いていた。


「なっ……おい、待て!」


 そしてそのまま先程破壊された天井を通り抜け、地上に降り立つ。


「そんなに驚いたような顔をするな、これくらい高位の魔族ならば出来て当然だ。

ブランも出来るぞ、もっともあいつは少々派手に飛ぶが……」

「ハクも!?……あ、そう言えば」


 王宮脱出のときに感じていた浮遊感、もしやハクはあの城壁を文字通り「飛び」超えたのではないだろうか。


 あのときは魔族だと隠したかったようだから、それなら私に目をつむらせたのも頷ける。


(でも、派手ってどういうことなんだろう)


 花火でもあげながら飛ぶのだろうか、流石にハクのイメージと合わずに首を傾げていたのだが。


「ぜぇ、ぜぇ……と、捕らえろ!」


 どうやら先程の兵たちが階段を上り追いついてきたらしい。


「人というのはいちいち遠回りをしなくてはならないのだな……不便そうだ」

「いや、あれが正規ルートでしょ。直線距離で上がるほうがおかしいって」


 哀れみを込めた目で彼らを見やるノワ。程度の差こそあれど、精霊術の使い手がほとんどのこの国ですら「人が空を飛ぶ」というのは聞いたことがない。


「あれ、そういえばハクは?」


 姿が見えないな、と思っていると。


ピキッ


「ん?」


シーン……


(なんか突然静かになった……?)


 先程までわーわー言っていたはずの兵たちの声が、何かが凍るような音とともに一瞬で消えた。


 何かあったのか、と思い兵たちの方を見やると。


「っえ……!?」


 今にも走り出そうとする者、武器を構える者、何かを叫ぶ指揮官らしき者。先程までそこで確かに動いていたであろうその者たちが、まるでその瞬間を切り取ったかのように。


「こ、凍ってる……!?」

「ああ、

……お出ましのようだな」


 目の前の状況が飲み込めずにいると、ノワがそう呟く。


「お出ましって」

「お嬢様、間に合ってよかった」


 バサッ


 聞き慣れた声。


 白い吐息とともに、私達の前に降り立ったのは。


「ハク……!」


 真っ白い両翼を広げた、ハクだった。


3/12 タイトルのみ変更いたしました

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