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マウロの依頼①

 今回の依頼主は、こだわりのパン屋『ショパール』の店長マウロである。


『ショパール』は、ここグロアニア王国の首都『コルト』に店を構えて10年になる。


 首都『コルト』は、人口30万人の国際都市である。その外周は約600年前から高い城壁で囲まれている。城壁で隔てられた内部と外部の往来は、東西南北にある大きな城門と、蒸気機関車が通る線路のみとなっていた。


パン屋『ショパール』は、その国際都市『コルト』の中でも1番栄えた通り、『エスタ通り』の一角にあり、連日沢山のお客さんで賑わっていた。


 スタスタと歩く豆田とはぐれないように気をつけながら、シュガーは『エスタ通り』を進む。


 つい先ほど、グラザ達から逃げる為に『エスタ通り』を通った時とは違い、今は通りに並ぶ店舗に視線をやる余裕がある。


「豆田まめお。この通りには素敵な店が多いのね」

「だろ? 『コルト』で一番華やかなエリアだからな。また買い出しの時にも来るが、ここで大体欲しい物は揃う」

「そうなんだ。沢山お店があるもんね。あ、パン屋さんは、あそこ?」

「ああ。そうだ。あれが『ショパール』だ」


 通りの先に見える絵本の世界から飛び出したようなお店『ショパール』を豆田は指差した。


 焦げ茶色の木製の大きな扉。その上には深緑と白のストライプ柄のオーニングテント。歩道に面した壁はガラス張りになっていて、綺麗に陳列されたパンが外からでも見える。ホクホクに焼かれた柔らかそうなパンと、歯応えの良さそうなフランスパン。

『今日のオススメ』と、書かれた札が、チョコベーグルと、クルミパンの前に置かれていた。


 木製の大きな扉は、スライド式になっていて、軽い力で動く。


「あ。豆田さん! お待ちしてました」


 店長マウロは、豆田が店内入ってくるのを確認すると、仕事の手を止め、厨房から出てきた。

 その傍らには、行方不明の店員カエデさんの弟と思われる少年がいた。


 彼は神妙な面持ちで豆田に軽くお辞儀をした。豆田はお辞儀を返しながら、その人物の観察を始める。


(身長163センチ。男性。年齢は19歳といったところか。白い上着の一部に黒い染み。たすき掛けのブラウンのバック。サイズの割に重いな。丁寧に使われているが、年期が入っている。重心は左に寄り、骨盤の歪みがひどい。右手の親指の内側と、薬指にタコ。少しの首の歪み……。美容師か……)


 豆田は、この観察を一瞬で行う。考えるというより、感じ取るといった方が正しい。


「豆田さん。この方はカエデさんの弟アオイさんです」

「はじめまして。アオイと言います。姉のこと探してくれるんですよね?」


 豆田の観察は続く。


(目の下にはクマ。血色の悪い肌。呼吸は浅い。耳周りの硬さ。頸部の硬さ。心労がキツイな……)


「ああ。任せてくれ。かなり心配されているようだが、お客さんの耳は切らないように」

「豆田まめお。何を言っているの?」


 シュガーは、(豆田が余計なことを言った)と、思い静止しようとする。

 しかし、その必要は無かった。アオイは、目を丸くし、驚いた顔でマウロを見た。

 視線を受けたマウロは自慢げにゆっくりと頷いた。

 好意的な態度の二人を見てシュガーは不思議に思う。


「凄いです! 豆田さん! ぜひその観察眼でお姉ちゃんを助けてください!!」


 アオイは一筋の光が見えた気がし、それまで我慢していた感情が涙となり溢れ出た。


「じゃー。詳しい状況を教えて貰えるかな?」


 涙をポタポタ落とすアオイを前に豆田は、淡々と状況の聞き取りを始めた。


***


 カエデの弟アオイの話をまとめると、こうだ。


 昨日の夕方、カエデとアオイは買い物をしに、この『エスタ通り』にやってきた。途中、待ち合わせの時間を決め、別行動を取ることになった。


 しかし、その時間になってもカエデは戻ってこない。アオイは必死に探すもカエデは見当たらず、警察に相談。


 警察も捜索してくれたが、今のところ何の手掛かりもない。


「僕を残して勝手にどこかに行くことはないと思いと思うんです。事件に巻き込まれたとしか……」


 アオイの瞳に、また涙がたまりはじめる。


「なるほど。お姉さんの足取りに心当たりは?」

「えーっと。たしか解散する時に、服を買いたいと言ってました。来週友達の結婚式があるからって……」

「なるほど、では、まずは情報収集のために、服屋から回るとするか……」

「あ。これ姉の写真です。役に立ちます?」

「ああ。使わせてもらう」


 写真を受け取った豆田は、姉カエデの写真をシャツの胸ポケットにしまった。


「あの。ぼくも付いて行って良いですか?」

「ダメだ。『こだわリスト』が事件に関与していれば、おそらく戦闘になる。ここで待っていたほうがいい」


 アオイは豆田について行きたい気持ちをグッと堪えながら、「豆田さん。姉の事をお願いします」と、深々と頭を下げた。


「ああ。まかせろ! シュガー。行くぞ!」


 帽子を被り直した豆田は、『ショパール』を後にした。シュガーもその後をすぐに追う。


***


 首都『コルト』の『エスタ通り』には、服屋が21軒ある。その中で、パーティードレスを専門に扱う店は5軒。豆田達は、その5軒から聞き込みを開始することにした。


 まず向かったのは、パン屋『ショパール』から、一番近い店『PPL』。『PPL』は、煌びやかな店内で、かなり派手な洋服が多い。


「いらっしゃいませー」


 スラっとした立ち姿の店員が甲高い声で応対する。赤い服にネックレスが煩い。


「店員さん。仕事中にすまない。私は探偵なんだが、今、人探しをしていてね。この人を知らないか?」

 

 豆田は胸のポケットからカエデの写真をスーッと取り出し、店員に見せた。


 赤い服の店員は、記憶を遡る様子を見せたあと、ハッとした。


「あーー! 昨日来たわね。ドレスを何着か試着して悩まれていたわ」と、答えた。

「ドレスは購入したのか?」

「してないわ。気にいったのはあったみたいだけど、『あと数軒見てもっかい来る』って言って、店を出て行ったわ」

「で、その後は?」

「それが待っても帰って来ないから、他の店で決めちゃったのか思っていたんだけど……。どうしたの? 事件?」


 好奇心に満ちた顔をグイグイ豆田に近づけた。


(この店は関与して無さそうだな……。次に行くか)


 豆田はそう判断すると、店員を無視し店を出て行った。


「ちょっと、ちょっと、何か言いなさいよ!」


 赤い服の店員は豆田を追いかけようとするが、シュガーは、すぐさま間に入り店員をなだめる。


「あの、本当に情報提供ありがとうございます。助かりました!」


 シュガーは、深々と頭を下げると豆田の後を追った。

 

***


「ねー!! 豆田まめお! 情報を尋ねたら、お礼くらい言わないと!」


 顎に手を当てブツブツ呟く豆田は、集中しきっているようで、シュガーの言葉が一切聞こえていないようだ。

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