うしろ
怖いのは苦手です
[12月10日 日新新聞]
12月9日未明、千葉市の海岸で同市の学生である宮原晃さん(21)の遺体が発見された。
宮原さんは12月6日、友人との会食以降連絡が取れなくなっており、家族により捜索願が出されていた。第一発見者である漁師の男性は、9日の深夜3時ごろに宮原さんが自宅横の林から出てくるところを目撃しており、その1時間後に海岸で倒れている宮原さんを発見した。
発見された遺体には複数の刺し傷があったが、司法解剖の結果として、直接の死因は胸背部の刺し傷による呼吸困難であると結論づけられた。
付近の防犯カメラに不審な人物は写っておらず、警察は目撃者の情報提供を呼びかけている。
[12月22日 東日新聞 電子版]
12月21日、千葉市の漁港の仮設トイレで男性の遺体が発見された。
被害者は同市で漁業を営む斎藤隆介さん(47)。発見者の男性は、すぐ近くでトラックの積み込み作業をしていたが異常な物音は聞こえなかったと証言している。
発見された遺体は激しく損傷しており、背部の刺創をはじめ、全身に打撲痕が存在していた。使用していたトイレは内側から鍵がかかっていたとのことである。
千葉市では今月9日にも刺殺事件が発生しており、警察は本事件と関連があるとみて捜査を進めている。
[12月29日 週刊スクープワイド]
【江東区マンションでバラバラ遺体!?右腕は未だ見つからず】
今月26日、江東区のマンションで男性の遺体が発見された。
被害者の男性は都内運送業者に勤める梶谷元浩さん(28)。交際中の女性が、24日の朝から梶谷さんと連絡が取れないことを不審に思いマンションを訪ねたところ、テーブル上に置かれた梶谷さんの◯◯を見て警察に通報。
警察の捜査によると、遺体は複数の部分に切断されており、部屋の各所に散らばっていたという。右腕から先は発見されなかった。
検死の結果、背部の切り傷からの出血が直接の死因と発表された。凶器として、ノコギリのような刃物が推測されているが、現場からは発見されていない。
玄関ドアと窓には全て鍵がかかっていたことから、警察は交際中の女性を容疑者として取り調べを行っている。
[1月6日 モーニングニュース7]
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続いてのニュースです。昨日、都内の警察署で取り調べを受けていた女性が、何者かに殺害される事件が発生しました。被害者の青山瑠衣子さんは、先月都内で発生した殺人事件の容疑者として署内で取り調べを受けていたところ、突然部屋から飛び出し逃走したとのことです。逃走した青山さんは、昨日夕方ごろ女子更衣室のロッカー内で首の骨が折られた状態で署員によって発見されました。被害者に争った形跡は無く、背中に刺し傷があったことから、後ろから襲われたのではないかと見られています。
取り調べを行っていた署員は、直前まではっきりと受け答えをしていたが、突然何かに怯えたような表情で部屋を飛び出してしまったため止めることができなかったと証言しています。
警察庁は、「警察署内で事件が起こるとは言語道断である。責任を持って真相を究明したい。」と発表しています。
続いて、スポーツの話題です。
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「年明けから物騒だな。」
テレビの電源を切り、小さく呟いた。先月のバラバラ殺人といい今回の事件といい、日本は修羅の国にでもなってしまったのだろうか。朝食の食器を片付けながら少し日本の未来に頭を悩ませたが、すぐに目先の課題を思い出して出社の準備を始める。今日は朝から大事な会議があるため万が一にも遅刻するわけにはいかない。俺はいつもより20分早く家を出ることにした。
冬の朝、天気が曇りということもあって、外の空気が痛いほど冷たい。最寄り駅までは15分、自転車を漕ぐ足が早まる。
無心で自転車を走らせながら、俺はぼんやりと今朝のニュースのことを考えていた。警察署内で、それも首を折って殺すなんて、人間業で可能なのだろうか。犯人は警察の人間?それとも......
