ドラゴン再び
『こら! われの上で寝るのはだれだー-!!』
「うわ! 卵がしゃべった!!」
ポロッポは、驚きの余り眠気が飛んだ。
『われは深紅のドラゴン。ギースであるぞ!!』
「うわ!! また喋った!!」
ポロッポは慌てて、ドラゴンの卵から飛び立ち、リビングで食事を楽しむ豆田達の元に急ぐ。
「豆田様!! 卵がしゃべりました!!」
「ん? もう卵から孵ったのか?」
豆田は、ポロッポに疑いの眼差しを向ける。
「いえ、まだ卵です!!」
「豆田まめお! 我が家で羽化したら大変よ! 見に行かないと!!」
「分かった!!」
そう言うと、豆田は、素早くキッチンに入り、ヤカンに水を注ぎ、コンロの火を点ける。
「豆田様!! コーヒーなんて入れている場合じゃないですよ!!」
豆田は、飛んでいるポロッポに向かって、コーヒー豆を一粒投げる。
「痛っ! 何するんですか?」
「コーヒーが無い中、ドラゴンが襲ってきたら、どうするんだ!」
「だから、まだ、卵ですよー!!」
「豆田まめお! どっちにする?」
慌てているシュガーは、両手にコーヒーミルを持ち、豆田に尋ねる。
「シュガーさんまでー!」
ポロッポの涙が床に落ちる。
豆田は、ポロッポを無視し、丁寧にコーヒーを淹れる。あたりにコーヒーの甘い香りが立ち込める。
「いい匂いですねー」
ポロッポは、その芳醇な香りに、ついついうっとりしてしまう。
豆田は、シュガーとポロッポのコーヒーもカップに注ぐ。
シュガーには、ブラウンのコーヒーカップ。ポロッポの分は、ミルクピッチャーに注ぐ。
豆田と、シュガー、ポロッポは、コーヒーをマッタリと味わう。
ジャズの音色が優しく響く豆田ハウスは、癒しの空間を作り出す。
ポロッポは、コーヒーをのんびりと楽しんだ後、ハッ!とする。
「豆田様! ゆっくりコーヒーを飲んでる場合じゃないですって! 早くロフトに!!」
急ぐポロッポの後を、豆田達は追いかける。
豆田は、コーヒーを忘れない。
ポロッポは、ゲートの前に置かれたドラゴンの卵の上に乗っかる。すると、ドラゴンの卵は、淡く発光した。
『貴様らが我を倒したのか?』
と、卵は豆田達に声をかける。
豆田とシュガーは、キョトンとした表情で卵を見つめる。
『我を倒したのかと聞いておる!!』
豆田とシュガーは、無反応のままだ。
「ポロッポ! なんだ? 『グギギギ』言うているぞ?」
「豆田様! この声が聞こえないんですか??」
「ポロッポ。この卵が何か喋っているの?」
シュガーはポロッポに尋ねた。
ポロッポ。頭を数回傾げ、
「我を倒したのは貴様か? と聞いています」
「ほう。興味深い。ポロッポはドラゴンの話が分かるのか?」
「ええ。分かるみたいです。豆田様は聞こえないですか?」
「ああ。全く分からん! ポロッポ。通訳を頼む。」
「え? 分かりました。」
ポロッポは、姿勢を正して咳払いをする。
「では、ここからは、卵が言ったことをそのまま言いますね!」
「ああ。ポロッポ。頼む。」
ポロッポは、胸を張り、声色を変える。
「あー。あー。あー。」
少し偉そうな声を選び表情を作る。
『我はギース。我を倒したのは貴様か?』
(豆田まめお。大丈夫かしら? 気を付けて発言しないとドラゴンがここで暴れて大変なことになるんじゃ……)
シュガーの心配を他所に豆田は、
「ん? なんだと。偉そうだな!!」
(あ-。豆田まめおは、そうですよね……)
シュガーは背中に冷たい汗が滲んだのを感じた。
「おい。卵! お前を倒したのは私だ!」
『ふはははは。貴様のような小僧がどうやって我を倒したのだ?』
「なんだ? 記憶が抜けているのか?」
『気が付いたら、卵になっておった! 説明せよ!!』
少しムスッとした豆田は、眉を上げ、思考する。
「偉そうだな。よし。シュガー! ケチャップもってきてくれ!」
「え? 何に使うの? まー。分かったわ」
