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政略結婚!? 2

 どのように理不尽な扱いを受けても、第一王女としての矜持がある。


「アラウァリアは外海にも通ずる大国です。国土は広大で、人口も万を超えるとか。その国王陛下に嫁ぐなら、影響力は甚大ですね」


 震え、折れそうになるアシュレイを奮い立たせたのは、その一心だった。


 絞り出される、小鳥の囀りのように可憐な声を、どこか他人のもののように感じながら目を上げる。


 真正面からキューベルルを見据えた。


「とは申せ、19番目の妃では、貢物に毛が生えたようなものです。せいぜい輿入れまでに、肌に磨きをかけなさいな。心多きアラウァリア王の関心を少しでも惹けるようにねえ」


 アシュレイの嫌味をものともせず、キューベルルは口元を揃えた指先で覆うと、「ほほ」と含みのある笑みを漏らした。


 そう、アラウァリアは肥沃な大地が広がる大国である。


 しかし現国王である、アラウァリア王は近隣諸国でも無類の女好きで通っており、御年は50歳。


 既に18人のもの妾妃を持っている。


 王妃とはいえ所詮はおまけの立場に過ぎない。


 たとえ寵愛を受けられたとしても、いつ王子への譲位が行われてもおかしくない年齢だ。


(――あっ)


 記憶の奔流が前触れなく、唐突に途切れた。


 それでようやく、アシュレイは混乱から解放された。


 この時にはもうアシュレイの内部で、アシュレイと2人分の記憶が混ざり合い、個別の情報へと存在が定着していた。


 俄かには信じ難いがアシュレイの中にはもう1人の別人、“矢野千春(やのちはる)”としての生の記憶が刷り込まれたのだ。


 これはいわゆる、前世の記憶というものだろうか?


 到底他人のものとは思えない、愛しくも苦さの残る記憶……。


 矢野千春は、日本と呼ばれる国に住む女性だった。


 両親はない。


 記憶の始まりは児童養護施設からだった。


 小・中・高校と、自分の居場所がどこにもないような、心許ない生き方をしていた。


 しかし成長するにつれ体格に恵まれ、周囲の勧めもあって自衛官の道に進んだ。


 それが、災害救助の最中にぷっつりと途絶えている。


 そこが、千春の最期だったのかもしれない。


 どことなく、現在の自分との共通点を見出しながら、アシュレイは思考を現実へと戻した。


 これが前世の記憶だとして、今この瞬間、身に宿ったのは天の采配か何かだろうか。


 これまでアシュレイはこのキューべルルに翻弄され続けて来た。


 他国の鳥籠に入れられるまで、指を咥え、されるままに甘んじるのか?


 目の前にいるのは、幼い頃からアシュレイを虐げ続けた継母だ。


 だが、矢野千春にとっては単に居丈高に振る舞う他人に過ぎない。


 アシュレイの中に、純真無垢とは相反する、猛烈な叛逆心が芽生えた。


「勿体ないくらいの縁談だと、王妃様が仰せられたのです。どうぞ楽しみにお待ちください。見事、アラウァリア王の寵姫となり、近隣諸国を手中に治めて見せましょう」


 この縁談は、キューベルルの主導による、体裁の良い”追放”だ。


 アシュレイの意思など関係ないし、拒否もできない。


 せめてもの抵抗がしたくて、嫌味を返す。


 体面を保つ前提など今のアシュレイには意味がない。


 輿入れは決定事項なのだから、共に過ごす期間はもう長くない。


 もちろん“近隣諸国”には、このセレンティア王国も含まれていた。


 暗にアラウァリア王と結婚して、貴方がたの上に立ってやりますと宣ってやる。


「まあ、憎まれ口を叩くなど、性根の卑しい娘だこと。粗相をして、祖国の恥とならぬよう、輿入れまでに再度、教育が必要ね。娘の教育は、継母ははである私にどうか、ご一任くださいませ、陛下」


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