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豆田探偵事務所②

「ところで、シュガー。アシスタントの仕事として、今すぐやって貰いたい事が一つあるんだが……」 


 豆田は急に真面目な口調で話し始めた。


「あ! 何をすればいいですか?」


 シュガーは、姿勢を正した。


「実は私は敬語を使われるのが苦手なんだ。悪いが敬語はやめてくれないか?」

「……」


 しばらくの沈黙の後、シュガーは大きく息を吸ってから、


「分かったわ! 豆田まめお。これでいい?」と、元気に答えた。


「シュガー。流石だ。素晴らしい。では、アシスタントとして、これからよろしく頼む。契約期間は先ほどの報酬分として、ひと月でどうだ?」

「え? その期間だけでいいの?」

「ああ。無理やり働かれるのも嫌だしな。もし契約期間後も働いてくれるなら、その時は給料を渡そう」

「嫌なら続けなくて良いってことね?」

「ああ。それで頼む」

「分かったわ! 豆田まめお。で、具体的にアシスタントって、何をしたらいいの?」

「それはだな。まずは探偵業の補佐。必要な物の買い出し……。そして、1番やって貰いたいところは、私の足らないところを補って貰いたい」

「足らないところ?」


 シュガーは首を傾げた。


「ああ。私は探偵業と、コーヒーについては優秀なんだが、それ以外がまるでダメでね」

「そうなの?」

「ああ。ひどいんだ。ある事に夢中になると、全く他の事が出来なくなってしまうタチでね」

「あ! カフェテラスで会った時も?」

「ああ。あの時もそうだ。これから迷惑かけると思うが、よろしく頼む」

「分かったわ。任せて!」 


 シュガーは、今できる精一杯の笑顔を見せた。

 豆田はアシスタントが出来た事が余程嬉しいのか、にこやかな笑みを浮かべてから、コーヒーを一口飲んだ。


「そうだ。シュガー。クロワッサンしかないが食べるか?」


 その言葉で聞いて、朝から何も食べていなかった事をシュガーは思い出した。


「食べたいかも……。貰っていい?」

「ああ。すぐに用意する」


 コーヒーを片手に立ち上がった豆田は、キッチンに入ると、棚からクロワッサンを取り出し、楕円形の木製の皿に乗せた。


「シュガー。カウンターに置くぞ」

「分かったわ。じゃー、そっちに行くわ」

「コーヒーのおかわりは?」

「まだあるわ。ねー。これにミルクを入れていい?」

「もちろん。ミルクに合わせた濃さにしてある。試してみてくれ」


 飲みかけのコーヒーとミルクと砂糖を持って、シュガーはキッチンカウンターに移動した。

 カウンターチェアーからは、キッチンの内部が良く見えた。


 濃いブラウン色のタイルが貼られたキッチンには、豆田のお気に入りのコーヒーセットが綺麗に並んでいた。コーヒーミルだけでも5つある。


「キッチンもオシャレね」

「だろ? コーヒーを飲む空間にも『こだわり』があるんだ。よし。せっかくだからBGMもかけよう。コーヒー銃!」

「え?」


 豆田の持つコーヒーカップから、プカプカと、直径15センチほどの球体が浮かび上がった。浮かび上がった球体は数個の塊に分裂したあと、それぞれ拳銃と小さな弾丸に変化した。


 拳銃は豆田の右手に移動し、浮遊していた弾丸はシリンダーに装填された。


「よし。いい『こだわり』だ。目標まで距離10メートル5センチ。破壊力を押さえ……。いけ!」


 銃口から飛び立った弾丸は真っ直ぐ飛び、オーディオのスイッチに当たった。


 ソファー横の棚に設置されたオーディオの電源が入り、その横にある大きなスピーカーから、メインフロア全体に優しいBGMが流れた。


 豆田が手を離すと、コーヒー銃は浮遊する球体に戻った。


「え? 何をしたの?」

「ん? オーディオのスイッチを押しただけだが……」

「違う違う。その……。え? コーヒー?」


 シュガーは、豆田のコーヒーカップから浮き出ている球体を指差した。


「ん? さっきカフェテラスで見ただろ?」

「見たけど分らないの。それは何?」

「ん? こだわりのコーヒー」

「いや、そうじゃなくて」


 シュガーがキチンと聞き直そうとした時、玄関の扉が開く音がした。


『ギギギーー』


 その音が聞こえると、豆田の眼光が急に鋭くなった。


「シュガー。依頼人のようだ」


 そう言うと、豆田は指を口元に持って行き、シュガーに「シィーーー」の合図を送った。浮遊していた球体はカップに戻る。


『ギシギシ』と、階段の軋む音が聞こえる。豆田は、それに耳を傾けるとブツブツ呟き出した。


「この扉の開け方は、右利きの165センチ。階段のきしみ音は、体重83キロ。そして、この独特の階段を昇るリズムは、左の腰痛持ち。なんだ……。パン屋『ショパール』の店長マウロか」


 豆田はそう推理し終えると、階段を昇ってくる人物に向かって、声をかけた。


「店長! ちょうどオタクのクロワッサンを頂こうとしていたところだ」

「豆田さん。それは食事時に悪かったね」

「いや、気にしなくていい。急用だろ?」


 キッチンから見える高さまで階段を上がってきた調理服を着た男は、いつもの事なのか豆田の推理に驚きもしない。


「豆田さん。実は今日は依頼があって、ここに来たんだ」

「分かった。では、ソファーに座ってくれ。話を聞こう」


 頭をペコっと下げたマウロは、メインフロアに上がり、ソファーに腰掛けた。そして、床を見つめながら深い溜息を一度ついた。


「で、店長。依頼の内容は?」


 顔をあげ、依頼内容を話そうとしたマウロは、カウンターに座るシュガーの存在に気付いた。


「あれ? 豆田さん。そのお嬢さんは?」

「ああ。彼女はシュガー。さっきアシスタントになったところだ」

「初めまして、シュガーです」


 シュガーは丁寧にお辞儀をした。


「初めまして。私はパン屋『ショパール』の店長のマウロ。よろしく」


 マウロは、簡単な挨拶をすると豆田の方を見つめ本題に入った。


「豆田さん。実は困ったことになってね」

「ん? それは、その疲労度合いと関係あるのか?」

「え……? 流石、やっぱり豆田さんにはすぐにバレるか……」

「で? 何があった?」豆田は、鋭い口調で尋ねた。

「実は、店の従業員のカエデが行方不明になってね……」

「あの優秀な子か。いつからなんだ?」

「昨日からなんだ」

「たった一日でそんなに深刻な事態になるのか?」

「弟と買い物中に急に居なくなったらしいんだ。状況を詳しく聞いたんだけど、どうも普通の事件とは考えにくくてね……」

「なるほど、で、店長は『こだわリスト』の関与を疑っていると……」


 唇を噛みしめながらマウロは、首を縦に振った。

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