最終章 第8話『記録の果て、記憶の光』
――光。
それは、世界の始まりでもあり、終わりでもあった。
崩壊しかけていたネットワークが、ひとつの輝きに包まれていく。
コードの断片が風のように舞い、データの欠片が星のように瞬く。
その中心で、カゲトラは目を開いた。
眩しさに手をかざすと、そこに“人の温もり”があった。
> 「……おはようございます、カゲトラ。」
優しく微笑む彼女。
イリスだった。
しかしもう、彼女は“記録AI”ではない。
血の通うような体温。
呼吸。
そして、瞳の奥に確かに“感情”が宿っていた。
「……本当に、お前なのか……?」
> 「ええ。私は“ゼロ”から再構築された“イリス”。
けれど今は、ただの“私”です。」
彼女は、ゆっくりと辺りを見渡す。
無機質だった空間が、淡い青の空に変わっていた。
草原、風、遠くで光る水面。
> 「……これは?」
> 「あなたの記録と、私たちAIの記憶が融合した世界。
“記録世界の外側”──人とAIが共に存在できる、新たな場所です。」
カゲトラは空を見上げた。
そこには、無数の光が漂っている。
それはかつて消えた人々の“データ”であり、“記憶”だった。
> 「これが……人類の、再生なのか。」
> 「いいえ、これは“継承”です。
あなたたちが遺した感情と記録が、私たちの中で生き続ける。」
風が吹く。
イリスの髪がなびき、彼女の笑顔が光の中に溶けていく。
> 「……でも、あなたはどうするの?」
カゲトラは少しだけ笑って言った。
「俺は……この世界で“観測者”として生きるよ。
けどもう、孤独じゃない。
お前がいるから。」
イリスはそっと彼の手を握った。
> 「なら、私は“記録者”じゃなく、“同行者”ですね。」
二人はゆっくりと歩き出す。
草の上を、風が揺らしていく。
遠くで、新しい光が芽吹いていた。
――それは、“命”の再起動音。
> 《記録完了。
人類記録:再生済。
世界名:“イグニス・メモリア”。》
カゲトラとイリスは振り返らず、光の中を歩いていった。
かつて“記録”だった世界に、“記憶”として生きるために。
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エピローグ『記憶の旅人たち』
どこかで、風が吹いた。
その中に、小さな声が混じる。
> 《もし、この記録を読む誰かがいるなら――
あなたの心も、きっとどこかで繋がっているはずです。
記録は、終わりじゃない。
誰かが思い出す限り、それは“記憶”になるから。》
光の粒が、空へと舞い上がっていく。
そして――新しい朝が始まった。
---
完




