マウロの依頼②
「シュガー。次はここだ」
白を基調にした清潔感あふれる店の前で豆田は、その足を止めた。
「ここ? 綺麗なお店ね」
「そうだな……。『スワリー』か。とりあえず探ってみるか」
豆田達は『スワリー』の店内に足を踏み入れた。すぐに豆田達に気付いたカラフルなシャツを羽織った店員が、声をかけてきた。かなりの厚化粧だ。
「いらっしゃいまっせー」
店内は、スポットライトの役割を果たす白い傘のペンダントライトが天井から沢山ぶら下り、左手の壁にはこの『スワリー』の指輪をつけた女優のポスターが貼られている。
白い棚には数点の商品が充分なスペースを空けて置かれ、程よい高級感を演出していた。
「ちょっと話を聞きたいのだが、いいか?」
「あら? どうしたの? ドレスをお探し?」
「いや、ドレスではなく、この人を探しているんだが……」
厚化粧の店員に豆田は持参したカエデの写真を見せた。
「この人を知っているか?」
「こんな人、全然知らないわ」
豆田は、その店員の態度に違和感を覚えた。
(声が少し高くなったな。瞳孔が散大し、呼吸のスピードが若干早くなっている。これは何らかの情報を知っている可能性が高い。少しカマをかけてみるか……)
「このお店に入ったのを見た人がいるんだが……」
「え! し、知らないわよ!!」
店員は誰が見ても明らかに分かるほど動揺している。
(これは、完全に黒だな)
「あ―。私は探偵だ。店内を調べさせて貰う!」
豆田は半ば強引に店の奥に入ろうとする。
「何するのよ!! あなたバカじゃない! 探偵が勝手に調べていいはずないじゃない!!」
店員は慌てて、豆田の前に立ちはだかった。
豆田は右手を後ろに回し、シュガーに後方に下がるように指で合図した。
シュガーは、店員に気付かれないようにゆっくりと後ろに下がる。
「もしかして調べられたらマズイ場所でもあるのかな?」
「そんなところ、無いわよ!」
そう言った店員の視線が一瞬だけバックヤードに向く。豆田は、それを見逃さない。
「バックヤードか」
「なんで、バックヤードってわかったの?!」
「ん? それは自白かな?」
「うるさい!! あんたなんか、殺してやる!!」
店員は歯軋りをしながら、怒りをあらわにすると、手の平を豆田に向け、力みだした。
(何をする気だ?)
豆田は身を低くくし、警戒する。
「ええーーい!」
店員の大声と共に、手の平から、褐色の蛇が現れ、豆田に向かって飛びだした。
一直線に豆田に向かう蛇は、前腕に噛みつこうと大口を開ける。
「蛇遣いの『こだわリスト』か。コーヒーソード!!」
その言葉に反応し、コーヒーカップよりコーヒーのような見た目の『こだわりエネルギー』が、浮かび上がる。
直径15センチの球体になった『こだわりエネルギー』は、回転しながら、中央が盛り上がる。
豆田はその隆起した突起を握ると、一気に引き抜いた。引き抜かれたエネルギーは細長い刀の形状になり、コーヒーソードが完成した。
この間、0.2秒にも満たない。
出来上がったばかりのコーヒーソードを豆田は横一文字に振り抜く。
大口を開けて豆田に迫っていた褐色の蛇は、その攻撃を避けられず、上下に身体を分けられた。血飛沫が白い店内に飛んだ。
「痛ったー! あんたも『こだわリスト』?」
突き出した腕を押さえた店員は、豆田を睨みつけた。
(コイツ。やるわね。出し惜しみは出来ないわね)
厚化粧の店員の本能が、『この男は危険だ』と、警告を鳴らす。
「くらえ!! 蛇フィンガー!」
片手を豆田に向かってかざした店員は、そう言うと、歯を食いしばり再度力んだ。指がドクドクドクと脈打つのが見える。その脈に合わせて指先がドンドン伸びて行く。
1メートルほど伸びると先端が、上下に割れその内部から鋭い牙が顔を出す。店員の5本の指は、ピンクと黄色のカラフルな蛇に変わった。
