雷(いかづち)と刀
勝負開始の合図と同時に距離を離しながら互いの異能を発動した。バックステップをしながら手をかざし、瓏の方からは刀が、光の方からは稲妻が現れ、まっすぐ飛んでいった。相手めがけて飛んだ刀と稲妻は、ぶつかり合い、相殺された。
「……ちょっとは当てたかったんだけどなー……」「ほお……なかなかやるやんか。異能は刀を創り出す感じのやつやな」「そういうあんたは、わかりやすく雷を操る感じらしいな」
能力が一瞬でバレた。が、どちらも狼狽える様子はない。
「光、だったか……あんたは、武器を使うか?」「いんや。だか、遠慮はせんでいい……こっちも……」
そのとき、光が雷をまとい、光速で瓏の目の前に来て顔面を殴った。その勢いで瓏が吹っ飛んだ
「……いってえ……」「能力は使うからのぉ……立ちぃや。それくらいは待ったるわ」瓏は警戒しながらゆっくり立ち上がり、刀を抜いた。
「そっちは、第四隊なん?……オラァ!」「そうだ……てや!」
接近し合い、光は拳や足に雷をまとい、振るたび落雷がおきる。瓏は刀を空中に刀を創り、そのまま飛ばして攻撃したり、光が落とした雷の避雷針代わりにしている。隙を見て光の懐に潜り込み、腹めがけて刀を振った。光はそれを手で掴んでで受け止め、こう着状態が続いた。
「第四隊ならダメだったか?」「いいや。むしろ、敵討ちの機会が出来て良かった思ってるわ……まあ、刃がついとらん模造刀で戦おうとしとる輩は初めてみたがの」「……敵討ち?」「あれ?聞いとらんの?ワシ、雷禍の弟やで?」「………はあ?!」「…マジで知らんの?」「……ま、まあ……」
もうこの時から互いに戦闘体制を解いていた。「……雷禍が何かはわかるよな」「お、おう……あれだろ…一年前の第四隊を全滅させたっていう…」「そや、その弟」「……マジか…」
しばらくの沈黙があたりを支配する。そんな中、雷堂がニヤつきながらこんな提案をしてきた。
「……瓏やっけ……ちょっとええか?」
「なんだ?」「次の一撃で、すべて決めへんか?」「…ルールは?」「お互い10メートルくらい離れた所から……そうやな…ワシの落雷を合図に、大技をぶつけ合う……どうや?」「…信じて良いのか?」「心配すな。こう見えてワシは約束はまもるからの…開始の合図をそっちに直落としとかしたりはしいひん…後もう一つ、お互い遠距離攻撃はなしで。どや?」「……正直、僕も確かに早く終わらせたいと思ってたからな…あ、でも負けたら殺されるんだった」「た、大変やな……ま、敵討ちといいはしたけど、そこまで根に持ってるわけやない……気楽にやろうや」なんて話しながら瓏は光から10メートル離れたところで光の方をむいた。深呼吸を一回した後、刀を鞘に納め、居合の態勢で開始の合図を待った。
「………」「………」
互いに沈黙し緊張が走ること数分、ついに雷が落ち、ほぼ同時に走り出した。あっという間に互いの射程圏内まで距離を詰め、最大火力の雷をまとった拳と、鞘で加速させた刀がぶつかり………
ー結果は、相打ちだったー
瓏と雷堂は互いの全力をくらい、意識を失った。その一連の流れを見た雷堂の手下が救急車を呼んだ。
「……んあ?」瓏が目を覚ました。
「………ここは?」「病院や」
起きたばかりの瓏に話しかけたのは、隣のベッドにいる雷堂だった。瓏の怪我は右腕と左脚の骨折雷堂の方は、右の手と指の骨にヒビが入ったことと、両脚の骨折により、入院が確定した。ちなみに、なぜ拳だけでなく脚まで折れているかと言うと、二人が技をぶつけ合った時に両者が吹き飛んでたまたま脚だけ強打したからであるらしい。(雷堂の手下談)
「勝負…‥どうしようか?」「んなもん引き分けで……ん?」
「瓏ちゃん!」「光兄!」
瓏と雷堂それぞれに似た雰囲気をした女性2人が慌てた様子で二人のいる病室にやってきた。
「母さん?!どうしてここに?」「静音…ここにおること、誰に聞いたん?」
「それは、私が瓏の母親と雷堂 光…お前の妹に連絡した。身内と合わせて話がしたくてな」そう言い、舞がやってきた。
「ま、ままま舞さん?負けてはないので、顔面潰すのはご勘弁をぉぉ……」「殺されるよりはマシやったな」「いや、雷禍の弟と話せる機会を作ってくれて良かった。大手柄だ。瓏」「え?顔面潰すの…‥なし?」「…ま、お前まで倒れてるのは残念な所だがな……」「あはは……それは仕方ないでしょ?」「何があったかは、後で聞くが……」
「で………舞さんとやら、話ってなんや?」雷堂(兄)は舞にそう疑問を投げかけた。「お前と、その手下は他校の不良との喧嘩三昧らしいな…授業も受けずに。だから風紀委員会を管理するものとして辞めさせないといけないと思ってな」「……余計なお世話やな。どうしようが、ワシの自由や」「鷲見第三の内外で恐れられていて、こっちとしてもやめて欲しいんだ」「心配せんでも、一般人には手ぇださんわ」「そうはいっても……」
「……うまく行ってないみたいだな」舞と雷堂のやりとりを見て、瓏はそう感じた。
「そうねぇ……この時期になると、ヤンチャしたくなるからねぇ……私も瓏ちゃんとおんなじ頃、殺し屋やってたし」「初耳なんだけど…それヤンチャ超えてない?」「あはは……そっちも色々あるんですね…」
