第五章〜話し合い
書かせて頂きました。宜しく御願い致します!
「えっち」
もともと『彼女』であった欄馬の顔をした彼女が唇を尖らせた。
「オレ、未だ君の身体に悪い事、なんにもしてないんだけどな」
『彼女』の身体に乗り移った欄馬がアイスコーヒーのストローをひと吸いしてから小声で言った。
小声なのは、この非現実的な会話を他の客に聞かれて頭のおかしいひととか思われたくないならであった。
「今からきっとするわ」
「しないよ」
「信じられない。あたしだって、男の人が考えてることくらい知ってるのよ。経験結構あるんだから。あたしの身体で感じ取ってわかってるんでしょうけど」
「いや。意外にわからないものだよ」
彼は諦めたように笑った。
階段の下まで転がって入れ替わった後、取り敢えずふたりで喫茶店にでも入って頭を冷やそうかということになったのだ。
で、アルタ・スタジオの並びにある喫茶店に入ったというわけだ。 欄馬にも 約束はあったがこの事態において それを果たせないと諦め、スマホのメールで行けなくなったと連絡をつけたのだ。この身体で待ち合わせ場所に行ったところで、それが欄馬などとは思って貰える訳もないのだし。
「ところで、お互いまだ名前も紹介し合ってなかったね。君の名は、と言ったって今はオレの名はみたいなもんかもしれないんだけど」
欄馬が言ったが、彼女は笑わなかった。
「じゃあ、そちらから名乗って。あなたの名前は今はあたしの名前なんだけど、ね」
「わかった。俺はランマ。その身体はまあ、好きに使ってくれ。ただ、アレルギー体質だ。埃やダニやノミには気をつけた方がいい。あと胃腸もあまり丈夫ではない。運転免許持ってるから自由に乗っていいよ。車はアパートの駐車場に停めてある。後でアパートの場所も教えるよ」
と、彼女は驚いた顔で、
「え?あたし、あなたの、ランマ君のアパートに帰るの?嘘でしょ?」
と、欄馬は、
「当たり前だろう。君が自分の家に帰ったら、それこそ不法侵入のヘンタイ男になっちゃうよ。オレの身体を通報されて逮捕されても困るよ」
「えー、いやよ。カレシでもない男のひとのお部屋で生活するなんて」
「仕方ないだろ。もともと君が足を滑らせたからこうなったんだ。それも責任のとり方だよ。わかる?」
「えー!そんなぁ!きもーい。やだぁ」
「なんて失礼な」
「あなたは嬉しいのでしょう?あたしの部屋に入って好き勝手出来るのどから」
「酷いよ。自惚れすぎじゃね?女なら誰でもいいって男とは違うぜオレは」
「ほんと?」
「うん。まぁ、信じられない気持ちもわからなくはないが」
欄馬は苦笑した。
「ゴメンネ。あ、あたしは、というか貴方は、夏美よ。真夏の夏に美しい、で」
「わかった」
「持ち物はどうしよう?」
俺は手にしたエルメスのハンドバッグを眼の前に翳して見せた。
「どうしよう?今のあたしが持ち歩いてたらおかしいよね。やっぱ。置き引きでもしたかと思われそう」
「確かに」
欄馬はふう、と深く溜息をついた。
お読みにていただきまして誠にありがとうございました。