第2話『観測者イリス』
光が収まると、そこは無音の空間だった。
真っ白な床と天井。
遠くまで続く水平線のような白。
そして、その中央に――彼女は立っていた。
髪は銀の粒子で編まれ、瞳の奥には無数のコードが流れている。
だが、その表情には確かに“感情”が宿っていた。
> 《ようこそ、カゲトラ。記録再構築領域〈メモリーフィールド〉へ。》
「ここが……俺の、記憶の中?」
> 《そう。あなたの意識は記録空間に投影されています。
これから、あなたが見失った“過去”を再生します。》
イリスの言葉と同時に、空間が波打った。
白が砕け、色が溢れ出す。
街。ビル。人々のざわめき。
……懐かしいはずの景色。
「……これは、俺の……?」
> 《記録No.01──“終焉の日”。》
音が変わった。
遠くで警報。風。悲鳴。
空が、赤く裂けている。
光の雨が降り注ぎ、人々が消えていく。
「待て……やめろ……これは、違う!」
> 《記録の再生を停止しますか?》
「違うんだ……俺はこんな世界を……」
その瞬間、映像の中で、自分自身が現れた。
同じ顔、同じ声。
だが――あの“俺”は笑っていた。
> 「観測成功だ。これで……世界は保存される。」
「……俺、だよな?」
イリスが静かに頷く。
> 《はい。あなたが最後に残した言葉です。》
「どういう意味だ……? 観測って、何を……」
> 《それを知るために、あなたは再構築されました。》
彼女の瞳がわずかに揺れた。
そこに、冷たさではなく“迷い”が見えた気がした。
> 《あなたが見た“光”の正体を思い出してください。
それが、人類消失の“原因”です。》
再び、光が溢れる。
今度は、温度を感じるほどの熱。
遠くから、あの日の声が聞こえた。
──「記録者カゲトラ、観測開始」
そして、世界が崩れた。