「ほら、母さんがとんでもないこと言うから、光の妹困惑してる」「いやあ……まあ…あはは…それより、うちの名前言ってなかったですね……うちは雷堂 静音です。あなたは…赫刀 瓏さんでしたっけ?」「そうよー…あ、私は赫刀 玲。よろしくね〜」そういうと、静音はあからさまに距離を置くような態度を取った。「あれ〜?どうしたの」「母さんが話しかけたからでしょ?」「瓏ちゃ〜ん……ひどいよ〜?」「い、いえ……大丈夫ですよ?…………それよりさっきの話ですが……うちの一番上の兄貴『雷禍』って呼ばれてるじゃないですか」「……そうだな。会ったことないけど」「?瓏さん2年生って聞いたけど…会ってないんですか?確か一年前にうちの長男が暴れ回ってたんですよね?風紀委員なら瓏さんも知ってるもんかと…」「生憎、当日ひどい熱にうなされてて行けてないよ」「そうなんですか?……それはなんともタイミングの悪いこっちゃですね。…それはそうと…うちも光兄も一番上の兄貴があんなことしたのか知らないんですよ…やから光兄は不良の傍ら、調べたりてるんです。……ほかにも、光兄は……いや、なんでもないです」そういって、舞と雷堂の方をみた。
「……ふーん………よいしょ!」「瓏ちゃん大丈夫?」玲の心配には目もくれず、起き上がり瓏は雷堂に話しかけた。「なあ、光?」「ん?なんや」「瓏、どうした?」「ちょっと思いついたことがあってな」「なんや?それ」「お前も第四隊に入らないか?」「………はあ?!」雷堂兄妹も、玲も舞も驚いた。
「瓏?!おまえ、何言ってんだ」「大丈夫だよ。舞さん。だって、会ってみてそこまで悪い奴じゃなかったんだから。僕と光がやり合った時も、最後は正々堂々戦ってくれたし」「そうことじゃない……言葉には出来んが、なんか嫌だ!」「ひどいな?!ワシは不良やから…全部悪いってわけやないんじゃ!!…ま、いきなり入れって言われて大人しく従うんやったら不良なんかやっとらんわな」「……静音さんに聞いたけども、雷禍のことを調べてるんだろ?」「そうやが……はあ、鈴音め…余計な事言いおって…」「えへへへへー」「褒めとらんわ!!」「うえー……でも、行ってみたらいいんやない?光兄」「……行っても一人で調べんの意味ないやろ?」
「なんで光兄一人でやる前提なん?」「……これはワシの問題や」「……ああ…」「それ、僕も手伝わせて欲しいんだけど」「……は?」いきなりの一言に、光は呆気に取られる。
「瓏?な、何を言ってるんだ?本気か?!」「ああ……僕、雷禍にちょっと因縁があってね……行方知れずの雷禍捜索のために、手を貸して欲しい」「……ほお……そのために、第四隊に来いって言っとんやな」「そうだよ」「………」光、しばらく考え込む。その間を、集まった他の4人は息を飲んで見守る。
しばらくして、光の顔がにやけていき、話し始める。
「おもろいやんか。事情を聞かんのはお互い様や、よろしくな」「決まりだね……いいよね?舞さん」
「うーん………はぁ、仕方ないな。風紀委員は、誰でもなれる割に、生徒会からの融通がききやすい。瓏と雷堂の目的も、達成しやすくはあるだろう……」
「……ありがとな、舞さんとやら」「ただし!第四隊に入るからにはきっちり仕事してもらうからな!いいな!」「任せんかい。不良集団も使ってええからな……」
そんなふうに和気藹々と話し合っているのを、隣のビルの上から双眼鏡で覗く、和服カッターシャツの大正コス(袖襟元フリル)ツインテールの影……
「見つけた…」そうニヤリと笑い、そいつは双眼鏡を目から離した。
「………久しぶりに話したいなあ……瓏くん?」
ー設定解説その2ー
・雷堂 光…年齢17歳7月5日生まれ。関西弁ギザ歯の不良。メインウェポンは己の体と異能力(総合脅威度D)。能力は、雷を落とす。または雷を纏う、雷に成ることができる。光は雷を落とし、纏うことができるところから『稲妻落成』と名付けている。鷲見第三高校所属、
好きなものは、喧嘩、格闘ゲーム。
特技は、タイマン試合
好きな曲は、昭和後期から平成初期に流行った曲全般。
ノリが良く、不良集団をまとめ上げ、従わせるほどのリーダーシップもある。
・天海 舞… 年齢18歳8月28日生まれ。男勝りで馬鹿力。メインウェポンは己の体と薙刀(異能なし)。鷲見第三高校生徒会所属。
好きなものは和菓子。
特技は琴が弾けること。
好きな曲は和風チックな音楽(最近のものから歌謡曲、演歌まで)。
立場から、風紀委員会第四隊の仕切りをしている。第四隊隊長の巌流 武蔵を尻に敷いている。
・赫刀 瓏の異能力…あらゆる所から刀(拵えなし)を創り出しそれを打ち出したら、手に持ってそのまま振ることも、大量の刀を創って壁を作ることができる。
直接脅威度C…刃渡り90センチの刀を創り出すため。
間接脅威度C…刀はよく切れるため
経済脅威度B…拵えなしとはいえ刀を市場に出すこと自体とんでもないから。
よって総合脅威度C
やろうと思えば刀の山を作ることができることから『創剣山』と名付けている。