ドラゴンの咆哮
深紅のドラゴン『ギース』は怒り狂っていた。
この小さな島に閉じ込められて、もう5年は経っている。
『ギース』は何度も脱出しようと試みたが、島の周囲を覆う魔法壁に阻まれ、この場所に縛り続けられている。
今日も太陽が地平線から顔を出した瞬間から、魔法壁にブレス攻撃を仕掛け続けているが、ギースの持つ最大パワーを込めたブレス攻撃でもこの巨大な魔法壁を破壊するまでには至らない。
この5年間、島中の魔法壁に向かって闇雲にブレス攻撃を続けて発見できたことは、火山の噴火口の真上の魔法壁が他の場所よりは、大きく揺れる。と、いう事だけである。
『くそ! 忌々しい魔法壁め!』
ギースは、苛立ちながら、その深紅の巨体を上空で回旋させスピードを上げる。
この魔法壁で囲まれた半径3キロの小さな島は、ギースが本気で加速すれば、島の端から端まで2分もかからない。つまり、かなり窮屈なのだ。
600年前に封印されたガラス玉の中と比べたら、快適ではあるが、5年前にやっと封印がとけ自由になれたと思ったら、今度はこれである。
窮屈な島には、確かに腹が立つが、ギースはそれ以上に600年前の失態。そして、この魔法壁を破れない自分に苛立ち、島中に八つ当たりをしてしまう。
魔法壁ギリギリの高さまで高度を上げたギースは、島全体を見下ろす。
薄いピンク色の海に浮かぶ小さな島。ギースの寝床でもある火山は現在噴煙を上げてはいないが、いつ噴火してもおかしくない迫力を感じる。
その火山の周囲は、熱帯植物が茂る青々とした森が広がっている。その森の至る所に、ギースが八つ当たりして出来たクレーターが点在する。
ギースは、しばらく同じ高度で停滞したのち、南西の森に狙いを定め急降下を開始した。
翼を折りたたみ、空気を切り裂き、地面ギリギリまで一気に降りると、今度は大きく翼を広げ、急停止した。
その圧倒的な存在感は、南西の森に住む生き物すべてに絶望を与え、死を覚悟させた。
ギースは、森に降り立つと、大きく顎を広げ、咆哮をあげる。
次の後、『ギギギ』と空間を鳴らす音をたてながら、ギースの口元にエネルギーが集束していくのが見えた。
『バゴーーン!!』
集束したエネルギーは一気に放出された。
ギースから放たれた炎の塊は、地面と接すると同時に、地面をえぐり、爆音をあげ、周囲に猛烈な風を起こす。炎をまとった熱風は周囲の熱帯植物を焼き、大きなクレーターを作り出す。
ギースは、焼けた森には見向きもせず、視線を空に向け魔法壁を睨むと、大きく翼を広げ羽ばたき、森を後にした。
***
「先ほどの咆哮は、いつもより激しかったのー」
「じいさま。豆田まめお神様が退治してくれるよ!」
「そうじゃな。きっとあの方が助けてくださるの」
じいさまは、小さく頷くと、ツボに入れておいた御供をカタルに手渡す。
「じいさま。祭壇に持って行ってくる!」
カタルは、お供えを大事そうに抱えながら元気よく祭壇に向かって走っていった。
じいさまは、その姿を眺めながら、神に祈る。
(あの子の未来に何卒幸せを)
***
祭壇に到着したカタルは、今日はまだ動いていない紫と黒の渦巻きの前に御供を置いた。
「豆田まめお神様。あのドラゴンは今日も暴れまわっています。僕もじいさまもいつまで生きれるか分かりません。助けてください。お願いします」
カタルは、頭を下げ、必死に祈る。
祈り終えたカタルは、小屋に帰ろうとしたその時、紫と黒の渦巻きは振動音をたてながら時計回りに動き始めた。
カタルの顔に笑みがこみ上げてくる。
渦巻きから、大荷物をもって現れた豆田は、カタルを見かけると、
「カタル少年。今日が決戦の日だ。爺さんを呼んでくれ!」
と、声をかけた。
「豆田まめお神様! すぐに呼んできます!!」
カタルは、希望に目を輝かせながら、小屋まで走っていった。
***
再度、振動音が響き渦巻きが動き出し、中からバスケットと大きなトランクを持ったシュガーが現れた。
「豆田まめお。これで全部よね?」
「ああ。そうだ」
そう言った豆田も大きな革製のトランクを一つ持っている。年期の入ったアンティーク調のそのトランクにも豆田の『こだわり』を感じることができる。
豆田はトランクを足元に置き、爺さまの登場を待つ。コーヒーを飲むその姿からは、いつになく緊張感が漂っていた。
ほどなくして、カタルと爺さまが、全速力で走ってやってきた。
額に汗をかき、肩で呼吸している爺さまは、呼吸を整えることも忘れて話し出す。
「豆田様! ほ、本日ですか!!」
「ああ。そうだ」
豆田は簡潔に答えた。
喜ぶカタルとじい様。
「そうだ。爺さん。確認したいことがあるんだが……」
「豆田様。何でしょうか?」
