アルダの気持ち 2
マリアナは、つつつ、とジェニスの脇に移動して、その背中を押し始めた。
「わ、わかったよ。自分で歩くって。じゃあ、アシュレイ、またな」
ジェニスは苦笑いを浮かべながら手を振り、大人しく部屋を出て行った。
「もう、男の人は、これだから」
マリアナは腰に手を当て、ぷりぷりと怒りを露わにした。
「と、ジェニスさんを責めてばかりいられませんね。私も差し出口をしてすみません。でも、先ほどのお2人の仲睦まじいご様子は、傍から見ていても胸が温かくなるようでした。ですからどうぞ、御身を軽くお考えになりませんように」
「ええ……ありがとう」
マリアナの心遣いに、今度は素直に微笑んだ。
彼女はアルダシールを支持する医師の、助手だ。
これまでもアルダシールを慕い、支えとなってくれていたのだろう。
アシュレイはベッドに身を起こして、トレーを受け取った。
歩き難いだけで、身体が動かせないほどではない。
用意された食事は、刻んだ野菜に豆の入ったスープと、パンだった。
根菜の滋養と程よい塩味が口内に広がる。
スープを一口、スプーンで味わった後は、器に直接口をつけた。
ごくんと、喉を鳴らして飲み込めば、温かく胃の腑を満たしていく。
「あ~、美味しい。染みるわぁ」
アシュレイが噛みしめるように呟くと、マリアナがクスリと微笑んだ。
「アシュレイ様は、本当に飾らないお人柄なんですね」
「ごめんなさい、はしたなくて。でも、これが本性なの」
アシュレイは舌を出して、肩を竦めた。
「いえ、素直で可愛らしいなと思っただけですよ」
「そう言ってもらえると助かるわ。いつも猫を被っていたら疲れちゃうもの。……ねえ、このご飯、皆の分は? 厨房は無傷だったの?」
「無事だったようですね。念のため、残されていた食料や水には手を付けず、持ち込んだ分でこしらえました。ちゃんと人数分ありますから、心配しないでください」
敵に占拠された時のため、城内の食料や飲み水に細工をしている可能性もある。
内戦でそこまでするかどうかは、判断が難しいだろうと考えていたが、アルダシールたちはちゃんと備えていたようだ。
「こんな粗末なお食事で申し訳ないとさえ思っていたのに、私たちのことまで心配してくれるなんて……アシュレイ様は、お優しい方ですね。そんな人がお妃様なら、国民は皆、王国に忠誠を捧げるでしょう。この国はもっと栄えますよ!」
「もう、だから大袈裟だって。……でも、それなら良かった。遠慮なく頂きます」
アシュレイはパンを千切ると、スープに浸して口に運んだ。
「ごゆっくりどうぞ。あ、お水がありませんね。お持ちします」
マリアナは水差しを取りに、ベッドの傍を離れた。
そのタイミングで、コンコンと扉を叩く音がして、外から声がした。
「アシュレイ、俺だ。入るぞ」
どなた? も、どうぞ。も答える暇もなく、扉が開け放たれた。
アシュレイはパンを口一杯に頬張ったままだ。




