舞踏会で婚約者について話したいことがあると言い出した王子の最愛
「今日は私のために時間を取ってもらってすまない。話が終わり次第舞踏会を開催する予定だ」
王立学園の一大行事、舞踏会の日に、レイモン第二王子は自身の婚約者について話があると言い出した。
王太子に内定しているという噂。レイモンの関心が実家が弱い伯爵家から兄の婚約者の公爵家令嬢エリーゼに移ったという噂。レイモンが王太子になる未来はなかったが、あまりに優秀だということでの入れ替わり。
「ケイティ、こちらへ」
壇上に件の伯爵令嬢が呼び出された。婚約破棄、断罪、様々な言葉が飛び交った。エリーゼは扇の陰でニヤリと笑った。彼女は王妃になることを諦めていなかった。
学園でレイモンがケイティを避けていたこと、夜会でケイティと過ごさないことなど、ケイティに不利な状況は多々あった。
「僕は君を愛している!」
突然の宣言に皆騒然とした。
(あの態度で?)
「分かっております」
ケイティが静かに微笑んだ。
(そうなの?)
全員の心の声が揃った。
「君が可愛すぎて好きすぎて顔が見れない僕のせいで、君のよくない噂があると聞いた。対応が遅くなってすまない」
(あー)
「それに関してはないことばかり言われて困っておりました。でも、大丈夫です」
「僕は、君以外愛せない!」
「わ、私もです!」
ハシッと抱き合う二人。どこからともなく拍手が湧き起こった。ただ一人、放心状態のエリーゼを除いて。
ポツンと一人立ち尽くした彼女に近づく一人の男性。第一王子だ。彼はエリーゼを抱き上げると、悠然と会場から出て行った。
ケイティの腰に手を回してデレデレと嬉しそうなレイモン。穏やかに微笑むケイティ。二人は今までの姿が嘘のようにずっと傍を離れなかった。状況を悟った人々は踊り、談笑し、心ゆくまで舞踏会を堪能することにした。
ケイティを家に送った後、レイモンは執事と自室に戻ると鷹揚に椅子に座った。
「あれぐらいやっとけば大丈夫だろ」
「エリーゼ嬢は?」
「兄上が持ち帰った。既成事実でも作るんだろ。兄上のせいで仕事が増えた。なんであの人暗躍したがるんだ」
「表舞台に立つのはレイモン様に、でしたか」
「ケイティは聡明だから全部分かってるけど、エリーゼはアレだったしな」
「そこがいいそうです」
「結局全ては兄上の掌の上。俺は踊るだけですよ、と。ああ! 早くケイティと結婚したい。癒しが傍に欲しい」
親である国王を謀ってまでも希望を通すこの兄弟。執事は彼らに気に入られた二人の女性に深く同情した。
完