シュガーは階段を駆け下り、キッチンからケチャップを取ってきた。
チューブ型のケチャップには輪切りのトマトのイラストが描かれている。
「豆田まめお! これでいい?」
「ああ。それだ」
豆田はシュガーからケチャップを受け取る。
『貴様!! 何のつもりだ! 我が卵から孵り次第食ってやる!!』
「ふ―ん」
豆田は不敵な笑みを浮かべ卵の前に立つと、真上からケチャップを垂らし始めた。
ネットリとした真っ赤なケチャップが、卵の側面を垂れ進む。トマトの甘い香りが広がる。
『ぎぎぎぎぎゃぎゃぎゃがっががー』
豆田は、その声を無視し、ドンドンとケチャップを垂らす。
「豆田様! 卵が泣いております」
ポロッポは、焦りながら通訳する。
「シュガー! 二本目だ!!」
「はいはい」
シュガーはキッチンに行き、ストックしてあるケチャップを探す。
豆田の性格を熟知しているシュガーは、念の為残っているケチャップをすべて持ってロフトに戻る。
『やめてください。我が悪かったです。すいません』
「分かればいい!!」
2本目のケチャップを手に持ったまま豆田は偉そうに話す。
『貴様は……』
「き・さ・ま・だと??」
豆田は、ケチャップの蓋を開ける。
『すいません。あなた様は……』
「よし!」
豆田はケチャップの蓋を閉める。
『あなた様は、どのようにして我を倒されたのですか?』
「よし! 教えてやろう! まず500メートル先から、狙撃。睡眠弾を使用して……」
『貴様!! 睡眠弾だと! なんて卑怯な!!』
豆田は、無表情のまま2本目のケチャップの蓋を開け、一気に垂らす。
卵の頂点から垂らされたケチャップは行き場を失いポタポタと床に落ちる。
『ぎぎぎぎぎゃぎゃぎゃがががぐおー』
豆田は二本目のケチャップを使い切る。卵の上3分の1は真っ赤に染まった。
『すいません。本当になんか上から垂らすのやめてもらえませんか?』
「ケチャップだ!」
『ケチャップは勘弁してください』
「次、生意気なことを言えば、3本目だ! 気孔を完全に塞いで酸欠にしてやるからな!」
『ぎぎぎぎぎゃぎゃぎぎぎぎぎだだだな』
震えるドラゴンの卵。大泣きしている様子が外からでも分かる。
ポロッポは、卵が少し可哀想になった。
「豆田様、本気で嫌がってますよ」
「いいか? 卵! そのまま死んでも、こちらは、何も問題ないんだぞ!」
『本当にすいません。500メートル先からの睡眠弾。素晴らしいです。はい。睡魔に襲われて、記憶がなかったのですね。なるほど。納得しました。分かりました。』
「分かればよい」
豆田は腕を組み偉そう。
『すいません。主様』
(あ、主様になっているわ)
シュガーは、後方でクスっと笑う。
「なんだ? 卵。言ってみろ!」
(流石、豆田まめお。完全に主導権を握ったわ)
『あの。できれば、卵から孵りたいのですが……』
「ダメだ」
豆田はキッパリ断る。
『そこを何とか』
「だめだ。そう言っても出てきたら、私たちを襲うだろ?」
『いえ。そんなことは絶対しません』
「証拠がない。無理だ!」
そう言うと豆田はシュガーの方に向かい
「残念だが、シュガー。大鍋の用意を」
シュガーも流石にドラゴンの卵が可哀想になってきた。
「豆田まめお。何とかしてあげられないかしら?」
「無理だ。コイツは、羽化した途端襲う気だ」
シュガーは、卵の前にしゃがみ。
卵のケチャップのついていない部分に両手で優しく触れる。
「卵さん。襲わない事を証明できる方法はない? このままだとあなたは茹で卵よ。明日の朝食よ」
(優しいようで、言ってることは豆田様と同じだ)
と思い、ポロッポは、苦笑いする。
『実は我の世界には主従契約というのがありまして』
「ほう」
豆田は片眉をあげる。
『その契約を結ぶと、主人に逆らうと大変な事になるんです』
「なるほど。逆らうとどうなるんだ?」