「爺さんやカタル少年は、渦巻き。ゲートと言うべきか。には、入れないのか?」
「わしらが触って動いた事は、一度もございません」
「では、私達と一緒ではどうだ?」
「どうでしょうか……。全く分かりません」
「そうだな。一緒にゲートを通過できるなら、ここから逃げ出せる。つまり、ドラゴンを退治しなくても、暮らすことは可能だ」
「なんと、そのような事が!」
「分からん。早速やってみよう。シュガー! カタル少年と、手をつないでゲートに入ってみてくれないか?」
「豆田まめお。分かったわ!」
シュガーは、カタルに向かって優しく手を差し伸べる。カタルは、照れくさそうに手を掴んだ。
「じゃー。試してみるわね」
「シュガー様。宜しくお願いします」
シュガーは、ニコッと微笑むと、ゲートに手をかざした。紫と黒の渦巻きは、振動音をたて時計回りに動き始める。
シュガーと、カタルは、目を合わせて頷くと、意を決して渦巻きに向かって一歩踏み出した。
シュガーの身体は、ゲートに溶けるように消えていったが、カタルはガラスの扉に弾かれるのと同じように、ゲートに入る事は出来なかった。
「豆田まめお神様。やっぱり入れないみたいです」
半ベソのカタル。
「やはり、無理か。しかし、どのような原理だ? 何か法則があるのか?」
豆田は思考の世界に入ってしまう。
カタルと爺さまは、それを見守る。
『ヴーーン』
ゲートが再度振動し、シュガーが戻ってきた。
「豆田まめお。カタル君は通れないのね」
シュガーの声で、思考の世界から戻る豆田。
「そうだな。やはり無理か」
「無理だと分かってて試したの?」
「ああ。そうだ。出来ない事を確認することも大切だ。特にこのような初めての場所では尚更必要だからな」
「そっか……。で、どうするの?」
「ま、予定通り行くしかない。シュガー。まずは2人に持ってきたものを」
「あ、そうね! カタル君。これをどうぞ」
シュガーは、持参したバスケットとトランクをカタルに渡した。
「シュガー様。これは?」
「これは、こっちのトランクの方に、保存食と着替えが入っているの。で、バスケットの方はサンドイッチと、スコーン。それにチョコレートが入っているわ」
「ちぃよれーと?」
「チョコレートね。甘くて美味しいわよ。全部食べていいからね」
「え? 頂いていいんですか?」
カタルは、豆田の方に視線を送る。
「カタル少年。楽しんで食べてくれ」
「豆田様。ありがとうございます」
じい様は、深々と頭をさげる。
「まー。爺さん。このドラゴン退治だが、私は危なくなったら逃げる。失敗したら、その保存食で頑張れ!」
「豆田まめお!! 言い方が!」
「シュガー様。ええんですじゃ。本当の事を言っていただける方が、わしらは嬉しいんです」
「爺さん。失敗したら、ゲートが繋がっている限り、食料だけゲートの向こうから投げてやる。ま、ゲートはいつ閉じるか知らないがな」
豆田は楽しそうに笑う。
(豆田まめお。正直すぎるわ)
シュガーは呆れかえった。
カタルは豆田の前に立ち、
「大丈夫です! 僕は豆田まめお神様がドラゴンを倒してくれると信じてます」
豆田は眉を上げると、カタルの頭をポンポンと撫でた。
「シュガー。じゃー。行くとするか」
「そうね。2人は小屋で待っててくださいね」
そう言うと、豆田はトランクを持ち、ギースの住む火山に向かって歩き始めた。
シュガーは、身軽な恰好でその後を追いかける。
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人物紹介
・『豆田まめお』
主人公。探偵。コーヒーの『こだわリスト』
コーヒーから『こだわりエネルギー』を抜き出し、自在に操る能力者。
コーヒー銃。コーヒーソード。コーヒー鍼。などを使う。中折れ帽子にシャツ姿。わがままで癖が強い。
・『シュガー』
ヒロイン。ココア色のロングヘアー。
世界を救うために、アルテミス国軍から脱走する。
『純人』。豆田まめおのアシスタント。純粋。
・『クロス』
豆田の幼馴染。刑事。
箱の『こだわリスト』。金髪ショートボブの好青年。
天然ボケ。
・『ポロッポ』
ハト。王様に使える伝書鳩。
鳴き声の『こだわリスト』で、人の言葉も話せる。
用語説明
・『こだわリスト』
こだわることで不思議な能力を手に入れた人々。
戦闘に特化したタイプや、道具に不思議な能力を付ける職人タイプがいる。
・『純人』
純粋な心で物事をみる人々。
職人タイプの『こだわリスト』が作る道具を何でも扱える。
・『異界の者』
違う世界から現れたと言われる人々。
『こだわリスト』と『純人』にしかその姿は見えない。




