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王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません  作者: きぬがやあきら


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反撃 1

 暗闇での戦闘は、灯りを持つ方が不利だ。


 自分の姿を相手に晒し、暗がりに潜む敵を見落としがちになる。


 突き出された剣先が眼球の数センチ先を掠めても、アシュレイは冷静だった。


 冷静でなければ、切り抜けられない。


 騎士は長いローブを纏っている。足音からは甲冑を身に着けているとは思えない。


 頭の上から爪先まで目を走らせて、狙いを定めた。


 瞬時に間合いを詰めて、一突きで仕留める。


 短剣を握る手に力が籠る。


「出てこないなら、こちらから行くぞ」


 騎士は意を決すると、払うようにして剣の切っ先を布に滑り込ませ、サッと捲り上げた。


 それと同時に、アシュレイは飛び出していた。


 鞘で剣先を払い、足裏で、胸を踏み込むように蹴り下ろす。


「ウッ」


 勢いで仰け反った咽喉へ、一気に刃を突き立てた。


 ドサッ


 騎士は声を上げる間もなく頽れた。


 松明は地に落ち、アシュレイのローブにも火が燃え移った。


 しかし怯まずに袷のベルトを解くと、倒れた騎士目掛けて打ち捨てる。


 その間から突き刺した短剣を引き抜いた。


 ローブにはみるみるうちに、黒い染みが広がる。


「ハァッ、ハッ」


 そこで急に息が上がって、アシュレイは今まで呼吸を止めていたことに気が付いた。


 どうやって堪えていたのか、急激に玉のような汗が噴き出して、握ったはずの短刀を取り落とした。


(まだ……あと、2人いる)


 マクシムはどこまで騎士団の2人を惹き付けただろう。


 こちらの異変に気付いて戻って来れば良いのだが。


 アシュレイは短刀と松明を拾って、荷台を検分した。


 3本の長剣と、長銃に短銃が2丁ずつ。


 護身用にしては随分な荷物だ。だが、今構うような大事ではない。


 短銃を一丁手に取り、ホルスターを弾薬箱、短剣と共に腰に装着した。


 不格好ではあるが、これも構っていられない。


 残りの武器類は布で包んで、馬体に括りつけた。


「離れて、待ってて」


 馬がアシュレイの意図を理解するとも思わないが、荷台から切り離して声をかける。


 軽く尻を叩くと、意を汲んでくれたのか、そのままのろのろと歩き出した。


 薬包と弾薬を短銃に装填する。一掴みの薬包を荷台に放り投げた。


 短銃は17世紀頃のフリントロック式に酷似している。


 用法は恐らく想像通りだろう。


 充分な距離を取るが、離れ過ぎては狙いが定まらない。


 100メートル地点に目星をつけ、未だ燃え盛る炎に向かって薬包を投げ込んだ。


 ドーン


 眩い閃光と共に、引火した火薬が音を立てて弾ける。


 熱と煙が、辺り一面を包み込む。


 爆風のあおりを受ける形で飛び退って、転がったその場で土にへばりつくように伏せて余波をやり過ごす。


 やがて静寂が戻ると、アシュレイはよろよろと立ち上がり、定めていた地点へ移動する。


 あらかたが爆風に吹き飛ばされたが、遺骸に燃え移った炎はまだくすぶり続けていた。


 焦げた脂の嫌な匂いが漂って、顔を背けた。


 一瞬、罪悪感に襲われそうになるが……まだだと瞑目する。


 ここで躊躇えば、マクシムは助からない。


(……あと、2人)


 アシュレイは地に、腹這いになって待った。


 あれだけの轟音が轟けば、2人とも……少なくとも1人は様子を見に戻らざるを得ない。


 しかし、アシュレイの予測に反して、騒々しいくらいの足音と共に2頭の馬が駆けつける。


「今のは何の音だ」


「さぁ……爆薬でも持っていたんでしょうか」


「自爆したってのか? じゃあ、隠れていたのは王子じゃねえな。コルギ相手に、王子が自爆などするもんか」


 馬上の1人、ザイードが舌打ちする。


 2人は腰に得物を佩いてはいるが、手ぶらだった。


 アシュレイは一つ、安堵する。マクシムはまだ捕らえられていない。


 もう1人の従者が下馬して、燃え燻る遺骸に接近する。


(……もう少し。ザイードが荷台の影に入ったら……)


 地に伏せるアシュレイからは、人馬の影が朧な輪郭と共に見える。


 射程距離は充分だったが、会話がほとんど聞き取れない。


 会話の内容を把握するより2人を確実に仕留めるほうが優先事項だが、2人のほうが光源に近い。


 有用な情報を漏らすかもしれないと、アシュレイは頭の位置を保ったまま匍匐し、接近を試みる。


「じゃあ何者でしょう。その、べリングバリ卿が庇うほどの人物とは」


「わっかんねぇから戻ってきたんだろう。見つからないのが気に入らねえが、どの道マクシムは腹に鉛玉を抱えてそう遠くへは逃げられない。捜索は明るくなってからでも間に合う。しかし、よくわからんな。自爆予定で逃げたわけでもあるまい……」


 ザイードは馬上でぶつぶつと呟き、自らの顎をしきりに撫でた。


「待ってください。燃えている死体は一つ……コルギだけです! 潜んでいた者は逃げ……いや、付近に潜んでいるかもしれません!」


 侍従が火の傍にしゃがみ込み、声を上げた。


「何だと!?」


 途端に、燃え差しに釘付けだった目が、カッと見開き、振り返る。


(くそっ、やむを得ない)


 アシュレイは転瞬の間、思案したが、覚悟を決めて立ち上がった。


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