「......さん。お兄さん、ちょっと!」
後ろから呼び止められる。服装から警官らしい女性が立っていた。
「思いっきり赤信号ですよ。ちゃんと前見て走ってますか?」
「え?あぁ......すみません。」
ぼーっとしていたせいか、赤信号を素通りしてしまったらしい。交通量も少ないため気が付かなかった。
「とりあえずお兄さん、防犯登録だけ調べさせてくださいね。」
警官は俺の自転車を確認すると、無線で何やら話し始めた。
まずいな、これどれくらいかかるんだ? チラリと腕時計を見る。まだ余裕があるが、そう時間を食ってはいられない。若干の焦りを覚え、俺は警官に訪ねた。
「あの、すみません。今日大事な会議があって......もう行ってもいいですか?」
警官は少し呆れた顔をした。
「あのですねぇ......自転車の信号無視は立派な道交法違反です。5万円以下の罰金か、最悪懲役刑も......」
不意に警官の話が止まった。警官はしきりに周囲を見回している。表情がどんどんこわばっていく。
「えと、どうされ......」
「誰?......いや......! 来ないで!!」
呆気に取られる俺の横を全速力で通り過ぎ、警官は路地の方へ走り去ってしまった。なんだ今の、頭おかしい人なのか?
もう行ってもいいのだろうか。でも俺とさっきの警官が話をしていることは無線で伝わっているわけで、今の件が後々トラブルになるのも面倒だな。ため息をつきながら、俺は自転車を道端に止めて警官を追ってみることにした。
幸い警官が曲がっていった先は行き止まりのはず。周辺の地図を頭に浮かべながら路地に入る。
「すみませーん」
暗い路地に呼びかけてみるが返事はない。本当意味わからないことをしてくれる。
イラつきながら進むと、足元に何かが落ちているのを見つけた。これは......さっきの警官の帽子か。どれだけ焦ってたんだ。
路地はそれほど大きくない一本道だ。帽子を拾って最後の角を曲がる————
血溜まり。
目に飛び込んだのは壁一面の、地面いっぱいの血溜まりだった。その中心に警官が横たわっていた。
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会社は欠勤した。1日中取り調べ、それとカウンセリングを受け、解放されたのは20時過ぎだった。
外はいつの間にか雨が降っていた。自転車は......あそこに置いてきてしまったか。とりあえず今日は歩いて帰ろう。
とぼとぼ歩きながら悪夢のような1日を振り返る。まさか自分が殺人事件の第1発見者になるとは。現場からはすぐに目を背けてしまったのであまり詳しくは見ていないが、警官は長い杭のようなもので心臓と四肢を貫かれていたらしい。凄惨な現場が脳裏にフラッシュバックし、吐き気を催す。
なんとか家にたどり着いた。玄関を開けると住み慣れた家の光景が目に広がり、少し心を落ち着かせられた。大分冷えてしまったし、先にシャワーを浴びるか。
びしょ濡れになった服を脱ぎ、浴室の電気をつける。
蛇口を捻り、少しすると温かいお湯が出始めた。
それにしても近頃は殺人事件が本当に多い。最初に起こり始めたのは去年の千葉のやつだったか。確か海で学生が殺されてて、それを漁師が見つけて、って感じの。
その次は港で漁師が殺されたんだったな。トラックの作業員が見つけたときは中から鍵がかかってたということだった。
——ふと違和感を覚えた
その次は、トラックの運ちゃんが。発見者は恋人の女性。
——偶然か
今度は恋人の女性が取り調べ中に失踪、遺体を署員が発見。女子更衣室のロッカーだから、発見したのは、女性。
——いやまさか
この次は......女性警官。見つけたのは......
バッと後を振り返る。
ただの白い壁。
考えすぎか。第一、ロッカーで死体を見つけたのだってあの人だとは限らないわけだし。きっと疲労のせいで思考が悪い方へ行ってしまうのだろう。
蛇口を締め、浴室を出た。
今日は早く寝ることにしよう。そう考えながらタオルで体を拭く。
「ウ......シ............ろ......」
背後から声がした。
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ピチャン
ピチャン
浴室のシャワーから水が滴る。
脱衣所には後頭部を潰された男の遺体があった。
発見者は、