異界再び
ドラゴン『ギース』がいなくなった島は、静かな朝を迎えた。この5年間毎日鳴っていた咆哮は止み、小鳥のさえずりが聞こえる。
カタルは、日課になったゲートへのお供えを終え小屋に戻ってきた。
「じい様。すっっっごい静かだったよ」
「ふふ。カタル。それは良かったのー」
カタルは、素直な笑顔をじい様に向ける。
「シュガー女神様は、お祝いをするって言ってたけど、食べ物持ってきてくれるかなー」
「これ! わしらが『もてなす』方じゃぞ」
「知ってるよ! 森に行って食べ物探してくる!」
「うむ。頼んだぞ」
カタルは、冬に燃やして暖をとる為に置いてあった木材を一本持ち、小屋を後にした。
(もう一回ゲートを見てから森に行こうっと)
カタルは、一目散に森には向かわず、遠回りしてゲートの方に向かう。
『ヴワーーーン!』
タイミング良くゲートが光り、そこから沢山の荷物を詰めたバスケットを抱えた豆田達が現れた。
「豆田まめお神様! シュガー女神様!」
嬉しそうな大声をあげたカタルは、豆田達に駆け足で近寄る。
が、目前で停止。
「豆田まめお神様!!! そのドラゴンは、ギース様?!」
カタルは、ブルブル震えながら深紅の子竜の方を指差しながら、後退る。
「あー。カタル少年。これは卵から孵ったポチだ!」
すっかり怯えた顔のカタルは、尻餅をつきシュガーの方を見る。
「カタルくん。このポチは豆田まめおと、主従契約を結んだから大丈夫よ」
「え? 襲わないんですか?」
「そうよ。豆田まめおの言う事は何だって聞くのよ」
カタルは視線を豆田に向ける。
「そうだ」
頷いた豆田は、ポチの方にスタスタ歩いて行く。
ポチは、その様子を目線で追う。ポロッポは、ポチの頭から飛びたち、シュガーの肩に止まる。
『ギガギガ?』
「大人しくしとけよ」
そう言うと、豆田はポチを抱き上げ、地面に仰向けに寝かす。
『ギガギガー!』
ポチは仰向けのままバタバタしている。
「良いと言うまで動くな」
ポチは、動きを止め、大人しくなる。
「カタル少年。こう言う事だ」
カタルの怖がっていた表情は、一気に消え、豆田に尊敬の眼差しを送る。
「豆田まめお神様! ギース様を子分にしたんですかー?」
「ま、そんなところだ。ポチだが!」
「凄い!!!!」
カタルは、全身を震わせながら大声を上げた。
「じい様に報告しなきゃ!」
満面の笑顔のカタルは、小屋に向かって走って行った。
「豆田様。忙しい少年ですねー」
シュガーの肩から飛びたったポロッポは、転がるポチの横に降り立つ。
「しかし、本当に異界ってあるんですねー。凄い空の色ですねー」
「ああ。私達の住む世界とは、全く別物だな」
「? 妖精さん達は、ここの世界の人達なんでしょ? 異界があるのは当たり前じゃないの?」
シュガーは、不思議に思った事をそのまま口から出す。
「シュガーさん。異界から来た人は結構いるんですが、異界に行った人となると、私は聞いた事がないんです。伝承ではあるんですが……」
「そうなの?」
「ああ。だからここに来た事は誰にも言わない方がいい」
「そうなんだ。分かったわ」
シュガーは、豆田の真剣な眼差しをみて、事の重大さに気付く。
「と、言う訳だ。ポロッポ。誰かに言ったらポチに食べさせるからな!」
ポロッポは、ビックリして固まる。
『ギガギガ』
ポチは仰向けのまま返事をする。
「ちょっと、訳してあげてるのに、ポチさんも酷いじゃないですか!」
「ん? ポチは何て?」
「主様。全力で食べます! って言ってます!」
豆田とシュガーは、肩をすくめて笑う。
「もう! 分かりました。豆田様。ここの事は誰にも言いません」
「鳩だしなー。ま、ここの事もすぐに忘れるだろ」
「豆田様ー!!!!」
ポロッポは、豆田に激しくツッコむ。
「まーめーだーさーまー!!」
遠くからじい様の声が聞こえてきた。
カタルに連れられて急いでやってくるじい様は、ヘトヘトになっている。
「豆田様。カタルから聞きました! ドラゴン『ギース様』を使役されたそうで」
「ああ。主従契約を結んだからな」
「なんと、本当ですか? 流石豆田様!」