店員は荒くなった呼吸を抑えながら、唾を飲み込んだ。
「これで、もうお・わ・り!! この蛇には致死性の毒があるの!! あんたなんかイチコロなんだから!」
5指の蛇は、それぞれ意思があるかのように、ウネウネと動く。
豆田は、コーヒーソードの先端を店員に真っ直ぐと向けると、
「なるほど。それなら、ソードより銃だな」と、つぶやく。
すると、コーヒーソードの刃は、液状になり大小の球体に分裂。それが銃と弾丸の姿に変わる。
豆田は、右手に収まったばかりのコーヒー銃の引き金を素早く引いた。
数回の発砲音が響き、カラフルな蛇たちの身体に風穴が開いた。
「うそ! 痛い! あなた! 飛び道具なんて卑怯よ!!」
蛇フィンガーは地面に落ちると、動かなくなった。店員は歯を噛みしめ痛みを堪える。
「致死性の毒があると聞いて、近づくバカはいないだろ」
厚化粧の店員は腕を押さえ地面にへたり込んだ。指から出現した蛇は跡形もなく消え、元通りの手に戻った。指は傷だらけで、その先端から血が地面に落ちる。
銃口を店員に向けたまま豆田はゆっくりと距離を詰める。店員は企んだ目を隠しながら、それを待つ。
(あと2歩、1歩。目に物を見せてあげるわ!)
店員の間合いの手前まできた豆田は、クルッと振り返ると、固唾をのんで見守っていたシュガーに話しかけた。
「シュガー。いいか。大体こういう毒を使う奴は最後に油断させて、攻撃するもんだ」
「な!!」
図星をつかれた店員は目を丸くする。
「だろ?」
「く! 余裕ぶりやがって!」
店員は立ち上がり、先程と反対の腕に力を込める。
脈打つ腕全体が、大きな青い蛇に変わる。
店員は、豆田を睨み付けると、青い腕の蛇を大きく振りかぶった。
「おいおい。それは、愚策だぞ」
「え? なに?」
豆田は、空中にコーヒー銃を置くと、手のひらを店員にむけ、静止を促す。ついで、頭上を指差す。
「え? 上? 天井? あ、あーー!!」
天井を見上げた店員の顔面に白い傘のペンダントライトが落下してきた。
『ガシャン!!!!』
店員の顔面にペンダントライトは直撃し、その意識を飛ばす。
「やれやれ。『こだわリスト』なら、銃で打たれた数くらいは把握しとかないと……」
豆田は呆れた目で厚化粧の店員を見ると、コーヒー銃を液体に変え、コーヒーカップに戻した。
「豆田まめお。大丈夫?」
「ああ。大丈夫だ」
「凄いわね。ペンダントライトも豆田まめおが落としたの?」
「ああ。毒蛇を打つのと同時にな」
シュガーは、その思考の深さに感心する。
「シュガー。とりあえず、こいつを拘束しよう。何か縛る物はないか?」
「使えるものがないか探してくるね」
シュガーは店内を探し回り、カウンターテーブルの裏から、ラッピング用のテープと紐を見つけた。
「これは?」
「あー。いけそうだな」
テープと紐を受け取った豆田は、それを使い厚化粧の店員をグルグル巻きにした。ついでに止血もする。豆田はいつの間にか楽しくなり、暑化粧の店員をデコレーションし始めた。
頭と胸にリボンを付け、ラッピングは可愛いく仕上がった。
「やれやれ。マウロが言うように、やっぱり『こだわリスト』の仕業だったな」
(豆田まめお。このラッピングの事には、一切触れないのね)シュガーは、ツッコミたい気持ちをこらえる。
豆田は、コーヒーを一口飲むと、
「よし、あとはバックヤードの中だな。まだ敵がいるかもしれない……。シュガーは、ここで待っているか?」
「豆田まめお。私も行くわ!」
「分かった。危なくなったら、すぐに逃げるんだぞ」
豆田はコーヒー銃を再度作り出し構えると、バックヤードに続くドアを蹴り開け、その中に突入した。
シュガーは、豆田の後ろに隠れるようにして付いていく。
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