『もし、逆らうと従者は命を落とす。と言う契約になります』
「ほう。それは私に何の得がある?」
豆田は、シュガーに三本目のケチャップを催促するジェスチャー。
シュガーは、新しいケチャップの蓋を開け、豆田にいつでも渡せるように準備する。
『あの。ドラゴンが従者になるんですよ?』
「いや、別に。魅力を感じないな」
『背中に乗って、空を飛べますよ!!』
「いや。興味が……」
(え? 空を飛べるって事は……)
「豆田まめお。ちょっと待って! 卵さん。それは飛んでどこまでも行けるの?」
『もちろんです!! 違う大陸でもひと飛びです!』
「豆田まめお!」
豆田は首を傾げ考える仕草をする。
「でも。違う大陸に用はないしなー」
「豆田まめお! 新しいコーヒー豆に出会えるかも!!」
豆田は、シュガーの言葉に『ハッ!』とする。ついで、口元がニヤリ。
豆田の頭の中は、【素晴らしいコーヒー豆との出会い】の妄想で一杯になる。
「なるほど! 良し契約しよう!」
(シュガーさん。豆田様の扱いが慣れておりますね)
ポロッポは、感心する。
『では、主さま。すぐに主従契約を行いますか?』
「そうだな」
『主様の、お名前は?』
「豆田まめおだ!!」
しばらくの沈黙のあと、ドラゴン『ギース』は唸るような声をあげる。
卵を中心に半径2メートルの魔法陣が浮かび上がる。その幾何学的な模様は、ゆっくりと回転し、青白く発光する。
『豆田まめおを主人とし、我、深紅のドラゴン。名をギース……』
「ポチだ!」
『え?』
「今からお前はポチだ!!!!」
『我はギース!!』
「シュガー!! ケチャップだ!!!」
シュガーは、ケチャップを豆田に素早く手渡たした。
『ああああ。そうでした! 我はポチです』
「よし!やり直せ!」
ドラゴン『ギース』改め、ドラゴン『ポチ』は、再度、契約をやり直す。
ドラゴン『ポチ』は情けない声をあげた。
『豆田まめおを主人とし、我、深紅のドラゴン、名をポチ……』
再度、卵を中心に魔法陣が浮かび上がる。その幾何学的な模様は、ゆっくりと回転し、青白く発光する。
『ここに永遠の主従契約を結ぶ』
魔法陣の光が円柱状に伸びさらに発光する。
ついで、豆田の足元とドラゴンの卵の下に小さな赤い魔法陣が出現し、そこから発せられた光が、両者をつなぐ。
豆田は、胸の奥に温かい力が宿るのを感じた。
『主様。これで、契約は完成だ。我、ポチは豆田まめおの従者となる』
魔方陣は消え、ロフトは見慣れた景色へと戻った。
「豆田まめおが、ドラゴン使いになるのね」
シュガーは、目をキラキラさせ嬉しそう。
「はは。面白い。コーヒー使いとドラゴン使い。合わせて、コーヒードラゴン使い?」
「豆田まめお。一つに合わせたら、おかしいわね」
「じゃー。コーヒー使いだけでいいか」
「ふふ。今までと同じね」
このやり取りをポロッポは、冷めた目で見る。
『あの。安全が確保できたという事で、そろそろ孵って良いでしょうか?』
「んー。では、明日だ!!」
『え?』
「ポロッポ。温めてやれ!」
ポロッポは、びっくりした顔。
「え? 私いります?」
「いるだろ」
「え? すりこみの必要なくなりましたけど……」
「じゃー。頼んだぞ!」
豆田は、ケチャップだらけの卵の上にポロッポを乗せた。
『ぬちゃ』
「うわ! 豆田様! 何するんですか?」
豆田は笑顔を見せると、階段を降りて行った。
残されたポロッポの長い夜が始まった。
ご覧いただきありがとうございます!
「面白い!」「続き読みたい!」など思った方は、ぜひブックマーク、下の評価を5つ星よろしくお願いします!
していただいたら作者のモチベーションも上がりますので、更新頻度あがります!
どうぞよろしくお願いいたします!
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