じい様は、感動して涙をドバドバ流す。
『ギガギガガ』
ポチが何やら訴えかける。
「豆田さん。訳しますね」
ポロッポは、仰向けで寝ているポチの腹に乗る。
「何と! 鳥が話しておる」
じい様は、びっくりしながら豆田の顔を見る。
「あー。爺さん。この鳥はポチとの通訳なんだ」
「そうでしたか! 豆田様は素晴らしい鳥も使役されているとは!」
「まー。そんなところだ」
豆田は、説明が面倒くさいと思い適当に話を合わせる。
ポロッポは、豆田をジロリと見るが、豆田に睨み返されたので、目を逸らす。
「では、改めて、訳しますね」
ポロッポは、声色を変え、偉そうな声を出す。
『主様。いつまでこの格好で?』
「良いと言うまでだ!!」
ポチは、再度ビシッと動かなくなる。
「豆田まめお神様。もう安全なのは分かったので、動いて貰っても大丈夫です」
カタルは申し訳なさそうに切り出した。
「豆田まめお。カタル君も、こう言ってるんだし、ポチをソロソロ自由にさせてあげて」
「ん? もういいのか? ポチ! 起きていいぞ」
ポチはその言葉を聞き、ゴロリとひっくり返ってから起き上がった。
ポロッポは、ポチの腹に一瞬敷かれ、
「グイー!」
と鳴くが誰も気にしない。
ポチは、ポロッポを拾い上げると、自身の頭の上に乗せた。
「さー! じゃ。カタルくん。お祝いしようか」
パチンと手を叩くとシュガーは、持参したバスケットの中身をカタルに見せた。
「うわー!! 凄い御馳走だ!!」
カタルは、嬉しそうな声を上げた。
「ええ、沢山の料理を持ってきたわ! いっぱい食べてね!」
カタルは、じい様の顔を見て、キラキラした目。
「カタル。良かったの」
じい様の目には、涙が浮かぶ。
シュガーは、目の前に大きなレジャーシートを広げ、人数分のお皿を並べ、料理を盛り付けた。『ギース』本人(本ドラゴンが正しいが)がいる中、その討伐のお祝いが始まった。
カタルは、シュガーが持参した料理が並ぶ様子を見て大喜び。瞳を輝かせながら、涎を垂らす。
シュガーが持参した料理は、 3種類のサンドイッチ。ポテトサラダ。卵焼き。ウインナー。ピザ。そして、大量のフルーツ。
「カタル君。どれから食べてもいいからね!」
その言葉を聞き、カタルは待ってましたとばかりに、料理を口に運ぶ。
「シュガー女神様! 凄く美味しいです! これは何と言う食べ物ですか?」
「あ、それはポテトサラダね。まだまだあるから沢山食べて良いわよ」
和気あいあいと、宴は進む。
カタルには、口一杯に食べ物を頬張り、むさぼり食べる。
「誰も取らないからゆっくり食べてね」
シュガーは、優しい眼差しをカタルに向ける。
その幸せそうな光景をじい様は、少し離れた岩に腰掛けたところから眺める。
「爺さん。コレを」
豆田は、じい様のそばに行き、持参したワインを薦める。
「豆田様。このような貴重な飲み物。頂く訳には……」
「今日はお祝いだ」
「……では、ありがたく頂きます」
豆田は、じい様の空いたグラスにワインを注ぐ。
一口、ワインを口にした後、じい様は喜びの感情が込み上げてくる。
「このような日が訪れるとは、夢にも思いませんでした。豆田様。本当にありがとうございます。何か、お礼をさせて頂けないでしょうか?」
「んー。爺さんに何かして欲しい事は無いがな。ここには何も無いし」
「しかし、それでは、わしらの気が!」
「んー。では、前に言っていた『ギース』の住処の財宝でも貰おうか」
『ギガギガギー!!』
『主様! あそこには何もないです!!帰りましょう!!』
「ん? なにか大切な物でも隠してるのか??」
「何もないです!!」
「そうかー」
ポチは、安堵の表情を浮かべた。
「じゃ。食べ終わったら、早速行くか!」
『ぎぎぎぎぎゃぎゃぎががが』
ポチはバタバタして泣き叫ぶ。
「ポチ! 煩い! もう決まった事だ! 諦めろ!」
(ポチさん。大変な人と、契約を結びましたねー)
ポロッポは、泣き叫ぶポチを見て、同情した。
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




